第316話 球技大会・三日目(2) at 1995/11/10
「くそっ! 下がれ! 守れ守れっ!」
予想どおり、準決勝戦の相手の三年七組は、今までの相手とは明らかに格が違っていた。
サッカー経験者、それもレギュラー級の選手が前線に固まっているということもあって、攻めに転じた時のスピードと連携は見事としか言いようがない。それでも、僕ら二年十一組はひたすら耐え忍び、一瞬のスキをついて前線で待つ小山田たちにボールを届け続けた。
――ピーッ!
「よしっ!」
ロングボールを起点に相手ゴールネットを揺らした小山田の一発に、僕は腰だめにした拳を握り締めた。まわりのクラスメイトたちも、忍耐が報われて喜び浮足立っている。だが相手チームは、まだまだあきらめるつもりも負けるつもりもないようだ。僕は急いで檄を飛ばした。
「ポジション確認して! まだ試合は終わってない! 油断するのは試合終了の笛のあとだ!」
一点先行しているとはいえ、後半の残り時間はあと十五分もある。正直、相手チームのレギュラー陣が本気を出せば、三点取られてもおかしくない残り時間だ。
「足が速くて動けるプレス要員は、前に出てる四人だけだし……くそっ……苦しいな……!」
もしここに佐倉君がいたら、どれだけ頼もしかっただろう。けれど、まだ軽めの運動に留めて、ストップ&ゴーを繰り返すような足に負担のかかる運動は禁止、ときつく言われていた。だが、あの圧倒的なスピードと体幹バランスは未経験者とはいえども、充分驚異的なはずだ。
「がんばれぇえええええ! ケンタくぅうううううん!」
その声に僕は、はっ、とココロを掴まれ、高く右拳をあげると前を向いて姿勢を低くした。
(ないものねだりしたって、しようがないだろ、古ノ森健太! 今あるカードで戦うんだ!)
僕はボールの軌跡を目で追いながら、相手チームの選手の動きをつぶさに観察した。前半から僕らが選んだ『カウンター&リトリート』の戦術はなかなかの効果を発揮していた。だが、そろそろ相手も馴れてきはじめている。そして、この戦術の弱点にも気づいているに違いない。
「来るよ! みんな、下がって! 守るぞ!」
ほとんどの選手が一気に自陣前まで戻るこの戦術は、必然的に相手選手に自由に動けるスペースを与えてしまうことになる。ということは、相手の攻めの時間が比例して長くなることでもあるわけだ。こちらの陣内でもある程度自由にボールを回すことができるわけで、時間をたっぷり使うことが可能になる。つまり、守備メンバーの体力的負担が大きくなるのだった。
それに、
――どんっ!
「ミドルだ! キーパー!」
相手からの壁となるべくコンパクトに、フィールドを狭くして守備をするわけで、中長距離からの攻撃に対しては防ぐ術がない。かといって、前線の四人、特にFWの二人まで守備に回してしまうと、もはやそのチームには攻撃力がなくなってしまう。
残す頼りは室生と荒山だが。
「はぁ……はぁ……。キーパー! ナイスだ!」
「きっちぃーな、これ……。はぁ……はぁ……」
元々運動神経もバツグンで、ことスポーツに関してはオールマイティーな二人だったが、それでも前・後半六〇分を走りっぱなしでは、さすがにほどなくして限界がくるだろう。
――ピッ! ピーッ! ピィーッ!!
「なんとか……勝てたな……ふぅ……」
【準々決勝】 第一試合 〇2―11 VS 3―7● (1―0)
第二試合 ●2―8 VS 3―4〇 (1―3)





