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第342話 話したいだけ、なのに。 at 1995/11/22

「――それでさ? あの時、ロコがこう言ったじゃん?」


「あー! 言った言った! あんときのムロの顔ってば!」


「い、言うなよ! 俺だって――!」



 室生とロコの会話が、ぎこちなく停止した。

 その原因は、教室に入ってくるなりロコの机の前で立ち止まった僕だ。



「……なに? モリケン? なんか用なのかい?」


「あ――う、うん。ちょっと、ね?」



 愛想のいい笑みを崩すことなく尋ねる室生。しかし、ロコの方は興味ないと言わんばかりに、左側の窓でそよぐカーテンに視線をそらしてそっぽを向いている。室生は僕とロコを見て言った。



「なんだい? 俺に用って?」


「えっと………………な、なんでもない。……ごめん、会話の邪魔しちゃって」



 不思議そうな顔つきの室生を残し、僕は教室のうしろの方にある自分の席に向かって歩き出す。その僕の背中に向けて、重苦しい質量を備えた溜息が遠慮なくぶつけられた。




 溜息の主は――ロコだ。

 だが何も言わない。




「……大丈夫? ケンタ君?」


「えっ? な、なんのこと?」


「なんでもないよ。……大丈夫ならいいの」



 ただでさえ息苦しい思いをしているのに、純美子の気づかう言葉まであいまいに濁してしまった僕は、ますます自己嫌悪のカタマリとなってユーウツな気分になっていた。



 おとといも、昨日も、そして今日も、僕はロコと話すことができずにいた。

 ひとこともだ。


 それはたぶん、いつもそばには室生がいるせいであって、そして、たとえ室生が隣にいなくたって、僕自身がロコと話すことを躊躇してしまって怖じ気づいているせいなのだろう。


 今まではこんなこと、一度もなかった。

 いつもそばにいてくれていたからだ、ロコが。



 でも、僕の一周目の『中学二年生』生活は、これよりもっとひどかったはずだ。


 小学校の頃に『友だち』になった、ロコはもちろん、室生とも荒山とも、ロクに会話らしき会話なんてした記憶がない。ロコはイケてる女子のAグループのリーダー的存在で、遠い遠い存在に見えていた。なにせ、学校一の美少女だったのだ。室生や荒山も同じで、明るくてスポーツ万能で、他人との――もちろん異性との――コミュニケーションだってお手のものだ。


 僕の『友だち』というと渋田が唯一無二であり、ニンゲン以外には勉強とコンピューターくらいしかなかったという惨憺たる状況だった。でもそれでも僕は、ここまでの息苦しさも居心地の悪さも感じていなかったはずだ。人間に興味がない、と言ったらカッコいいのかもしれないが、ともかく不器用でひたすらひねくれていて、自分の世界に閉じこもって膝を抱えていた。



 それでも一向構わなかった僕が、こうして頭を抱えて悩んでいるだなんて、妙なハナシだ。



 気づいてしまったからだろうか。

『友だち』のいる毎日のすばらしさに。



(はぁ……さて、どうにかしないと。ずっとこのままなんて、どう考えても無理だよ……)



 隣の純美子を心配させないように、と、ココロの中でだけ、そっと溜息をついた時だった。




 ――がらり!




 まもなく一時間目の予鈴が鳴り響こうとする矢先に、教室の前のドアがイキオイよく開いた。そのまま見覚えのない一人の女子生徒がずかずかと遠慮なく入り込んで、ロコの前で止まった。



「………………ちょっとハナシあるんだけど? 放課後、いい? 上ノ原さん?」



 刺すような鋭い視線に少しも怯むことなく、ロコは真っ向から睨み返してうなずくのであった。




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