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第26話 トキミコ再び at 1995/4/15

「あーもう! 今日はサイアクの一日だったよー!」



 今日は土曜日。午前授業が終わるや、またまた渋田の家にお邪魔している僕である。目の前には憔悴(しょうすい)して、ぐでー、と溶けたアイスクリームのようにカーペットに伏している渋田がいた。



 ちなみに土曜授業の廃止による『学校週四日制』は、二〇〇二年に全国導入されることになる。だがしかし、近年その必要性が見直されており、二〇三〇年までには復活するという噂だ。



「ま、まあまあ……。でもさ、なんだかんだいってお前と咲都子、結構気が合うよなー?」


「ど・こ・が・!? どの次元から見たらそう見えるの? いい眼科知ってるよ、僕!?」



 次元すら違ってるのかよ。

 そんなの眼科ごときで解決できねえよ。


 わざわざ叫びかえすために一度は起き上がった渋田だったが、はぁ、と溜息を漏らして再びぐったりと仰向けになった。



 お昼の一件は、なんとか僕と純美子とで二人をなだめ、友好的なお弁当タイムを無事再開することができた。まだこの時点ではお互いを知らない僕たちは、趣味や最近あった面白いこと、今興味を持っていることなど、いろんなことを語り合って楽しく過ごすことができたと思う。


 ただし、最後まで渋田と咲都子は、直接会話をすることを避け続けた。

 なので、僕と純美子がそれぞれの通訳に入ることで辛うじて会話が成立していた感じである。


 将来的に二人が恋仲になり結婚することを知っている僕は、どうしても現状の不仲さ、いわゆる『犬猿の仲』の二人の振る舞いが不思議でならなかった。考えてみれば、そもそも何がきっかけになって二人の距離が近づいたのか、そういう気持ちになったのか聞いたことがなかったっけ。



 その時だ。



 ヴーッ。ヴーッ。ヴーッ。



(トキミコからか? よりによってこのタイミングかよ――っ!?)



 しきりに、出ろ、出ろ、と空気を読まずに催促し続ける内ポケットの中で震え続ける僕の『リトライアイテム』スマホに、渋田が気づいた様子は一切ない。けれど、この場で出れば、僕は何もない、誰もいない空間に話しかけているとびきりの変人になってしまうに違いない。



「ご――ごめんっ! トイレ借りるぞ!!」



 咄嗟(とっさ)に立ち上がり、勝手知ったる渋田家のトイレに駆け込む。直前に、あー、と間延びした渋田の声が聴こえたから、しばらくはあのままぐだぐだぐずぐずしていてくれるだろう。



(……もしもし?)


『毎度待たせる奴だな。しかもなんだ、そのヒソヒソ声は? 小さくてうまく聞き取れんぞ?』


(今、友達の家なんだよ! 堂々と出るわけにはいかないだろ!? 気がふれたと思われる!)


『? ……まあいい。ひとつ伝えておきたいことがあってな?』


(手短に頼む)


『そのつもりだ。では言うぞ? 「DRR」のプッシュ通知はONにした方がいい。以上だ』



 プツッ――くそっ、ホントに手短だな!

 きちんと説明してくれっての!


 イラっとしつつも、そういえばスマホの画面を見るのもひさびさだと――うおっ! 『DRR』アイコン右上のバッジに表示されている数字に驚き、飛び出しそうな声を押し殺した。



(三〇件……だって!? ぜんぜん気づかなか――)



 くそっ、そういうことか。

 トキミコの奴、僕が通知を確認していないのを知っていてああ言ったんだ。



(内容は『分岐点が現れました』『選択を承認しました』『現実乖離率が確定しました』か)


 どうやらこの三つで一セットらしい。



 おおまかな流れとしては、四〇歳の僕――俺がいた時代・時間を基準として、その『現実』を揺るがす可能性がある『分岐点』――つまりこっちの世界・時間で、重要な意味を持つイベントが発生したのを知らせて、そこで僕がとった行動次第で『選択が承認』されると、その結果未来にどの程度影響を及ぼしたかを『現実乖離率』として表示する、ということらしい。



 なお、現在の『現実乖離率』は15パーセント。

 トリセツを信じるなら、まだ大丈夫だ。




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