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第262話 波乱ぶくみの運動会(8) at 1995/10/10

「午後からの競技で二年生が出るのは……障害物競争、借り物競争、組体操、組対抗リレーか」


「まぁ、とかいって、さすがに組対抗リレーに出る奴なんて、ウチの部にはいないけどね?」


「あ、あのぅ……僕、出ることになっちゃってるんですけど……」


「………………えええええ!? マジぃ!?」



 世界一幸福な昼食を終え――とはいえ、お袋が作ってくれた分までキレイにたいらげるのは拷問に近かったけれど――半分うとうととしながら午後のプログラムを確認していた僕と渋田は、佐倉君の遠慮がちなカミングアウトにたちまち眠気がぶっ飛んでいた。



「組対抗リレーって、騎馬戦の直前じゃないの!? いやいやいや! なんでまた――!?」


「もう。かえでちゃんが足の速いことは知ってるじゃない、ケンタ君」


「………………あ」



 そうだった。


 純美子を誘って『成瀬クリーンセンターテニスコート』で行われた国内ジュニアのランキング試合を見た僕らならば知っている。並み居る選手たちと比べるとやや体格で劣る小柄な佐倉君が、彼らと対等に渡り合うために磨き抜いた武器、それが佐倉君のずば抜けた脚力なのだ。



「す、すみませんっ! で、でもっ! スタミナ的にはぜんぜん問題なくって――!」


「いやいやいや! 謝るのはこっちの方だって!」



 しきりに頭を下げようとする佐倉君を押し留め――いい匂いするぅ!――逆に深々と頭を下げた。



「凄いよ! 凄いじゃん、リレーの選手に選ばれるだなんて! まさに漢の見せどころだよ!」


「カッコいいところ、あたしにも見せてよね、か・え・で・ちゃん!」


「ごくり……お、()()()()()()()……! ぼ、僕、がんばりますっ!」



 僕の口にした『漢』というキーワードと、横からカットインしてきたロコのチャーミングなウインクとおねだりに、佐倉君の魂に、ぼっ、と炎が灯ったのがわかる。ポーズかわいいけど。



「まあ、人数多い学校だから、一人最低三種目出場しろ、ってルールはむしろありがたいよな」


「全員参加の徒競走と騎馬戦で二つだから、あとは午後のどれかに出ればいいだけだもんねー」


「って言ってるシブチンは? 何にしたんだ?」


「ん? 僕は組体操だけど?」



 おい……その体形で、っていうツッコミ待ちか?



「に、似合わねえ……」


「似合う似合わないじゃないよ、モリケン。ポイントに関係ないから気楽にできる、ってわけ」


「な、なるほど……それも一理あるな……」



 世の人間は、リーダー格、陽キャ、陰キャ、モブの四種類に分けられるが、ほとんどの連中がその垣根を超えて『チームとしての勝利』のため勇往邁進するのが運動会というものだ。だからこそ、慣れない不得手な競技に出てさんざんな結果を残そうものなら、あとで吊し上げにあってしまう。それを避けるため、あえて『組体操』を選んだ渋田は賢いと言えるだろう。



「つーか、モリケンは何にしたの?」


「ええと………………借り物競争です」


「マジで!? あの、毎年変なお題ばっかりで、途中で棄権する選手続出のアレ選んだの!?」



 すっかり忘れてたんだよぉ……。


 そういわれてみれば徐々に記憶が蘇ってくる。フツーに『お父さん』『お母さん』とか家族の誰かを連れてくるとかにすればいいのに、『かつらをかぶってる人』とか『魚屋の大将』とか、しまいには『好きな子のリコーダー』とかまであった気がする。犯罪助長するなよ……。


 まさかそんな奇想天外なお題をセンセイたちが書くとは思えないので、恐らくクラス委員から選抜された運動会実行委員会の連中が悪ノリした結果なのだろう。いつからそうなったかは不明だけれど、それが毎年となり、恒例となり、それが楽しみで観に来ている客もいるらしい。



「も、もう選んじゃったんだから仕方ないだろ!? つーか、逆にクリア率が低いからこそ、ギブアップしても怒られないし、クリアできちゃったら大幅に差をつけることができるんだ!」


「ポ……ポジティブだね、ケンタ君って」


「そうじゃないと、ココロが折れそうなだけです……」




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