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第420話 天神様のいうとおり at 1996/1/1

(ああ……静かだな……)



 誰もいなくなった神社の裏地に風が通り抜け、さらさらと枯れた笹の葉を揺らしている。



(これでいい……これできっと、ムロとロコはうまくいくはずだ……これで……いいんだ……)



 風が僕の頬を優しくなでる。



「まったく……いっつも、無理、するんだ、から……」



 いや――僕の頬を優しくなでていたのは純美子だった。


 とたんに僕は現実に引き戻される。

 慌ててカラダを起こす。が、たちまちカラダが悲鳴を上げた。



「う……あっ! 血が……大事な振袖が汚れちゃうよ! ダメだ、ダメだって、スミちゃん!」


「……いいの。黙って看病されてなさい。すっごい……心配……したん……だから……っ!!」


「……えと。……ご、ごめんね?」


「スミは許しませんからね! 馬鹿っ! 馬鹿馬鹿馬鹿っ!」


「痛っ! 痛たたた……! 僕、怪我人なのに、えええ……」



 看病されつつ、同時に致命傷レベルの突きを脇腹に喰らう僕。

 生かさず殺さずとはまさにこのことだろう(いや、たぶん違うだろうけど)。


 それでも無抵抗にされるがままにしていると、ようやく気が済んだのか、純美子は振袖の帯にはさんでいたらしい開きかけの『おみくじ』取り出して、僕にそっと手渡した。






『大――凶』






「やっぱり『おみくじ』って当たるんだね。ほら、ここ。読んでみて?」


「なになに? 『争事(あらそいごと) (いまし)めよ。相手にゆずれ』って……。うーん、別に譲る譲らないのハナシじゃなくってね? ぜんっぜん歯が立たなかっただけなんだけど……やっぱ、強かったなぁ」


「そんなこと言って……わざと手を出さなかったくせに」


「い、いやいやいや! 出してたって同じだって! スミちゃんは僕を過大評価しすぎだよ!」



 そう言って顔の前でしきりに手を振りながら、否定する。手を出さなかったのは、ムロに万が一にでも怪我なんてさせたくなかったからで、僕が悪いってことを自覚していたからで。


 と、手渡された『おみくじ』の別の項目を見て、フクザツな気持ちが湧いてくる。



(『恋愛 いずれか定めよ。荒れる』って……。どっちかはっきりしろよ、ってことか?)



 オトナになった今は、『おみくじ』は山口県の某所でほぼ八割の数が製造されていて――などと、サンタクロースが父親だと知った子どものように夢のないことを言い出す僕なのだが、それでも確率と運と願いがうまい具合に組み合わさるとキセキは起こるもんだと感心していた。




 どちらか決めよ。

 つまり、スミちゃんか、ロコか。




(この項目も、スミちゃんは見てるはずだろうけど……)



 こっそり盗み見たつもりが、おだやかな顔つきで僕の顔の汚れを濡らしたハンカチで拭っている純美子と目が合ってしまった。少し恥ずかしそうに、少しおどけたように、その顔が笑う。



「なぁに? イタズラが見つかっちゃった、ちっちゃい子みたいな顔して?」


「い――っ! いえいえいえ! なんでもないです、はい」


「……もう大丈夫? 痛くない?」


「うん。スミちゃんのおかげで、もう普段の僕より健康なくらいだよ」


「またそんなこと言って!」


「あっ、はい。ごめんなさい……」



 僕はカラダを徐々に倒し、しゃがんだ状態に体勢を変えてみる。うん、もういけそうだ。それから背筋を伸ばして、しっかりと立ってみる。ぐっ――吹く風が冷たくて、傷口にしみた。



「ふぅ」


「ホントにもう……ケンタ君と一緒だと、すべてが強烈で、どれも忘れられない記憶だよ……」


「あ、あははは……。ホ、ホントにごめんね? えっと……とりあえず………………帰ろっか」




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