第400話 秘密の約束、再び at 1995/12/23
「う、うわぁ……は、話しておきたいことって……なんだか怖いなぁ、スミちゃん」
「茶 化 さ な い で !」
きっと声優養成学校では練習しているのだろう。だがしかし、僕に向けて、これほど強い口調で純美子が話すことは今までにただの一度もなかった。思わず、びくっ、と首をすくめる。
「あのね……? ここから先のお話しは、たった一度きりでも茶化したり、ごまかしたりしたたらダメなんだよ、ケンタ君? あたし、冗談で言ってないから。ホンキの本気だから――!」
「わ――わかった。ごめん」
純美子は一瞬だけ、にこり、と微笑み返すと、再び口元を引き締めた。そして、胸元で組んだ両手の親指の先を、じっ、と見つめて、慎重に、ゆっくりと、言葉を選びながら続ける。
「ここから先のハナシを聞いて、ケンタ君はとっても驚くと思う。もしかしたら……怒るかもしれない。あたしのことが嫌いになっちゃ……うかも……しれない……。で……も……っ!」
セリフの後半になるにつれ、純美子の高まった感情がカノジョの瞳を涙で満たした。
僕は――とても見ていられなくって、とても愛しくって、ただ夢中でカラダを引き寄せて抱きしめた。そして、元は同じはずなのに、まったく違う匂いのする純美子の頭を優しく撫でる。
「僕はね……信じてもらえないとは思うけれど、どんなひどいことをされたって、君のことを嫌いになんてなれないんだ。どうしてかって? それは……前の人生でもう経験済みだからさ」
「ひぐっ……前の、人生って……?」
「ううん。こっちのハ・ナ・シ」
真実を打ち明けても到底信じてはもらえないだろうし、そうじゃなくても強制リセットだ。
「……さあ、大丈夫だから僕に話してみてよ。これでもね、今までいろんな目にあってるから」
「と……きどき変なこと……言い出すよね、ケンタ君……って。うん、じゃあ、話してみる」
まだ感情が高ぶっているようだったけれど、笑顔が戻ったのでひとまず安心する僕。
純美子は深呼吸をひとつしてから、
たっぷりと間を空けて、
ゆっくりと語りはじめた。
「これはね……あたしとロコちゃんがあの日交わした『秘密の約束』のハナシなんだ。絶対、絶っ対に誰にも話しちゃダメって約束した、誰にも言えない二人だけの『秘密の約束』――」
秘密の――約束、だって!?
唐突に僕の意識に、この『リトライ』のきっかけになった因縁の鹿島神社でのロコとのやりとりが鮮明によみがえってきて、全身におこりのように震えが駆け抜けるのを感じていた。
『昔の秘密の約束なんて、あんなの気にしなくってよかったのに。あの子、真面目だから――』
シャッフル。
『昔? 秘密の約束? 誰と、何を約束したってんだ? 教えろよ、教えてくれよ、ロコ――』
そして、暗転。
まさか。
それが、今から中学時代の純美子の口から語られるっていうのか――。
とっさに僕はヘッドボードの上に置いてあるはずのスマホに視線を向けた。だが、スクリーンは暗いままで、ぴくりとも震えていない。つまり――僕の未来線を変える可能性を持った分岐点は出現していない、ということになる。少し腑に落ちないが――今は聞いてみるしかない。
(どうせ僕って奴は――)
ココロの中だけでそっと苦笑する。
(どこをどうやっても、この河東純美子って女の子を嫌いになれない。好きなんだからな――)
「さあ、スミちゃん。僕にそのハナシ、聞かせてくれないか――?」





