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第145話 僕らの『がっしゅく!』二日目(2) at 1995/7/28

 山中湖は「富士五湖」の中で最も富士山に近い、標高約一〇〇〇メートルの高原地だ。


 気候的には北海道に似ているところがあって、冬は湖面が凍るほど寒さが厳しいものの、夏は涼しくて過ごしやすい避暑地として人気が高い。夏でも『朝晩は少し肌寒く感じることもあるから、一枚余計に羽織(はお)るものがあった方がいいぞ』という荻島センセイのアドバイスに従って、部員たちは昼の日差しと夜の寒さを避けるためパーカーやウインドブレーカーを着ていた。



「今日も天気いいなぁー! 吹き抜ける風も……うーん、爽快だね!」


「松林を抜けたあとの、湖沿いの景色、カラフルでキレイだよねー」



 湖岸沿いの遊歩道にはひまわりが、太陽に笑顔を振りまきつつ生き生きと咲き乱れていた。春はチューリップ、秋はコスモスと、季節ごとの花々が楽しめる工夫が施されているという。



「大いに楽しむ……ってのはいいんだけど。とりあえずどうしようか? ……ハカセ?」


「無論、僕の意見でもよいのでしょうけれど、ここは地元のプロに聞いてみる、というのは?」


「観光協会がある、って言ってたっけ。ちょっと覗いてみるかー」






 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆






「どうもありがとうございましたー!」


「いえいえ。気をつけてねー」



 というわけで、早速お邪魔した観光協会のお姉さん(いわ)く、ここ山中湖は、運が良ければ白鳥の親子が湖で遊ぶ姿を見ることができることから「白鳥の湖」とも呼ばれているそうだ。



 アクティビティとしては、ルアーを使った釣りやウインドサーフィンなどの水上スポーツが人気らしいが、僕らにその準備はなかったし、カラダの弱い水無月さんにはどれも難しい。


 ならばと聞くと、優雅な白鳥の姿が目を引く遊覧船「プリンセス・オデット号」でのクルージングや、足漕ぎのスワンボート、あとは自転車を借りて湖をほぼ一周できるサイクリングなんてどうかしら? と勧められた。なるほど、これなら僕らでも気軽にできそうだ。


 また周辺には「石割神社」や「平野天満宮」など、古くから続く伝統的な祭りが行われる神社が点在しているらしい。ここを見学するのも悪くない。中でも珍しい「山中明神安産祭り」は、「山中諏訪神社」で()り行われる子宝や安産を願うたくさんの人々が集まるお祭りで、



『諏訪の宮

  御影さす

 右龍がいにも

  左龍がいにも

 もそろげにもそろ』



 という御神歌を唱えながら御神木の周りを神輿が回るクライマックスの光景が実に圧巻なのだそうだが……これはもう少し時期が先で、秋頃行われるとのこと。ちょっぴり残念だ。


 また今朝は見逃してしまったけれど、富士山を背景に、朝焼けがあたり一面を真っ赤に染めた景色はとても幻想的で、息を飲むほどの絶景だからぜひ見て帰ってね、と教えてくれた。



「と、いうことで、だ――」



 なぜだか自然と、軍隊よろしく横一列に整列している面々の前を往復しながら僕は言った。



「ぜ、全員で同じことをする、それもいいと思う。だが……こ、ここは、ふ、二人一組でだな」


「なーに面倒なこと言っちゃってんの! ほら! 遊覧船乗りたい、って人、手ぇあげてー!」



 あ、くそ。

 部長としての見せ場なのに!


 下心と野望を隠した僕の密かな試みは、あっけなく体当たりしてきたロコに潰されてしまう。




 その結果――。




「やったー! あたしとケンタ君はスワンボートね!」


「……ちょっと! ほら、あんたも来るんでしょ? あたしとシブチンもスワンボート乗るー」


「あたしとかえでちゃんとで、湖一周レースしてくる! 絶対に負・け・な・い・か・ら・!」


「ぼ、僕と()()()()()は――」



 うぉっほん――どこからか聞こえた咳払いに、五十嵐君は肩をすくめて言い直すことにした。



「ぼ、僕と()()()()の、運動ニガテな二人は、遊覧船で優雅にのんびりと過ごすことにしました」




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