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第173話 かえでちゃん奪還作戦(1) at 1995/8/6

「うわ、凄い人手だ……。そっか、夏休みに入ったし日曜だもんな。みかんちゃん、ほら、手」


「子ども扱いされるの、嫌なんですけど。あっ……いたっ……!」



『町田バスセンター』に到着したバスを降り、階段を上がって小田急とJRをつなぐ連絡通路に出てみると、行き交う人々の多さに圧倒されるほどだった。背の低いみかんちゃんは無理矢理僕らの間を横切ろうとした通行人が下げていたバッグが腕をかすめ、痛みに顔をしかめていた。



「相手が僕じゃ嫌だろうけど、手、つないでおこう。反対側はロコ、頼む。これで大丈夫だよ」


「あ……はい。すみません……」



 渋々、といった表情でみかんちゃんはわずかに顔を赤くして僕の手を握る。

 不本意そうだ。



「でさー? かえでちゃんたちはどこにいるかーって、場所、知ってるの、みかんちゃん?」


「は――はい、早速いきましょう」



 僕たちはみかんちゃんの見かけによらずチカラ強い手に引かれるまま、ペデストリアンデッキをJR『町田駅』方面へと進んで行った。ふと、まわりを見ると、同じようにパパとママと手をつないだ子どもが無邪気な満面の笑みを浮かべてはしゃいでいる光景が目につく。



「「――!?」」



 なにげなく、本当になんの思惑もなくロコの方を向くと、まるで同じことを考えていたかのようなロコの顔がそこにあって、二人揃って慌てて視線をそらした。



 もしかして……周りから見た今の僕らって……。

 ふ、夫婦的なアレかなにかに見えたり……?


 い、いやいやいや!

 そもそも僕らって、まだ中学生のがきんちょなわけで――。



「この曲……! たぶん、あそこにいます……!」



 みかんちゃんの声と手を引く合図で我に返った。




 この曲?


 たしかにそう言われて耳を澄ませると、軽快でポップなサウンドが人々のざわめきを縫って届いてくる。でも、まるで聞き馴染みのない曲だ。それに、当時としては風変わりに聴こえた。



『衝撃的な出会い~ 超劇的に眩暈(めまい)~ いわゆるハツコイってことね~♪』



 九〇年代は『アイドル冬の時代』とも呼ばれ、音楽番組も次々に放送終了になっていく厳しい時期だった。ビジュアル先行の傾向が強く、モデルや女優がアイドル業を兼ねることも多かった。またその一方、アイドル的な位置づけにありながらも作詞作曲までこなすものや、ロックテイストが前面に押し出された女性ボーカルバンドが多数生まれた『過渡期』なのだった。



『あ~いまいな~ ココロ~の距離~ 今す~ぐぎゅっと縮めて欲しいの~♪』



 今まさに聴こえてくるのはエレクトロ・ポップ。それも、二〇〇〇年代のそれというよりは、動画配信サービスの発達・普及によって一気に増えた、いわゆる『ボカロP』が作ったかのような独創性と発想の豊かさが感じられる曲だ。

 しかし、『未来』なら再正回数はそこそこ稼げそうなものの、いかんせんこの時代にはマッチしていない。


 なーんて偉そうに語ってはいるものの、これは全部、会社勤め時代にドルオタの同僚から吹き込まれた付け焼刃の知識の応用だ。



『ねえ ぴったりでしょ~? ねえ ドキドキするでしょ? シタいでしょ♪』



 だがそれでも、東急百貨店の前の、町田民なら誰でも知っている不思議な形の回転するモニュメント、『光の舞』のある広場には大勢の人が集まっていた。曲はそこから聴こえてくるようなのだった。



「ねー! こっちむいてー! 写真、撮ってもいいよねー?」


「すっげーかわいいー! 大ファンになっちゃいますよー!」


「ね? ね? カノジョ、新人アイドルかなにかなのかな?」



 さかんに声をかけているのは男性ばかりだが、女性の姿もちらほら見える。とにかくガムシャラに頭を下げ、熱狂している人波を押し分けるようにして、僕は輪の中心へ少しずつ少しずつ進んで行った。割り込むな、といわんばかりに何度か押し返されながらも僕は進んで行く。




 そして――。




「あ、ありがとうございまーすぅ!(はあと) ………………え? こ、古ノ森リーダー!?」




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