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第175話 かえでちゃん奪還作戦(3) at 1995/8/6

 と、いうわけで。



「どういうことなのか、ちゃんとこの人たちにも説明してもらいますからね、お姉ちゃんたち?」


「はい……」



 案外あっさりと佐倉君およびその姉二名を捕まえることができた。というのも、どうやら次女らしき瓶底メガネの根暗女(失礼)は運動がニガテらしく、本来抱えて逃げるはずだった佐倉君に、逆に抱えられるようにしてもなお、その足はあきれるほど遅かったのである。


 しかし、佐倉君のとびきりキュートでとんでもなく目立つ恰好を考えると、あまり人目につく場所での事情聴取は避けたい。さりとて、あの姿のまま一緒に家まで帰らせるのも酷だ。


 なので、かなりご迷惑で申し訳ないのだけれど、僕らは珈琲舎『ロッセ』にお邪魔していた。



「……」



 マスターは無言の視線を僕たちに向けたまま黙々と豆の焙煎をしている。さほど馴染みというわけでもないのに無理言って人払いまでしてもらった。背後からの圧が凄すぎて僕倒れそう。



「みかん……お前、相当怒っているな? いや、なぜ怒っているのだね?」



 平謝りの姿勢からわずかに身を起こし、そろりと(うかが)うように尋ねたのは、黒のパンツスーツ姿のいかにもできるビジネスウーマン的容姿をした長身の女性だ。たぶんこの人が長女さんなのだと思われるが……一見誠実そうにみえて、反面なんともいえないうさん臭さが漂っていた。



「もしかして、()()()()()は自分がしでかしたことの大きさ、善し悪しが理解できてないの?」


「ははは! 善悪だなどと、そんな大袈裟な――」



 いきおい、笑い飛ばして済まそうとしたらしい長女――佐倉せりさん(仮)は、微動だにせず冷たい視線を送り続けるみかんちゃんの顔を見て、うっ、と口ごもり、視線を泳がせた。



()()()()()()もだよ? いくらせりちゃんにそそのかされたからって、ダメなものはダメ!」


「あぅ……ご、ごめん、なさい……。みかんちゃん、お、お姉ちゃんを嫌いにならないで……」



 その隣に座る瓶底メガネの根の暗そうな次女――佐倉しのぶさん(仮)は、話の矛先が自分に向いた途端にあわあわと慌て出し、夏に着るにはかなり暑苦しいだいぶ袖の長いよれよれの白いロンTの手を伸ばすと、ビブラートがかった涙声でみかんちゃんにすがりつこうとした。



「え、えっと。ま、待ってよ、みかんちゃん!」



 そこで、話に割って入ったのは、意外にも佐倉君――つまり長男、佐倉かえでちゃんだった。



「ふ、二人に無理なお願いをしたのは僕なの! だ、だから、怒られるべきなのは僕なんだ!」


「………………それって、どういう意味?」


「ぼ、僕が二人に『かわいく見えるメイクとヘア・スタイリング方法を教えて』って頼んだの」


「「――!?」」



 僕とロコは、佐倉君の告白に、思わず顔を見合わせた。


 佐倉君は、僕ら『電算論理研究部』の文化祭での出し物を成功に導くために、佐倉君なりのやり方で真剣に向き合っていたのかもしれない。佐倉君の受け持ちは、衣装及びメイク担当だ。



 しかし、それで納得してくれるほど、みかんちゃんは甘くはなかった。

 じろり、と見つめる。



「たとえ、かえでちゃんの言うとおりだったとしても、こんなことまでする必要ないでしょ!」


「ははは! こんなこと、とは、ずいぶんな言草だな、みかん? このあたしたちはだな――」


「『かえでちゃんを女の子のアイドルに仕立て上げて、あわよくばデビューさせようとした』」



 みかんちゃんは僕に、こくり、とうなずいてみせた。それに応えるように、さっきの仮設イベント会場に置き去りにされていた手作りのパネルを渡す。そこには、みかんちゃんの推察を裏付けるように『ミラクル☆キュートでボーイッシュ! 奇跡の新人、葉桜ふぅ・デビュー直前イベント!』と、まるで印刷されたようなカラフルなフォントででかでかと書かれていた。


 それを突き付けられ、長女・せりさんは額に脂汗を浮かべ、次女・しのぶさんはうつむいた。



「む、無論、冗談に決まっているだろう! かえでちゃんはあたしたちの大事な()()――弟だぞ?」



 ……おい。

 今この人、『大事なおもちゃ』って言いかけたぞ!



「と・も・か・く・っ・! こんなことはすぐやめて、おうちに帰りますよっ! さあっ!!」




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