表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
296/539

第295話 逆もまた真なり at 1995/10/27

(明日のデートに備えて、いい加減眠らないと……)



 先週の金曜日までの最低気温は17~8℃だったが、今週に入ってからは本格的な秋到来だ。しかし、寝苦しい夜はとうに過ぎたはずなのに、僕はなかなか寝付けずにいた。



(早く忘れないと……特に、ロコやコトセに知られるのは良くない)



 おとといのタツヒコがらみの一件から、ひょんなことで知ってしまった『リトライ』の恩恵は、僕にとってはありがた嬉しいというよりは、甘い毒を含んだ悪魔の果実のようであって、触れるのも怖ろしい心持ちだったのだ。



(だってこんなこと……むしろこれを悪用した方が、世の(ことわり)をたやすくねじ曲げてしまう……)



 運動会の時、雑賀(さいが)センセイが僕を評して言ったセリフが、今は逆に責め苦のように感じていた。




『お前はその知識や見識を悪用したか?』


 ――答えは、ノーだ。




『未来を知っていながら、一から築き上げたんだろう?』


 ――答えは、イエスだ。






『悪い奴っていうのは、もっと手際が良くてズルいのさ――』






 僕は――少なくとも僕自身ではズル賢いとは思っていない。だが、あの夜思わぬ形で知ってしまった僕ら『リトライ者』に共通するルールの抜け道が、今はこの僕の手元にだけある。


 これをうまく利用すれば、僕はどんなヒーローにも、どんな英雄にもなれるのかもしれない。


 歴史そのものをねじ曲げる気さえ起こさなければ、たいていのことはやってのけるはずだ。




 思い起こしてみれば、ヒントはかなり序盤から目の前にあったのだ。




 だが、そんな事態になる前にすべて先手を打っていた。これについては、わざわざ考えるまでもないだろう。仮に僕でなくロコだったとしても同じだ。いや、僕とロコ以外の人間であろうが、基本的な対応方針については変わりがないはずだ。違うのは、手順と手段、それだけだ。




 どうか思い出して欲しい。


 粗悪な翻訳によって産み落とされた『マニュアル』に書かれていた、あの注意書きを。




『【注意:リトライするにあたって禁止事項】

 ・過去の歴史上、死ぬ運命にある誰かを救命するのは不可能です。』




 それは、ここだ。


 そして、おとといの出来事をふまえ正反対の言葉を当てはめると、この疑問が浮かぶはずだ。




『過去の歴史上、死ぬ運命にない誰かを()()するのは可能か?』と。




 僕と三溝さんは、おとといのあの夜、あの場所で、あの少年――赤川龍彦を僕らの世界から抹殺せんとする企みの下、闇の中でじっと息をひそめていた。そして、彼の死により『歴史が大きく変動してしまう』ことを恐れた僕が、迫り来る自動車へ向けて捨て身の特攻をかけた。



 その結果。

 誰一人、死ぬことはなかった。






 いや、正確に言わねばなるまい。


『過去の歴史上、死ぬ運命にない誰かを()()()()()()()()()です。』と。






 もしもそんなことをしてしまえば、この世界の歴史は致命的な欠陥を抱えることになるからだ。四〇歳になった僕やロコは、元々存在しないことになる。となれば、この時代にタイムリープした僕たちなどいるはずもない。同窓会でのサプライズ再会もなく、どころか、僕と純美子がした短く儚い恋愛の事実すら消えてなくなる。




 今ここにいる僕は、僕なのか――すべてが。




(……つまり、今の僕とロコは、絶対に死なない、殺すことのできない『()()()()()』なんだ)




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ