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第412話 未来への遺産 at 1995/12/29

 てなわけで。



「まー、たしかに、文化祭の一回限りにしておくのはちょっともったいないよなぁ」


「うんうん。でしょでしょ?」



 そのままの流れで、結局五日間も渋田家に通いつめアンド入り浸りの僕です。はい。



 渋田の相談というのは、『西中まつり』で僕ら『電算論理研究部』の出し物の中で使用した、『高精度相性診断プログラム』つまり『恋人候補マッチングシステム』の件だったのである。渋田いわく、せっかくみんなで苦心して作ったものだし、もっと生かせる方法はないか、と。



「ただ……このまま『98(キューハチ)』上で動かす前提じゃなくって、Windows対応を考えないと」


「アレってすごいの? MSXだって人気とユーザー数なら負けてないと思うんだけど……」



 あのな、渋田。

 今のお前にはわかるはずもないけれど、その牙城は一気に崩れ去ることになるんだぜ。



 そもそもWindows95から標準機能となったインターネットへの対応を前提に考えておかないと、これからの世の中では誰からも相手にされなくなる。ソフト開発会社、ゲーム会社、いくつもの企業がここの分水嶺を見誤った結果、表舞台から消えて行ったんだぜ。



 などと中学生の僕が言えるはずもなく。

 そうとは思いつつも、かなり小難しいハナシを僕は口にする。



「ともかくだ。今のように管理者側が個々人のプロファイル情報を入力代行している時点で、一般への普及は難しいよ。パッケージ販売って手もなくはないけど、結局閉じられた世界でしか活用されないし。これからはインターネットの活用が最低条件になってくるはずなんだ」


「ふ、ふーん……途中、ちょっと意味不明だったけど、なんとなくはわかった。でもさ……」


「そうなんだ。そのためには、まずは、Windows95を手に入れないと、って

ハナシ」



 バイトもできず、おこづかいと誕生日とお年玉頼みの僕らにとっては、到底手の届かないシロモノである。これには苦い顔を突き合わせて、溜息をつくよりなかった。



「ハカセんちあたりで買ってないかなぁ」


「おいおいおい……戸建て住みでお金持ちのハカセなら、って言いたいのか?」


「い――いやいやいや! そんな嫌味なつもりないんだけど。新しい物、好きそうじゃない?」


「ま……たしかに。先見の明もありそうだから、可能性はあるんだろうけど」



 世界的大企業ともなれば、インターネットを活用したネットワークの構築もじき思いつくだろう。もちろん、本場アメリカで行われた一般プレビューの内容もリサーチしているはずだ。


 とはいえ、それを僕らに使わせてもらえるかというとハナシは別である。



 それにそもそも、インターネット通信に必要な環境が、当時の日本にはまったくと言っていいほど揃っていなかった。次期OSとなるWindows98が発売された一九九八年の時点で、ようやく国内のインターネットの人口普及率が10%を超えた。ようやく一割だ。そして、今となってはお懐かしいISDNが登場し、二〇〇〇年を境にADSLが普及しはじめてから、ようやく一般市民にも無限に広がるインターネットの世界への入り口が開けて行くのである。



 そう考えると、今この場でできることは少ない。



「うーん……。いや、待てよ……?」



 しかし、最も大切な工程があることに気づいた。



「なあ、シブチン。作るのに一生懸命で、僕ら、ちゃんとした()()()って作ってなくないか?」


「ないないない! つーか、その仕様書っての、必要なものなの?」



 ……ま、そういう時代でもあったっけ。

 プログラムのソースコードみたらわかる、的な職人気質が根強かったのも事実である。



「もしこれを、Windows対応のインターネット対応として作り替えるとしたら、実際の手を動かす作業はかなり先のハナシってことになる。その時に、わざわざソースコードを一から読み返すのって馬鹿々々しいと思わないか? だったら、仕様書ってカタチで残しておけばラクなはずだ。それなら別の言語で作る場合でもスムーズだし……って、おい! 逃げるな!」




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