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第284話 二人だけなら最高 at 1995/10/15

「ご、ごめーん! ケンタ君! ……待った?」


「いや、ぜんぜん。待つのも嫌いじゃないから」



 はぁはぁと肩で息をつき、うつむき加減の姿勢でワンピースの胸元を右手で押さえているのは純美子だ。足元はいつぞやの白いミュール。そんなので走ったら危ないのに……。



「僕のためにいろいろ考えてお洒落してたら時間なくなっちゃったんでしょ? 怒れないって」


「ぼっ! 僕のためってっ! う、うぬぼれないでくれますぅー!?」



 はいはい。

 ツンデレツンデレ。


 真っ赤になってふくれてそっぽを向いている純美子の耳元に顔を寄せて囁く。



「今日のスミちゃんも、とってもかわいいよ。いつもはさ? みんながいるから言えなくって」


「――――――!?」


「だ、誰にでもこんなこと言ってるわけじゃないからね? スミちゃんにだけは、僕のホントの気持ちをきちんと伝えないとイケナイって思ったから、す、すごく頑張って言ってるんだよ」



 ……なにせ、一周目はそのせいで気持ちが通じなかったんだし。

 鬱陶しがられるくらい、スキスキ大スキ! の路線でいこうと思ってます、はい。


 照れまくりの純美子だったが、深呼吸を繰り返し、平常心を取り戻すことに成功したらしい



「も、もう……真面目で品行方正なフリして、意外と女タラシだったりしないでしょうね……」


「えええええ!? 一生懸命頑張ったら頑張ったで、今度はそっちを疑われちゃうのかぁ……」



 なんちゅう難易度。

 激ムズなんですけど、この恋愛シミュレーション!



「そ、それよりさ、今日は……いいの? レッスンの日なんじゃ――」


「それは大丈夫! テスト前だもん。お休みくれたんだよ。……あ! 来たよ!」



 声優になるためのレッスンも順調らしい。『町田バスターミナル』行きのバスが到着して一緒に乗り込んでからそのハナシをしてくれる純美子。やっぱり声優業が性に合っているのか、ハナシている間中、大きくてキラキラとした瞳が輝いている。僕はというと見とれるばかりだ。



「……もう。ちゃんと聞いてる、ケンタ君?」


「き、聞いてますってば。今度オーディションを受けることになったんでしょ? 凄いじゃん」



 とはいえ、ちゃんとした役付きではなくって、いわゆるモブ役らしい。でも、そういうところで実力を発揮して監督やスタッフの目に留まり、次も呼んでもらえることだってあると聞く。


 いつもより距離の縮まった会話に花咲かせているうちに、バスは終点『町田バスターミナル』に到着した。今日の目的は、中央図書館。来る中間テストの勉強のためだ。このところ毎日部室でもやっていることだけれど、やっぱり二人きりならもっともっと楽しいんだよな。



「どこか空いてるかなぁ……あ! あそこ、空きそうだ! ちょっと相談してくるよ」



 陰キャな僕でも、こんなときばかりは張り切って初対面の人にだって話しかけるんだぜ。今帰るところだから待っていてくれれば交代するよ、と快く応じてくれた。お兄さん、ナイス。



「へへっ。ラッキーだったね。……そうそう、あのお兄さんとお姉さん、町高の先輩だったよ」


「町高、って……町田中央高等学校だよね?」


「うん。僕らが――い、いや違った、僕が目指しているのも町高なんだ」


「そう……なんだ……」



 わずかに純美子の表情が曇ったのを僕は見逃さなかった。


 それは言わずもがな、町田中央高等学校が学区内で一、二を争う偏差値の高校だからだろう。この時点では確か、純美子の希望する高校の偏差値はもう二段階ほど下だったはずだ。その差をただ一人で埋めて入学したのだ。


 決意を込めて顔を上げた純美子は真剣な眼差しで僕に訴える。



「ねぇ、ケンタ君……? スミも一緒の高校に行きたいよ……もっともっと仲良くなりたい!」


「わかった。僕だって同じ気持ちだもん。できることはなんでも協力する。一緒に行こうぜ!」



 今度は、この僕がついてるからな。


 ひとりぼっちでツラい思いなんてさせない。

 いつも一緒で、明るく、楽しく、高校受験までばっちりクリアしてやろうぜ。



「じゃあ、早速はじめますか!」

「おー!」




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