第425話 チカラを合わせて at 1996/1/13
「……っと」
こうして僕ら『電算論理研究部』の三学期のテーマ・目標は、『西中まつり』で展示した一連のプログラムの仕様書を作成することと決まったのだった。
はじめは『高精度相性診断プログラム』だけでも、と考えていた僕と渋田だったが、みんなが思い思いのカタチで協力してくれるということで、他のプログラムたち――ツッキー考案の『n進数変換プログラム』と佐倉君考案の『タイピングバトルゲーム』だ――もきちんと仕様書として書き残しておこう、ということになったのである。
ただ、後者のプログラムふたつに関しては規模が小さいので、今後を見据えたより発展させる前提での仕様書にしよう、ということにした。それぞれ単体でも十分楽しめるような仕掛けやストーリーや設定を追加することにしたのだ。
「ええと……そっちはどうかな? ツッキーが違和感を覚えたところは、赤ペンで印つけてね」
「あ、は、はい。あ、あの……さっそくここなんですけど……?」
「うん? ………………あー、そっか。ちょっとこれだとわかりづらいかもね。うん、直そう」
「ねえねえ、ツッキー! 僕のもチェックお願いしまーす!」
「り、了解です、渋田サブリーダー。ふふふ」
僕ら仕様書作成グループの他に、ハカセを中心とした改修計画検討グループがある。
「こ、ここなんですけど、タイピングできるワードって何も英語にこだわる必要ないですよね」
「……というのは?」
「キーボードの文字配列に慣れてもらうのが狙いなので、ローマ字を入力させるのでもいいのかなって。それにその方が実用的だし、はやりの言葉とかがあった方が親しみやすいかなって」
「いーじゃんいーじゃん、かえでちゃん! あたし、そっちの方がスキかも!」
「あ、いえいえいえ! そこまでのアイディアってほどでも……えへへへ」
「その……インターネット? っていうので、はやりの言葉を探して登録するとか?」
「スミちゃんさん、それはいいかもしれません。あくまで手動作業になりますが」
「誰かが代わりに検索して、勝手に登録してくれたらいいのにねー」
なかなか恐ろしく鋭い着想点が出てきたりして、僕は思わず冷や汗をかく。『インターネットで検索して』『誰かが勝手に登録する』――もうそれは、検索エンジンや検索ロボットの仕組み・アイディアにほぼ近いものだ。だが、僕は例のマニュアルの一文を思い出していた。
『過去の歴史上、まだない新技術を新開発することは不可能です――』
つまり、この中からYahoo!やGoogleをしのぐ世界的大企業の基盤となるものを作り出す『未来の発明家』は生まれない、ということだ。
「おっと、こんな時間か……。ちょっと悪いんだけど、今日は僕、用事があるんだ」
「え………………? あ、あたしっ! 聞いてませんけどっ!?」
「こわい! こわいよ、スミちゃん! 変なことじゃないって。家の用事を頼まれててさ」
反射的に僕は、難しい顔で渋田が作った仕様書のチェックをしているツッキーを見たが――当然カノジョがそこにいて、カノジョではない。急いで通学鞄に荷物を詰め込み、立ち上がる。
「じゃあ、お先に。みんなもあんまり遅くまでやらないように、キリのいいところで帰ってね」
「大丈夫大丈夫! 副部長のボクが帰るっていったらみんなも帰らせるから」
「オッケイ。頼んだぜ、シブチン」
そして僕は、昇降口へとひとり急ぐ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
(……出てきた! こんな明るい時間から出かけてるのか……でも、こっちにも都合がいい)
一旦家へと帰り、全身黒っぽい私服に着替えてきた僕は、少し離れた位置に見える団地棟のとある玄関口から華奢な体格のひとりの男性が出てくるのを見つけ、歩いていく方向を見定めてから今までベンチ代わりに腰かけていたグリーンの鉄柵から立ち上がった。
水無月笙――ツッキーのお父さんだ。
(僕だってこんな怪しい真似はしたくないんだけど……絵のありかを突き止めないと……!)





