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第21話 その3「委員に立候補しよう!」 at 1995/4/11

 その日もつつがなく授業は終わり、帰りのHRの時間となった。



「えー。昨日は自己紹介でしたが、今日はね、さっそく委員を決めなければならないんですよ」



 教室内に荻島センセイののんびりとした声が響き渡ると、たちまち生徒から、えー!、というブーイングが飛び交った。まあ、嫌なモンだよな。わかる、わかるなー。



「来週、身体測定があります。それまでに保健委員を決めないとダメなんです。いいですね?」



 そう言い訳めいたセリフをこぼしながら、荻島センセイはチョークを取り、黒板にひとつひとつ書き連ねていった。かつ、かつ、きゅっ、きゅっ、と音が鳴る。



 ・学級委員

 ・風紀委員

 ・美化委員

 ・図書委員

 ・保健委員



「それぞれ、男女一名ずつ、ですね。仕事の内容は……もう二年生だしわかってますかね」



 まだ二日目だが、共通の――ネガティブな――話題ということもあって、出会って間もない前後の同性や左右の異性としきりに囁き合う声が瞬く間にさざ波のように広がっていく。そんな中、僕は渋田と先日交わした会話を思い起こしていた。



(あのさ、モリケン。そこを敢えて立候補しちゃう、ってのはどう? 恰好良くない?)


(はぁ? それ、恰好……良いのか?)


(決まってるじゃん! 僕たちみたいな、ごく普通の、平凡な生徒のままじゃ目立たないよ!)


(……別に目立ちたいわけじゃないんだけどな)



 うーむ。まだあんまり『渋田理論』に納得できたわけじゃないんだけど。やってみるか。

 まだガヤついている連中を尻目に僕はゆっくり右手を挙げる。荻島センセイが目を輝かせた。



「ほう! 立候補してくれるか、古ノ森! どの委員をやってくれるんだ?」


「保健委員を、と思っています」



 保健委員の主な仕事は、急病人や怪我人に付き添って保健室まで搬送することや、教室の環境管理――暑い時には換気して寒い時にはストーブを点ける、みたいな――や、毎月の『保健だより』の作成・配布といったところ。これくらいなら大した苦労もしなくて済む。



「よし、じゃあ男子の保健委員は古ノ森で決まりだ。他、立候補してくれる奴はいないのか?」



 こっからが長いんだよな……そう思い出し、ひそかに忍び笑いを漏らしていたのだが――。



 突然クラス内の空気が変化し、複数の生徒が勢いよく手を挙げた。



「おっとっと……。今年の二年生はやる気がありますねえ。先生も助かりますよ、うんうん」



 学級委員には室生(むろう)秀一(しゅういち)。品行方正でスポーツ万能。成績は中の上くらい。いわゆる甘いマスクのジャニーズ系で、他校の女子からラブレターをもらったことがあるという武勇伝持ちだ。

 そして、風紀委員には室生の友だちの一人である荒沢(あらさわ)清志(きよし)が、美化委員にはなんとあの小山田徹が、図書委員にはその相棒とも子分とも言われていた吉川(よしかわ)(かおる)がそれぞれ立候補した。



「よしよし。特に異論がなければ、男子は以上のメンバーで決定しますよ。賛成の人は拍手を」



 弾けるような拍手の嵐の中、『やるじゃん男子ー!』という黄色い声に混じって、なぜか立候補した面々から刺すような鋭い視線が僕の方めがけて飛んでくる。が、それには気づかないフリをしておいた。ああ、そういうことだったんだな――どうやら僕はやらかしたようだ。


 この『委員決め』というのは、平々凡々としたフツーの生徒にとってはただの迷惑な恒例行事に過ぎない。


 だがしかし、同時に室生のようなイケメングループのリーダーや、小山田のように支配欲の強い暴君にとっては、まわりから持ち上げられ担ぎ上げられて、仕方なく引き受けてやる、という(たぐい)の、いわば『人気のバロメーター』的な意義をもったイベントだったのだ。



 まあ、いいさ――僕は覚悟を決めて、飛んでくる視線をものともせずに胸を張る。



(どのみち連中には、こっちから宣戦布告するつもりだったんだからな。むしろ好都合だ)




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