第314話 球技大会・二日目 at 1995/11/9
ここで、改めて『西中球技大会』について、もう少し細かく説明しておこう。
全学年、全クラスから一チームずつ出場し、勝ち抜けトーナメント方式で優勝が決まる。三年は十組、二年は十二組、一年は十三組あるので、総勢三十五チームによる大トーナメントだ。
しかし、さすがにこれではチーム数が多すぎるし、進行にも時間がかかるということで、西町田中学校のグラウンドとは別に、少し距離の離れた『西町田少年サッカー場』のグラウンドを借り、二つのトーナメントにわけて進められるのである。
それでも実施できる試合の数は、サッカーの場合、前・後半三〇分ずつのハーフタイム一〇分の形式で一日最大七試合までだ。だがクラス単位で見れば、シード枠のクラスが二日目に二試合こなす必要がある以外は、一日一試合しか実施できない。なので、球技大会の場合には、運動会とは違って、一人三種目すべてに出場してもよい、というルールになっているのだった。
「んと――」
まだ試合までは時間がある、ということで、僕は昇降口に張り出されているトーナメント表を眺めていた。そこに駆け寄ってきた気配とコミカルな足音は……ははん、奴だな。
「昨日は楽勝だったね、モリケン」
「まあね。一年生のクラスだったから、体格差でかなり有利だったし。まあ、というか……」
「アレはオトナ気ないよねぇ……さすがに。後半なんてもう涙目だったもん、あの少年たち」
僕がわざわざ濁した言葉尻を掴まえて、シブチンは憐みの表情を浮かべ首を振る。たかが中学の一学年差でオトナ気ないも何もないだろ、と思ったりするのだけれど、昨日の対一年九組の初戦において僕たちは、いろんな意味で小山田・吉川コンビの実力を思い知ることとなった。
『ヘイ、ダッチ!』
『――っしゃ、シューッ!』
二人のコンビネーションは、まさしく息ぴったりだった。ウチのクラスのキックオフからはじまった試合は、ホイッスル後わずか三分で相手ゴールネットを揺らした。そこからはまさに怒涛の攻撃が続き、こちら側のフィールドにボールが入ったのは片手で数えるほどしかない。
『オラっ! よこせっ!』
『ひひっ! ごめんねぇ!』
それは二人の技術が高いせいでもあったが、それに輪をかけて、二人の悪名が一年生にまで轟いているからでもあったようだ。対峙した一年生はたちまちたじろぎ、ボールを奪われる。
それでも、いつ相手が反撃に転じるかはわからない。
『ええと、僕がセンターの位置でラインをコントロールするから、左右の二人も合わせて前後に動いてね! あ! あと、室生と荒山は、ハーフラインからこっちにボールが来たら詰めて!』
なので、今のうちに慣れておこうと、僕もフォーメーションのチェックと連携した動きを意識してみんなに声をかけ続けた。その甲斐もあって、試合の後半ラスト一〇分間は割と良い動きと連携が取れていた。特に後半の、カウンター気味の一発は危なげなく処理できたと思ったりもする。
――そんなことをぼんやり考えていた時だった。
「……いよう、古ノ森健太だったよなぁ? うひひっ。なかなかやるみたいだなぁ、お前さぁ」
「――!? タ、タツヒコ……! お前……!」
「なんだよぉ。その不思議そうな顔はよぉ。うひひっ」
こいつ……自宅謹慎だったはずじゃあ……!
さっきまで渋田が立っていたその場所に、あの『無敵の悪』、赤川龍彦が立っていたのだ。僕の驚愕を尻目に、タツヒコはにやにやといやらしい笑みを浮かべながら言う。
「お優しいよなぁ、梅センの奴よぉ。謹慎解けたから、球技大会出てもいいってよぉ。お前らも、せいぜいがんばってくれよなぁ。決勝で当たらないと、仕返しできねぇんだからよぉ?」
「言われなくても――! 僕らは負けない!」
「うひひっ、そうこねぇとなぁ。うひひひっ! あのインチキ野郎にもよろしく言っとけよぉ」
目の前のトーナメント表にもしっかりと書かれていた。
二年一組、初戦・二回戦突破、と――。





