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第332話 球技大会・最終戦(6) at 1995/11/10

(早めにパスを回して、前線の援護をしないと……!)



 小山田のスローインを受けた僕は、ゆっくりとしたペースで相手陣地へとドリブルで侵入していく。が、ここでも相手チームの変化に驚かされていた。



(マン・ツー・マン・ディフェンス!? いや、フォア・チェックか!? 連戦だってのに!)



 相手チームの選手が、ボールがハーフラインを超えたとたんに積極的にプレッシャーをかけてきたのだ。通常であればそれは、負けているチームが相手のパス回しによる時間稼ぎを防ぐ戦法だ。ただこの戦術にも、もちろんデメリットはある。前線の選手の運動量とその負担が大きいのだ。


 だが、三〇分休憩しただけで連戦となった二年一組の動きは、決して衰えてはいなかった。



(前半はクラブ生のMFと部員のDFとGKを温存して、後半にぶつけてきたのか……!)



 なかでも驚くべきなのは、タツヒコの無尽蔵なスタミナと技術力だ。伊達にクラブ・テストに合格していない、ということだろう。身体能力が高く、なにより動きが変則的で読みづらい。



「トロトロやってねぇで詰めろよぅ! その根暗野郎は大したことねぇからなぁ!」


「く――っ!」



 僕は敵に取り囲まれる前にマークの外れている室生に低めの弾道でパスを出す。


 が、今度は室生があっという間に取り囲まれてしまった。

 僕の時より人数が多い。



(ムロもキヨも、もちろんダッチにもマークが付いてる!?)


(その上、ボールを持ったとたんに、チェックとプレッシャーが厳しくなるみたいだぞ……!)



 囲まれるのを嫌ってパス出しを焦れば、コースが中途半端になり相手にカットされてしまう。そのルーズなボールを舌なめずりして待ち構えているのがタツヒコ、という仕掛けらしい。



(って言っても……それをみんなに説明したところで対策なんてできないじゃないか……)



 タネがわかれば防げる、というものではない。だからこそ『戦術』なのである。



「ヘ、ヘイ! モリケン! 頼む!」


「う、うん!」



 室生が逃げ道を失う前に、僕はわずかに空いたマークのスキマをまで動いて、かろうじて通り向けたパスを受け取った。室生にまとわりついていたマークが一人、二人と離れていき、今度は別の選手が僕の方へと近づいてくる。



「……」



 下手ではないが、運動は得意な方でも、とりわけサッカーが上手というわけでもなさそうである。




 ――待てよ?

 そこで僕の脳裏に、ひとつの刹那の閃きが駆け抜けた。




(よく考えて見れば、中学でサッカー部、とか言っても、せいぜい三年間練習しただけだろ?)


(その点、僕が会社でフットサル・サークルに参加していたのは、六年間にもなるんだぞ……?)


(それに、この時代のサッカー少年が見たこともない『未来のテクニック』も持っているんだ)



 フォーメーションや戦術といったチームとしての『全体』の戦い方に加え、ボールリフトやトラップ、ドリブルやシュートといった個人としての『個』の戦い方もまた昔と今とでは違う。



(何もやらないで負けるくらいなら、そのわずかな可能性にかけてみるか……よぉしっ!)



 チャンスは一度きりだ。


 タツヒコの想定を越える技術力を一度でも見せてしまえば、僕もまた、マーク対象になってしまうだろう。その前に、ただ一度きりで、最大限の結果を出さなければならない。



「……」

「……」



 僕は、頼れるチームメイトたちの顔をひとつずつ見つめてから、うん、とうなずき前へ進む――。




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