第31話 あたしだってわからない at 1995/4/17
問題――この部屋には女の子が二人います。
ひとりは腹を抱えて笑っています。
もうひとりは真っ赤になって半泣きになっています。
さて、そこにいる男の子はどう対応するのが正解でしょうか?
「ああ、おっかしいの! あたしがこんなの好きになるわけないじゃんか! あっはははは!」
「こんなの」
「こ、こんなのだって! す、好きになる子がいるかもしれないでしょ!? 失礼じゃんっ!」
「こんなの(二回目)」
えっとさ……それって僕じゃなくって、相手の女の子の方をフォローするセリフじゃない?
口を挟むヒマも与えてもらえないこんなの――つまり僕は、もうティーカップをつまんで純美子が淹れてくれた紅茶を音も立てず静かに飲むよりなかった。
と思っていたら飛び火してきた。
「大体っ! 古ノ森君が『咲都子』なんてなれなれしい感じで呼ぶからいけないんだよっ!? あ、あたしは河東さんなのにっ! そんなのっ! ぜーったいっ! おかしいじゃない!?」
「そ、それは……! む、昔からの癖で、つい――!」
「昔? あたし、古ノ森と前に会ったことあったっけ?」
「………………あ」
ん? ん? と二人の視線に見つめられると照れるぜ。片方はやけにお怒りモードだけど!
昔って今で、そんでもって、もう少し未来のことなのさ! とか言いたかったけれど無理。
「ええと……ですね。僕の親戚に、野方さんに少し似てる『サト子姉さん』ってのがいまして」
「ふーん……ま、今回は特別に許します」
「許されましたありがとうございますっ」
コントじみたやりとりだが、本人は至って真面目なのである。純美子を怒らせると怖いのだ。その様子を額に貼り付けた冷感ジェル以上に冷ややかに見つめていた咲都子は溜息をついた。
「……とにかく。二人とも、お見舞いに来てくれてサンキュー。明日はちゃんと学校行くから」
「ちゃんと直した方がいいよ、風邪はツライし。それに、まだ学校始まったばかりだしさ――」
「………………ごめん、スミ。ホントは風邪なんかじゃないの」
「え……?」
咲都子のその突然の告白で、それまで純美子が浮かべていた優しげな微笑みは時間を切り取ったようにぎこちなく固まってしまった。どうして? ――そう尋ねる前に咲都子は口を開く。
「具合が悪いってのはホント。学校になんてとてもじゃないけど行けないってのもホントだよ? 朝計ったら熱もあったし、身体だるいし。……でもね? ホントの原因はわかってるんだ」
僕と純美子は咲都子に気づかれないようにこっそり目くばせして、思い浮かべた原因の答え合わせをした。うん、絶対あいつのことだ――でも、そんなの言えっこない。どうする――?
「誰のことかわかってて言わないんでしょ? 優しいんだね、二人とも」
ベッドの上の咲都子は膝を抱きかかえるようにして身体を丸めた。その立てた膝の上で言う。
「原因はアイツ。とっくにわかってんの。でもさ、あたしだってどうしたらいいかわからない」
「だ、だけどさ? まだ会ったばかりじゃん? なんでそんなに――?」
「まー、そうだよね。スミもそう思ってるんでしょ?」
純美子は声には出さずに、こくり、とうなずいた。二人は一年の時も同じクラスだったから、そこに『アイツ』がいなかったのはもう知っているはずだ。けれども、咲都子は首を振った。
「あたしさ、去年風紀委員やったじゃん? アイツもそうだったの。だから知ってたんだよね」
「それで、か……。でも、だからってそこまで仲悪くなることもないだろ? 何かないかぎり」
咲都子は気まずそうにむっつりと顔をしかめて黙り込んでしまう。
「え……あったの? なんかこう……ギクシャクするようになったきっかけが? あいつと?」
僕と純美子は思わず顔を見合わせた。渋田は絵に描いたような平和主義者だ。揉め事が苦手で、うまく話を合わせて得意の冗談でうやむやにしてしまう奴だ。まさか、と咲都子を見た。
「あの……あのさ? アイツ、あたしのこと好きなんだって。これ、絶対ヒミツにしてよね?」





