第417話 初詣(3) at 1996/1/1
――がらん、がらん。ちゃりん。
二礼、二拍手、一礼――。
「じゃあ、あたらめて今年もよろしくな、モリケン」
「こちらこそだよ、ムロ。今年もよろしくお願いします」
「――っ。………………じゃあ、行こう、ロコ」
長い行列もやがて終わりを告げ、無事参拝を終えた僕たちは、社殿の前で別れることにした。最後の去り際に、室生は何か言おうとしたみたいだったけれど――結局口には出さなかった。
「ね? 室生君とどんなお話ししてたの? ずいぶんハナシが弾んでたみたいだったけれど?」
「あ、ああ、うん。まあね――」
こういうところが室生の持つ常時発動型の特技のチカラである。ホントは険悪な仲であろうと、はたから見た時には決して不快な印象を与えないのだ。
「スミちゃんとロコ、どっちの振袖がよく似合ってるのか、とかね。いわゆるカノジョ自慢?」
僕のセリフの、これもまた嘘ではないのだから許されるだろう。
たちまち純美子の頬が寒さ以上に反応してピンクに染まった。
「ふ、ふーん……(照)」
「ほ、ほら! 初詣と来たらさ、やっぱりお決まりの『おみくじ』でしょ! なんかさー、これやらないと、年が明けた気がしないんだよねー。まあ、大体いいのは出ないんだけどさ……」
「はいはい。じゃあ引いてみようね」
おっ、激レアの純美子ママモードだな。しきりに手を引く僕に苦笑しながらついてくる。一応ここではっきり断っておくけれど、僕にそういう歪んだ性癖や願望はない――はずである。
――ちゃりん。ごそごそ……。
「はいっ! 出ました! 開けます!」
ぺりり、と開けて、お目当ての場所をおそるおそる見る――と。
「おっ! 大――!!」
「きゃあぁあああ! や、やめて! こ、来ないでっ!」
「くっそ! なんなんだよ一体!?」
僕は反射的に途中まで開いていた『おみくじ』を閉じて顔を上げ、声のした方向を見る。さすがというべきか、声や音に敏感な純美子の方が先に気づいていたらしい――そのある事実に。
「い、今の声………………ロコちゃん、だったよね!?」
「だと、思う! 僕も!」
なぜか少しフクザツそうな表情をしている純美子に途中まで開けた『おみくじ』を押しつけて――一瞬ためらった僕だったが、ぱあっ、と大輪の椿がほころぶような笑顔に押される。
「……行ってあげて、ケンタ君! あたしの『スキ』なケンタ君は、きっと駆けつけるから!」
「う、うん! ごめんね! 待ってて! 行ってくる!」
振り返って社殿からゆるく下っていく境内を眺めたが――どこから今の叫び声が聴こえたのかまったくわからない。とにかく人、人、人の群れだ。正月ということもあってテキヤの屋台が出ていて余計に雑然としている。が、とにかく走り出した。このどこかにいるはずだ。
(くっそ……これじゃあ……! ん? そうか!)
ロコの『リトライアイテム』、あれを利用すれば見つけられるはずだ!
(ロコ……僕は……あの時からずっと……。くっそ! ぜんぜん青白い光なんて見えないぞ!)
そんな馬鹿な――と途方に暮れていた次の瞬間だった。
どすん、と横合いから甘いフリージアの匂いのする青白い光の主がぶつかってきたのだ。
「ああっ! ケンタ! どうしよう、あたし、とっても怖い! 怖いんだよ! 助けて!」





