第231話 『西中まつり』(18) at 1995/9/15
「やってやったぜ! ざまあみやがれってんだ!」
僕らの前に立ちはだかっていた、古代の悪魔と機械を合成したような奇異な彫像の醜悪な牙の生えた大きな口――そこがCRTモニターの画面になっている――が閉じたかと思うと、重々しい地響きとともに横にスライドして進むべき道を空けた。僕は二人を後押しする。
進んだ先には、光に照らされた石造りの祭壇と、厳かに語りかける声が――。
『見事……でした。貴方たち勇者の活躍は、必ずや後世に語り継がれることでしょう。では、王女である私、アセンブリから貴方たちへ、一度だけ、未来を見るチカラを授けましょう』
「ど、どゆこと?」
「ほら、あそこに祭壇があります。行ってみましょう」
少しとまどい気味の小山田と桃月を一段高くなった祭壇まで誘導した。僕はタイミングを見計らって、祭壇の裏側に隠してあるスイッチを押す。すると、祭壇の上面がぱかりと開いた。
「ここで、未来を見たい二人の名前を入力すると、その人と相性ばっちりの人がわかるんです」
いささか説明臭い口調だけれど、この際しかたない。
「それってさー、占い、ってことなん?」
「さっき言った――ましたよね? このために、全校生徒宛にセンセイ経由でアンケートを配ってもらったんですよ。よく知らない部活からじゃなく、学校からのだ、って見せかけてね」
「て、てめぇ……じゃあ、あれは……!!」
「ス、ストップストップ! 怒るなって!」
休み前に余計な手間をかけさせたのが僕だとわかると、たちまち小山田は噛みつかんばかりに牙を剥きはじめる。それをなんとか両手で押し留めながら、早口で続きの言葉を口に出した。
「そ、そのおかげで、かなり高精度な相性診断ができるようになったんだ。もちろん、西洋占星術や東洋の画数占いの要素も入ってるんだよ。こんなのをいっぺんに処理できるのもコンピューターのチカラなんだ。ほ、ほら、みんなこれが楽しみで参加してるんだ、やってみてよ!」
「ち――っ」
小山田はまだ少し納得していないようだったが、桃月に袖を引かれて渋々ながら牙と爪を引っ込めることにしたようだ。そのまま二人して画面の前に立ち、キーボードに手を添えたが、
「あーあ、俺様はこういうのキョーミねーんだわー! おい、モモ! おめぇ、これやるの楽しみにしてたんだろ? ほら、俺とナプキン王子はあっちでお話あるから、こっそりやっとけ」
そう言って、強引に僕の腕を強く握ると、小山田は出口の方まで引っ張っていく。
一体、何をする気なんだ、小山田の奴……。
「な、なんだよ……面白かったろ? 楽しんでたじゃないかよ?」
「あ――ま、まあまあだな! おめぇにしちゃあマシだったぜ!」
……ん?
こいつ……もしかして……。
小山田は、ちらり、と桃月に視線を向けた。
眩しそうに、でも、ちっぴり困ったように哀しげな瞳で。
「悪ぃが少しハナシを合わせてもらうぜ。モモの相性診断の結果が出るまでな」
「ダッチ……。もしかして、君は……」
「おい、てめぇ……! 余計なことは言うなよ? あと、気安く俺をあだ名で呼ぶんじゃねえ」
恐らく、僕の予想は当たっているんだろう。
未来からこの時代に戻ってきた僕ですら知らなかったこと。しかし、小山田徹というこの意地っ張りで剛情で、直情的で不器用な少年は知っていたのだ。
「お、終わったよー、ダッチ! あたしたち、相性イマイチだってー、ショックー!」
「マジかよ!? ま、占いなんざアテにしてねーって」
じゃあな、と去っていく二人の姿を見送った僕は、はじめて自ら定めた禁忌を破ってしまった。それは、診断結果のログを確認するという禁忌だ。誰が誰との相性診断をしたのか、それを知ろうとしたのだ。するべき行為ではない、それはわかっていたのだけれど。
(はぁ……。やっぱりそういうことだったのか……あいつ……)





