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第390話 マイ・ファースト・パーティー(5) at 1995/12/23

 というわけで。



「いやあ、意外と歌、うまいんだね、ツッキー! 僕、びっくりしちゃったよ!」


「え、えへへ……そ、それほどでも……」


「………………()()()?」


「い、いやいやいや! ハカセ、そこでキラーン、ってしないで! フツーに褒めてるんだし」


「し、渋田サブリーダーもすごくうまいじゃないですか! 知らない曲でしたけど……」


「うひゃあぁあああ! ふぅちゃんに褒められたぁあああ! これで僕も……アイドルに?」


「なれるわけないっしょ、すぐ図に乗るんだから。ま、まあ……ちょっとドキッとしたケド」



 笙パパはかなり音楽好きなようで、かなりの数のCDコレクションを所持していた。咲都子たちが佐倉家にお邪魔して、いつぞやのステレオコンポをマイクとセットで借りてきていたということもあって、即席のカラオケ大会となってしまったのである。騒音苦情が来ないか心配だったが、クリスマスイブくらい大目に見てくれるよ、と笙パパは笑っていた。



「で……だ」



 僕は盛り上がり中の部員たちから視線をスライドさせて、いまだ選曲でお悩み中の女子ふたりを見て、こっそり溜息をついた。



「スミちゃんとロコはいつになったら歌うのさ? それとも……やめとく?」


「あ、あはは……。いろいろあって迷っちゃって……ほ、ほら、こ、恋人へ送る歌とか、ね?」


「ううう、うっさい! 歌うに決まってるでしょ!? それともあたしが歌えないとでも!?」



 理由はそれぞれ違えど、最後まで残ったふたりということで、お互い妙に意地になっているようだ。誰もが知っている曲で、それも相手よりも上手だと褒められたい、そんな余計なオプションが追加されてしまっている――いや、ロコにはそもそもの問題があるように見えた。



「そういえば……僕、ロコの歌ってちゃんと聞いたことがなかった気がするんだけど……?」


「あぁん!? あんたの前で歌ったこと、あるでしょ!? しょ、小学校低学年の時に……」


「そうだっけ? ……あー、もしかして『魔法少女プリティ☆ぷりん』の、とか?」


「そう……だけど」



 ああ、思い出した!


 まだ小さい頃だということもあってかロコの歌い方は、とにかく大きな声を張り上げればいい、と思い込んでいる系の全力熱唱型で、歌というよりは節のつけられた応援団の魂のエールのように荒々しく豪快なものだったのだ。まさか……あれから進歩してない……わけないか。



「うーん、たしかにノハラさんの歌声って印象にないわー。合唱コンとか休まず出てたよね?」


「うっ……」


「スミも記憶にないんだよねー。ロコちゃん、どのパートだった? ソプラノ? アルト?」


「うっ…………」



 咲都子と純美子から立て続けの質問攻めにあい、たちまちロコの顔色が悪くなる。



「ま、まさか……学校一の人気美少女の、唯一の弱点は……歌だったりして。なんちゃって」


「うっ………………(ばたり)」



 冗談のつもりで言ってみたツッキーのひとことがトドメになったらしい。急所に致命傷を受けたロコはなかなか起き上がることができないほどのダメージを受けてしまったようだ。



「う、歌だけは……ニガテなのよ……! くっ……笑いたければ笑いなさいよ、ケンタ……!」


「どうしてそうなる。別に笑いはしないってば。まあ……意外っちゃあ意外だったけど」


「なんとでもいいなさい! 煮るなり焼くなり、どうとでもすればいいわ!」


「しないってば! まったく、キレすぎだろ……」



 人には誰しも欠点のひとつやふたつあるものだ。その点、長所よりも欠点の方が優勢な僕に至っては新たにひとつくらいニガテ項目が増えたところで一切動じない胆力が備わっている。



 そんなのちっともうらやましくない、って?


 そりゃそうだ。

 この僕自身だって嫌だもん。



「ま、まぁ、何も無理して歌わなくってもいいじゃんか、な?」


「けどぉ! それだとこのロコちゃんのプライドが許さないっていうか――!」


「め、めんどくせぇ……(一同)」




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