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第130話 一学期の終わりに―― at 1995/7/21

 一九九五年の、七月の二十一日。

 今日で一学期も終わりとなる。


 今週、一学期の最終週、どことなく落ち着かない気持ちのまま学校生活を過ごしていた僕だ。




 先週実施された期末テストの結果が返されて、僕が中心となって続けてきた勉強会の成果が参加したメンバーそれぞれに出ていた。もちろん、成果と一口に言えども大なり小なりの差がある。けれど、中間テストより七人全員の点数が上がっていた。これは良いニュースだ。



「はあぁ……マジで助かったわー。これからも、ビシビシ鍛えてもらわないとね! ね、ね?」


「ははっ。それはなによりだ、ロコ。くれぐれもハカセと佐倉君を困らせないようにしろよ?」



 渋田・咲都子の席もある教室の前でいきなりシャツの袖を握られ引き留められた僕は、感謝感激のあまり、今にも『嬉ション』でもしはじめそうなロコの喜びように苦笑してしまった。



「ふふーん。あたしぃ……ホントは才能あったのかも! もしかして……あたしってば天才?」



 テンション最高潮で机の上にごろごろと寝転がりながらにやにやだらしない顔をしているロコを見ていると、なんだか僕までにやけてしまう。けれど、つい視線は自分の席の方に泳ぐ。



「……なーによそ見してるのかなー? モ・リ・ケ・ン・?」


「べ、別に? な、何も見てないし……」



 妙に勘の鋭い咲都子からの冷やかしに、僕はうろたえて視線を床へと泳がせた。



()()()()、って決めたんでしょ、モリケン?」


「そ、そうだけど……だから、見てないってば」



 渋田の問いかけにはしどろもどろになり肯定して否定した。お節介な『夫婦漫才』どもめ。




 日曜日の告白、そして失恋。

 さらに月曜日に知った誤解と、純美子の覚悟と夢への挑戦。




 僕は純美子と相談して、その顛末(てんまつ)をかいつまんで『電算論理研究部』のメンバーに打ち明けることにしたのだった。なぜかと言えば、これから本格的に部活をはじめようという矢先に僕と純美子のカンケイが微妙にぎくしゃくしていることで余計な気を遣わせたくなかったからだ。


 とはいえ、主に話したのは、僕の『告白』とその『一時保留扱い』についてである。



『突然のことで心の準備ができてないから、少しだけ待って欲しい』



 そう言われちゃったんだよね、と細かいところは端折(はしょ)って伝えておいた。純美子の夢への挑戦については、どのみち僕もくわしくは知らされていないから、どのみち伝えようがなかったのだ。



「まー、大丈夫だって。あたしが太鼓判押すからさー」


「そ、それって内定通知みたいな奴なの、サトチン?」


「え? ……たぶん。きっと大丈夫……かもしれない」


「たぶん、きっと、って! 最後の方、弱々しいし!」



 渋田と咲都子恒例の『夫婦漫才』がはじまると、当の本人だというのに僕の口元は自然にほころんでしまう。そんな中、机に伏せたままのロコは無言で鋭い視線を純美子に向けていた。



「……」



 結局、月曜日に僕たちが話し終えたあとでも、何か用事があったらしかったロコは純美子と話すことをやめてしまった。純美子から再び尋ねたが『もう、いいから』と言われたのだという。


 恒例の昼食会もあいかわらず七人――今は八人か――で続けているし、特にこれといった不和の予兆や亀裂は見受けられない。しかし、あの件以降、純美子とロコが直接話す機会が減ったことは事実だ。いや――正確に言えば、ロコから純美子へ話しかけることが少なくなった。



(まさかとは思うけれど……僕を振ったことで怒ってるのか……? でも、それは誤解で――)



 ……さすがに考えすぎだろう。

 僕ならまだしも、ロコが腹を立てるのは明らかに筋違いだし。



「おーい! まだ夏休みには一日早いぞー! さあ、席についてくださいよー!」



 荻島センセイののんびりとした声を合図に、僕ら生徒たちは慌てて席に着く。




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