第249話 オレンジ色に染まるのは君の at 1995/9/25
「つーん、だ」
「……えっと。四月ごろにもこんなシーンなかったっけ……?」
体育館でのロコを仮想敵に見立てた騎馬戦の特訓を終え、夕暮れがオレンジ色に街を染める秋の風景のなか、僕はなんだかご機嫌斜めに早足で歩く純美子の後を懸命に追いながら呟いた。
と、突然、
「ああ! もうっ!」
純美子は苛立ちをあらわに、両手を突き降ろしながら地面を思いきり踏みしめて声をあげた。
「えと。あの……なんで怒ってるの、スミちゃん?」
「お! 怒ってなんかいませんっ!」
「い、いや。絶対怒ってるじゃん、それ……」
僕がおそるおそるそう指摘すると、純美子は飛び跳ねるようにして振り返った。
「もうっ、古ノ森君が悪いんだよっ!? なんであたしが怒ってるのかわからない鈍感クン!」
「やっぱり怒ってる……っていうか、すっごい理不尽な怒りなんだけど……」
「おまけに! ご褒美の約束なんかとりつけちゃってさ……!? えっち! 変態! 鈍感!」
「え……? もしかして、さっきの騎馬戦特訓の時の? あ、あれは冗談っつーかノリだって」
大体、何も要求してないうちから、えっちだの変態だの言われるのは、あながち間違いではないにしろ、心外である。鈍感……には、正直心当たりがないのでなんとも言いようがない。
というか、今言ったとおりアレはその場のイキオイであり、売り言葉に買い言葉であり、阿といえば吽であり、ともかく僕は特段なにかを勝利の報酬として要求しようという気はない。
「とか言って!」
今まで見たことがないくらいに、ぷっくりと頬をふくらませた純美子が僕の顔を下から横からといろんな角度から覗きこむように睨みつけてくる。しかも、ほんの数センチの距離からだ。
「な……なんスか、スミちゃん様……?」
「さ! 最後っ! どさくさに紛れて、ロコちゃんと抱き合ってたじゃない!? えっち!!」
「ご、誤解だってぇ!」
僕は仰け反るように身を反らせながら大慌てで両手を振って否定した。
「あ、あれはですね!? 負けたことにショックだったロコが無理矢理飛びついてきて、放っとくとそのまま床に激突しそうなイキオイだったから、必死で受け止めただけであって――!」
「だったらっ! なんで、お――おっぱいまで触ったのよ!?」
「おっぱ――ええええええ!? 触……ええええええ!?」
いやいやいや。
ひどい誤解であり、濡れ衣であり、もはや冤罪である。
だってですよ?
目の前で落っこちそうになってる子がいたら、とっさに手を伸ばすのが人間として当然の反応なのであって、突然の出来事だったら無我夢中でどこでもいいから掴もうとするわけで。そこが胸だろうがなんだろうが、とりあえず掴まえられたらラッキー! ってな状況なわけで。
しかし、嫉妬モード全開の純美子にそんな道理や理屈が通用するわけもなく。
「さ――触りたければ、カノジョのお――おっぱいを、いくらでも触ればいいじゃない!?」
「触らないよ!?」
「ス――スミだって! 80のBになったもん! ロコちゃんに負けてないもん!」
「ちょ――!?」
やめてやめて!
こんなまわりに人がいる商店街で、自分のバストサイズ、カミングアウトしないで!
「こんなの、触れないっていうの!? やっぱりおっきい方がいーんだ! うわーん!!」
「うわわわわわ! ご、ごめん! つーか、一体僕にどうしろって言うんだよぉおおおおお!」





