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第239話 だったらなんなのさ at 1995/9/18

「……その証拠ってあんの、ケンタ?」



 長い沈黙のあと、ロコがむっつりと口を引き締め、とがった鼻先を、つん、上向けて言い放ったセリフだ。


 僕はそれを聴き、その表情を見つめても、はぁ、と溜息をつくだけだった。



「ちょっと。はぁ、って何よ? こっちが真剣に――!」


「あのな、ロコ?」



 知恵比べをするつもりはなかったけれど、こうまであっけないと言葉も出ない、



「そこで、まったく身に覚えのない奴ならフツーこう言うはずなんだ――その『リトライ者』ってなに? なんのこと? って。『証拠を見せてみろ』なんて絶対に言わないはずだろ?」


「うっ……」


「それに、鎌倉旅行の時だって、妙に年寄りじみてるっていうか……おばさんぽかったしなぁ」


「おば……! そういうあんただって四〇歳で同い年のおじさんじゃん!」


「はい。確定っと。なんで僕の中身が何歳だなんてこと知ってるんだよ」


「ぐっ……ぐぬぬぬぬぬ……!」




 考えてもみれば、その他にもいくつかおかしな点はあった。


 夏合宿の時、文化祭のプランをみんなで話し合っていた時、ホワイトボードに書かれた最終案を僕がスマホで撮影しようとしている様子を見つめていたのはロコ一人だった。声に出しては正体がバレてしまうからといって、無言で凝視されていたらさすがに僕だって気づく。


 それにそもそも、中学時代の僕とロコには大きなへだたりがあったはずだ。


 きっかけは鎌倉での校外活動だったけれど、いくら小山田の班内の空気が悪化したからといって、あの頃のロコならば、桃月たちと行動する方を選んでいたはずなのだ。気まずいから、その程度の理由でわざわざ最大派閥から離れることはなかっただろう。大勢からのヘイトを集めながら、だ。


 そして極めつけは勉強会だ。


 こう言っちゃ悪いが、あのロコに勉強する意志や意欲なんてものはなかったはずだ。そこまでうぬぼれているとは思わないが、平均的な成績さえ納めておけば、あとは見た目の良さも手伝って人生なんとかなる、くらいに思っていたはずなのだ。



 い、いやいやいや……。



 確かにこれは僕の偏見が大いに混じっているけれど、イケメン、イケ女のグループなんてそんなもんだろう。生まれ持って与えられた『容姿』というチート能力を生かし難易度イージーの人生を過ごしてきたのだ。中学生にもなったら、その価値に気づいたって当然というものだ。




 とまあ、挙げようと思えば疑わしき点なんて他にもあったのだが、ロコはもうすっかり観念したらしい。制服姿なのにも構わず、歩道のど真ん中に、どすん、とあぐらをかいて座り込んでしまった。そのふてぶてしさは座敷牢を牛耳る大親分さながらである。でも、スカート履きの時はやめとけ。



「あー。はいはい。あんたは頭が良くってよござんしたね。ケンタ様のおっしゃるとおりでございまーす」


「な、なんだよ、開き直るのかよ?」


「開き直るもなにも、問い詰めてどうこうしようってのはそっちでしょ?」


「どうこうって……」



 そこで僕は、いまさらながらに肝心なことをはたと気づいた。

 ロコが『リトライ者』だと判明したとして……どうするんだ?



「と、特にどうこうするつもりなんて……ないんだけど?」


「はぁ!? じゃあ、ただ思いついたから当ててみた、ってことなの!? ばっかみたい!!」


「うっ……」



 なぜかいつの間にやら形勢逆転してしまっている気が。

 ロコは怒りのイキオイのままに、一気にまくしたてた。



「たとえわかってたって、黙っとけばいいじゃんか! あんたの望みどおりの『リトライ』ができてるんだもん、それでいいじゃない! ずっと後悔してたんでしょ? 純美子のこと――」


「それは……そうなんだけど」


「だから、どこの誰だかしらないけど、あたしたちを中学時代に戻したんでしょ? もう一度やり直せるように、って。今度は後悔しないように、って。正しい選択ができるように、って」


「そ、そうかも――ん? ちょっと待ってくれよ」



 僕は、ロコの語る仮説にほぼほぼ同意していた。

 だが、決定的におかしな点があったのだ。



「それは僕だけのハナシじゃないはずだろ? ロコの『リトライ』の目的って……一体なんなんだ?」




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