第403話 ハッピーエンドって at 1995/12/23
そう。
あの夏祭りの夜、僕はどうしてもあの青白く光る蝶には追いつけなかった。
幾度となく翻弄され、誘われ、夢中で追いかけるうちに、同じように僕のことを探していた純美子を見つけることができた――そして、二度目の告白。そしてそして、純美子からの告白。
いや、きっと違うんだ。
アイツは、僕が無事純美子と出会えるよううまくナビゲートしていたんだろう。そうなのだ。
なぜなら、
『負けた子はケンタ君と勝った子の物語をハッピーエンドにすること』、ルールその6がある。
だってもうロコはすでに、一周目の人生で純美子に負けていたのだから。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ロコちゃんって……ずるい、よね」
純美子は唖然としたまま何も言えなくなってしまった僕に向けて――いやたぶん、誰に向けた言葉でもないのだろう――哀しそうな笑みを浮かべてつぶやいた。
「自分の気持ち、『スキ』って気持ち、ケンタ君にちゃんと伝えてないでしょ? あんなに嘘だけはつかないロコちゃんなのに……ケンタ君のことになるとぜんぜん正直じゃないんだもの」
ふと、脳裏をよぎるロコのセリフ。
『ココロもさ、こんなふうに透明で、透けて見えちゃえばいいのにな、って思ったりしない?』
あれは夏合宿の時だっけ。
二人で買い出しに行くことになって、突然のアクシデントでツアー客にまぎれこんで――そう、忍野八海に行った時だった。突然の問いかけに僕はこたえることができなかったけれど、今ならわかる。少なくとも、その時のロコが何を考え、なんのためにそう言ったのかが。
――そうか!
『それぞれが大事だと思う、思い入れの深い物、それが「リトライアイテム化」するようだ』
たしかそう言っていたのは時巫女・セツナ=コトセだ。
あの『魔法少女プリティ☆ぷりん』の髪飾りは僕が子どもの頃、ロコの誕生日にプレゼントした物だ。その幼い日の僕への想い――そして、ココロが透けて見えればいいのに、というロコの願い、それらがあのおもちゃの髪飾りを『リトライアイテム』に変化させて、新たな未知なるチカラを与えたのかもしれない。
他人からの視線、想い、そんなチカラをエネルギーに、あの髪飾りが光るのだとしたら。
(ずっと『スキ』だったのは、僕の方……だったのかもしれないな……)
いつも隣にいてくれた。
僕の隣で、笑ったり、怒ったり、泣いたりしながら同じ感情を共有してきた。
気が強くて。勝ち気で男勝りで。
学校で一番の、誰もが憧れる幼なじみの女の子。
あの時、ムロの交際宣言の時に僕の感じた喪失感。
いつものあの場所に、アイツの姿がない。
それだけで、ただそれだけで、とっても不安で、ココロ細くって。
そして、いつも僕の物語がハッピーエンドになるよう願い続け、ひとりでも戦い続けて。
いじめに遭っても、嫌がらせをされても、誰にも打ち明けず、ひとことも言わないままで。
自分が悪者になって、そして――消えれば――あとはすべてがハッピーエンドになるって。
「アイツはずるい……汚いよ、やり方が。これじゃ『僕のやりたいことリスト』がダメになる」
僕は、目の前の純美子にも構わず、ヘッドボードからスマホを取り上げて電源を入れる。
『やりたいことリスト』その0『上ノ原広子を今よりも幸せにしなくてはならない』――。





