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第366話 ゴシップ・ガール at 1995/12/4

「おいおい! どけって! 見えないぞ!」


「ふざけんなよ! 押すんじゃねえって!」


「これ誰か当てようぜ! ドキドキする!」



 二年の教室が並ぶ三階廊下のほぼ中央あたり、校門から近い方の大きな昇降口から階段を上ったあたりに、二年生向けの学校からの連絡事項や部員募集のポスター、中学生向けの各種コンテストなどのお知らせが貼りだされる大きな掲示板がある。その前に生徒が密集していた。



「モリケン、もしかしてこれって……!」


「たぶん、そうだ。確認して回収しないと」


「こ、こんな中に入っていくなんて無理ですよぅ……」


「チカラづくでもやるしかない! いくぞ!」



 気合い一発、比較的密度の低そうな場所を狙って、男子生徒たちの寄り集まったカタマリに突撃する。が、思ったり抵抗が激しく、まったく歯が立たないうえに、まるでミツバチの作る『熱殺蜂球』のように彼らの煮えたぎるリビドーから発せられた熱が、外敵を蒸し殺すかのごとく襲いかかってくるのだ。狂気じみた歓喜――熱狂とはまさにこのことを示すのだろう。



「く……そ……っ。ぜんぜん歯が立たない……!?」


「正攻法や正論でなんとかなる状況を、とうに過ぎていますね」


「こうなったら、シブチンを盾にしてつっこむしかないか……!」


「あ、あのねえ……それが通じるのはサトチンだけだって」


「あ、あのっ! ぼ、僕がライブをやったらもしかして……!」


「こんなことでかえでちゃんに女装させられないでしょうが!」



 と、我ら『電算論理研究部』の部員たちが手をこまねいているのを見かねて、隣から、すっ、と一人の少年が歩み出た。そのへの字に曲げられた口から息をたっぷり吸い込むと一気に吐く。



「てめぇら! 何をぎゃあぎゃあわめき散らかしてやがんだ、あぁん!? ぶっ殺すぞ!?」




 ――し……ん。


 声の主は、なんとあの小山田だった。




 あれほど騒がしかった連中はたちまち言葉を失くし、怒れる学年のボスの鋭い眼光で見据えられ、茫然としたまま蒼白になる。それでもなお、内なるリビドーに駆り立てられて抵抗しようとした生徒もいたのだが、ゼロ距離から短刀のごとき眼差しでねめつけられたら震え上がるしかない。


 じきに、わっ、と散り散りに逃げて行った。



「あ……ありがとう、ダッチ!」


「あぁ!? な、なにもお前のためにやったわけじゃねえって……あんまりにもうるせえから」



 あっという間に人っ子ひとりいなくなってしまった掲示板に近づくと――やっぱりだ。


 しかも、よりによって『あの一枚』だけをど真ん中に貼りつけ、某ゴシップ紙の一面を思わせる太く目立つフォントで『潜入激写!? 女子更衣室で撮られちゃった「あの子」のドッキリショット!!』とあおり文が二色のマジックペンで書かれていた。


 しかも写真の下には、これ以外にも体操部員たちの着替え中の刺激的な瞬間を収めた大量の写真がひそかに流通している、という内容の文章まで書かれていた。そして、はたしてこの写真を盗撮したのは一体誰なのか? という問いかけで文章は締めくくられていたのだった。



「――っ!?」



 突如、背後から驚愕のあまり息をのむ気配がして、僕と小山田はとっさに振り返る。




 そこにいたのは――。




「ひ、ひどい……っ! ひどいよ……! なんで……どうしてあたしだけ……っ!!」



 見る間にそのわずかに垂れ下がったコケティッシュな両目に涙があふれた。記事中で『あの子』と呼ばれていた体操部員の少女、桃月天音は、その場にがっくりと崩れ落ちると、うずくまるようにして声をあげて泣きはじめた。



「お、おい、ナプキン王子!? もしかして、この写真の中の女子って……!?」


「どうやら……そう、らしい」




 僕らはなすすべもなくその場に立ち尽くす。


 いつまでも桃月の悲痛な叫びは続いていた――いつまでも。




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