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第120話 シミュレーションなら二度やった(二度目) at 1995/7/15

 町田駅へと向かうバスには三つの終点がある。


 一つは、最も乗降客数が多く、小田急線およびJR横浜線・町田駅への乗換に最適な『町田バスセンター』。次に、全国各地に向けて走る高速バスや観光バスの発着点になっているのが、『町田バスセンター』の一つ先にある『町田バスターミナル』である。この二つは同じ路線だ。


 そして三つ目。


『菅原神社』『市立総合体育館』『郵便局』『警察署』『さるびあ図書館』『保健所』『市役所』と市民にとって欠かせないスポットを経由する路線の終点が『町田駅』停留所なのであった。




「ふぅー。すっごい渋滞……やっと駅着いたんですけど」


「悪名高き町田街道経由だからねー。ま、仕方ないって」



 僕とロコが乗り込んだのは、この『町田駅』行きのバスだ。降車場は小田急線・新宿方面すぐの踏切近くに建つ『POP(ポップ)ビル』の前にある。メインストリート側にある『町田バスセンター』と比較すると、やたら狭くてごちゃついた場所に降ろされてしまった感じは拭えないけれど、電車への乗り換え目的ではなく町田の町並みをぶらつくにはこっちの方が便利なのだった。



「ちょうど踏切開いてる! ほら、早く! 渡っちゃおうよ、ケンタ!」


「て、手ぇ引っ張るなって! わかった、わかったから!」



 少し汗ばんだロコの手が僕の手をぎゅっと握り締め、突然僕の心拍数は跳ね上がった。今頃気づいたけれど、ロコの足元を見ると、珍しく白の可愛らしいパンプスを履いている。そのせいか、ちょっと走り方がぎこちない。いつも学校ではローファーで普段はスニーカーなのに。



「セ、セーフ! ここの踏切、一回閉まるとなかなか開かないんだもん。ラッキーだったね!」


「あ。う、うん。そうだね」


「じゃあ、どこ行く?」


「うーん。特に考えてなかったんだけど……ロコはどこ行きたい?」


「あのねぇ……それ聞いてどうすんのよ! あたし、一応デートに誘われた側なんですけど?」


「デッ! デート!? す、するフリだろ、フリ!」


「そうよ? だから何?」



 さも当然のようにロコは問い返すと、腕組みをした体勢で冷ややかめの視線を僕に向けた。



「フリだって、デートはデートでしょ? だから、考えて! あたしが喜びそうな場所をね!」


「そんなの無茶ぶりすぎる……」



 明日のことを考えるだけで精一杯で、それすらいいアイディアなんて浮かんでないってのに。とりあえず……バス車内では立ちっぱなしだったから、どこかで座って休むのはどうだろう。



「ええと……マック、行かない?」


「却・下。駅前の銀行の向かい側のでしょ? 嫌よ、嫌。あんなとこ、目立っちゃうじゃん」


JORNA(ジョルナ)の前の、ティップネスの地下にあるマックなら、どう?」


「嫌だってば。っていうか、マックから離れなさいよ」



 うげ、と顔をしかめて舌を突き出すロコ。

 せっかくのカワイイお嬢様ワンピースが台無しだ。



「どうせ行くなら、もっとお洒落なところがいいじゃん!」


「はいはい。で、どうせ奢られるなら、ってことね。まったく……」



 どうやら予行演習には対価が必要らしい。僕はポケットから財布を取り出して、恐る恐る中身を確かめた。うん、朝から変化なし。どうせなら少しくらい増えていてくれてもいいのに。



「はぁ……じゃあ、行こっか。あそこならお気に召すと思うんだけど、『ロッセ』」


「『ロッセ』? どこにあるの、それ? 喫茶店なの?」


「いいからいいから。名前は『珈琲舎ロッセ』。昭和四十五年から営業してる老舗喫茶店だよ」


「ふーん……。ケンタは、どうしても喫茶店に行きたいのね?」


「そりゃあ……まあ……」



 僕は気まずそうに鼻の頭を掻きながら視線を落とした。

 言うべきかしばし悩んで口を開く。



「だってロコ、靴()れしてて痛そうだろ? ちょっと休んだら、少しはマシになるかなって」


「――!? ば、ばっかじゃないの! こんなの――あ、痛っ――大丈夫、だってば!」



 それ以上言い聞かせも無駄だと判断した僕は、ロコの手を掴み無理矢理引きずるように進んでいく。




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