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第405話 疾れ――! at 1995/12/23

 ――だだだだだん!



 木曽根団地の階段は、手すりもなく、いまどきにしては一段一段の幅が狭く、高さも低くて横幅も狭い。おまけに踊り場部分に設けられた開口部には窓ガラスもはまっておらず、冬の凍てつく空気と微風に煽られて迷いこんだ羽毛のような真っ白な雪が舞いこんでくる。



 ――だだだだだん!



 僕はそれにも構わずほとんど飛び降りるようなスピードで五階から延々と続く階段を駆け下りて行く。ちょっとバランスを崩せば、ぐきり、といってねんざか骨折だ。けれど、僕は一切スピードを落とす気はなかった。もう――時間がない。



 ――だだだだだん!



「――――――!!」



 向かいの棟のどこかのベランダ越しに酔っぱらったような口調で怒号が飛んだが、それすら僕の耳にはロクに聴こえてはいなかった。玄関口を出て、一瞬、右か左かを迷う――左だ!



(結構積もってる……っ! 足、滑る……っ! くそくそくそ……っ!)



 ホー1号棟の前の道を全力で走る。


 雪が降りはじめてから、まだ誰もこの上を歩いていないらしい。僕の精いっぱいの歩幅の靴跡が、どん、どん、どん、と純白に漆黒の穴をうがつ。転ぶ恐怖なんてもう捨てた。忘れた。



(ロコの家……台所側はもう真っ暗だ……! でも、ベランダ側からなら、きっと……っ!)



 再び走り出して、団地棟の脇を回りこみ、芝生へと出る。ここももう真っ白だ。



 ――チッ、チッ。



 ロコの家のある二階に向けて舌打ちに似た音を出す。だが、しんしんと降る雪のせいで、音が吸いこまれてしまったかのように僕のくちびるの先にまとわりついたまままったく響かない。



(届かない……!? そんな馬鹿な……!)



 ――チッ、チッ。



 やはり音は掻き消されてしまい、ロコの部屋の窓も一切の反応がなかった。



(どうする……!? 考えろ、古ノ森健太っ! ………………そうだ、これなら!)



 一階の部屋の二面の窓には、あいからわずカーテンすらかけられていなかった。ということは、まだ空き家の状態なのだ。ならば、僕がベランダをよじ登ろうが誰にも気づかれない――とっさにそう判断したのだ。



(ぐっ……! うっ……! こなくそぉおおおおお……っ!)



 子どもの頃から棒のぼりは大のニガテだった。


 世田谷にいた頃はやせっぽちで貧弱すぎて。

 町田に来てからは重すぎて支えきれなくて。



 でも、ここで登らないと何も伝えられない。

 ここで登りきらなければ、ロコの気持ちを確かめることなんてできない。






 ――ズルッ!






(が……っ! あ、危なかった……。でも、なんとかたどりつけたぞ! ここからなら――)



 ――チッ、チッ。



 やがて、ロコの部屋である四畳半側の灯りがゆらめき、人影が躍った。



 ――がらり。



「え……!? な、何やってんのよ、ケンタ! ア、アンタ、一体どうやって!」


「はぁはぁ……。や、やぁ、ロコ……はぁはぁ……。サ、サンタクロースの代わりにきたんだ」




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