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第148話 僕らの『がっしゅく!』二日目(5) at 1995/7/28

 それから僕らは三〇分ほど桟橋で何をするでもなく時間を潰し、湖一周の激闘を戦い抜いたロコと、それに付き合わされた哀れな佐倉君が戻ってきたところで無事合流すると、カンタンな買い物だけ済ませてコテージへ戻ることにした。二人には、僕から事の詳細は説明してある。




 道中、皆あまり口を開こうとしなかった。

 僕はもちろんのこと、それぞれがかなりショックを受けていたことは事実だった。




「ま、まあ、ほら――」



 その重苦しい空気を嫌って、陽気なフリを装って口を開いたのはロコだ。



「意外とケロっとして戻ってくるよ。心配ないって。ね、みんなで明るく迎えてあげないとさ」


「……まあ、そうだな」



 それがロコなりの気遣(きづか)いの仕方だと頭では理解できていても、なかなか行動が伴わない。しかし、いつまでも気に病んでいても起きてしまったことは元には戻せない。僕もそれに続いた。



「さーて、お昼はどうする? また女子チームが作ってくれたら、サイコーなんだけどなぁ!」


「な、なによ、ケンタ? お料理は女の子の仕事! だなんて、ちょっと考え方、古くない?」


「ふ、古い? いやいやいや! だって、僕らが作ったら、とても食べられたもんじゃ――!」




 その時だ。


 ざり、ざりざりざり――コテージへ続く砂利道に、一台の黒塗りの高級車が入ってきたのは。




「な、なにあの車……?」


「……慌てるなって、ロコ。ちょっと様子を見よう」



 窓の脇に全員が駆け寄ると、しばらくして謎の車は停車した。まず白い手袋をはめた運転手が外へと降り、後部座席のドアをうやうやしい仕草で開けると、そこから出てきたのは――。



「――!?」


「迎えに行こう!」



 靴を()くのに手間取っていた僕たちが玄関から転げるように外へと飛び出した頃には、すでに黒塗りの高級車は出発した後だった。そこに残されていたのは――五十嵐君と水無月さん。



「もう大丈夫かい、ツッキー? っていうか、ハカセ? あの車は……?」


「た、たまたまタクシーを見つけましたので、乗せてもらったのです、こ、古ノ森リーダー」



 たちまちピンときた僕は、珍しく動揺をあらわにした五十嵐君をとっつかまえて囁いた。



(ちょ――ハカセッ! あれ、どう見たってハイヤーじゃないか! もしかして……?)


(僕は、不要だ、と伝えたんですが……。合宿中の()()()()()()()()()()()です。すみません)


(ご、護衛って……ああ、もう!)



 休暇中にボディーガードがつく中学生って何者だよ!

 っていうか、どうりで夜中に外でがさごそと、妙な気配がしてたわけだ……。



 どうやら他の連中は、五十嵐君の説明を信じた様子だ。五十嵐君が『ISOCA(イソカ)』の次期後継者候補だと知っているのは、まだ男子部員だけである。ひとまずここは黙っておくとしよう。



「と――ともかく中へ入ろう。これからお昼なんだ。お腹……空いてるだろ、二人とも?」



 男子三人は五十嵐君を(ねぎら)うように代わる代わる肩を叩き、女子三人はツッキーを抱きかかえるようにして、僕らはコテージへ戻った。うん、水無月さんの顔色もずいぶん良くなってるな。



「あ、ロコ。料理手伝おうか?」


「いいから。あんた部長でしょ? 荻センにも報告するんだからちゃんと聞いときなさいって」



 大した物なんて作れないけど……と言いつつも、ロコが一人で昼食の準備をしてくれている間に、五十嵐君と水無月さんの二人は互いを気遣いながらみんなに事の経緯を話してくれた。



(あの少女、水無月琴世は、中学二年生でその短い生涯を終えるということなのさ――)



 だが僕の脳裏には、時巫女・セツナの放ったその不吉な予言がいつまでもこびりついていたのだった。




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