第326話 球技大会・最終戦(0) at 1995/11/10
「よーし! いいか、てめ――お前ら、いよいよ最終戦の相手が決まったぜ! 二年一組だ!」
キャプテン・小山田のセリフに、集められたチームの面々は、思わず苦々しい顔つきを浮かべた。この時、このタイミングで、あの『無敵の悪』赤川龍彦のいる二年一組と最終戦を競うことになるとは、なんという皮肉だろうか。
――いや、むしろこれは天啓なのかもしれない。
絆を取り戻した新たな二年十一組のチカラを結集して、見事優勝してみせろ、という。
「……ねえねえ、モリケン?」
「なんだよ……って、シブチンはドッヂボールだろうが。どした?」
「い、いや、ちょっと気になっちゃってさ……」
渋田はあちこちを見回して、やはり見つからないことを確認してから僕に告げる。
「なんか足りないなーって思ってたらさ? さっきの話し合いの時、ムロとか何人かいなかったんだよね。たぶん、バスケットボールの最終戦だったんだろうけど……大丈夫なのかな?」
「ダッチが生まれ変わったってこと?」
「そそ。もちろん、カエルだって知らないはずだしさー」
「ま、大丈夫じゃないかな?」
実は僕も気になっていたことだった。きっかけは、ロコがいないことに気づいたからだったのだけれど、ある意味それで、ひとつの疑問が解けたのである。
それは例の、僕だけに残っていた『頼れるリーダー像』を持つ小山田のことだった。
僕らの教室で繰り広げられたさっきの会話のあいだ、案の定僕のスマホはずっと鳴り続けていたのだ。いや、正確に言えば『DRR』アプリの通知がひっきりなしに届いていたのだった。
『分岐点が現れました』
『分岐点が現れました』
『過去あなたの行動:読み込みエラー』
『過去あなたの行動:読み込みエラー』
ただ、いつもと違っていたのは、なぜか二回ずつ繰り返し送られてきたことだ。
しかし、そのあとの通知で、僕はただのエラーか誤作動か何かだろうと考えることにした。
『選択を承認しました』
『現実乖離率が確定しました』
『今回の現実乖離率:0パーセント』
どちらも、この同じメッセージの繰り返しだったからだ。
おそらく今回の『DRR』が告げていたのは、『小山田がクラスのリーダーになること』であり、それをクラスのみんなが承認したことだったのだろう。そして重要なのは、この場にロコがいなかったことが矛盾を示していなかった、ということだ。だからだ。だからロコは、僕の持っていた『クラスのリーダー像』としての小山田の記憶を持っていなかったのだろう。
「ま、大丈夫だって。心配するようなことにはならないと思うから」
「だったらいいんだけど……」
「おい、ナプキン王子!? てめ――お前、ちゃんと聞いてたんだろうな!? あぁん!?」
思わず、びくっ、と僕と渋田は首をすくめる。
顔をそろりと上げると――なぜか小山田まで首をすくめていた。
「い、いや、悪かったって、横山ちゃん……。でもよぅ、こいつ、ハナシ聞いてねえんだもん」
「でも! そういう乱暴なのは、なし、でしょ?」
「ち――っ、わかったって。で……ちゃんと聞いてたのか、ナプキン王子様よぅ?」
「ご、ごめん、ダッチ。ほ、他のこと考えてた……」
「ダッ――!! ……あー、わかった! わかったって!」
横山さんたちに睨まれ、ものすごくやりづらそうに咳払いをしてから、小山田は僕に告げる。
「お、おほん……いいか、カエルが戻ってくるまで、お前のポジションはトップ下の司令塔だ。た……頼りにしてるからな!」





