第12話 秘密の約束 at 2021/03/30
「な……」
度肝を抜かれすぎて、俺の頭の中は真っ白になってしまった。
「おま……なにを……馬鹿なことを……」
しかし怪訝そうな顔つきなのはむしろ広子の方だ。手にした缶ごと俺を指差して言う。
「馬鹿も何も、事実は事実じゃん。隠すことないと思うんだけど? ずっと好きだったんだし」
「そ、それは……」
「まー。高校卒業の前日ってのがアレだけど。もっと早く付き合っちゃえば良かったのにさ」
「………………え?」
ち――ちょっと待て。
なんで広子がそこまで知ってる?
どこかで見かけたのか――いや、もし仮にそうだったとしても、いつからだ、なんてことまでわかるはずがない。お袋にだって話してないってのに。一体、こいつは誰から聞いたんだ?
まるで自分ごとのように嬉々として話す広子は酒の力も借りてますます饒舌になっていく。
「昔の秘密の約束なんて、あんなの気にしなくってよかったのに。あの子、真面目だからね」
まさか――!?
一瞬にして酔いは醒め、背筋に冷たい氷柱を一気に突き込まれたような寒気が襲いかかった。
「……おい、ロコ! その『秘密の約束』って一体なんのことだ!? どういう意味だよ!」
「あっ! あ、あの……いや、違くて……!」
とたんに広子の顔がさあっと青ざめた。
慌てて口を覆い、顔を背けたがもう遅い。
「何が違うんだよ! 今確かに言ったじゃないか! ……昔? 秘密の約束? 誰と、何を約束したってんだ? 教えろよ、教えてくれよ、ロコ! 言えって! いまさら隠すなよ!?」
とっさに俺の手が伸びてしまって、広子は恐怖に怯えた表情を浮かべながら両腕を交差させて防御の姿勢をとった。あとで思い返せば、広子の抱えている精神的外傷を揺り起こしてしまったのだろう。だがその時の俺は、とてもとても冷静な判断ができる状況にはなかったのだ。
「や、やだ……来ないで……!!」
立ち上がって広子が逃げる。それを俺が追う。
そして、気づいた頃にはもう手遅れ。
つまり、俺たちの人生と同じ。
「だあっ――――!?」
「きゃっ!?」
追いつき、もみ合いになっているうちに、俺たちの身体は宙に浮いていた。
「お、落ちる! 落ちちゃうっ!」
ごんっ!
「ぐ………………っ!!」
「だ、大丈夫!? ケンタ――」
ごんっ!!
二度目の衝撃。ああ、くそっ。
ごんっ!!!
「がはっ………………!!」
ついに三度目の衝撃で腕の中から広子の身体がふっとんだ。
徐々に意識が薄れていく――。