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第115話 仲直りと、勘違いと、期待と at 1995/7/14

「………………お、お早う」


「………………お、おっす」



 今浮かべている表情がちゃんと笑顔に見えるのか、かなり不安な僕。でもそれは、一瞬目線を合わせたと思ったら、すぐに反らしてしまった渋田の方も似たようなものらしい。



「「あ、あのさ――」」



 ハモってしまった。

 すると、隣から、ぷっ、という短い笑い声が届いた。



「なーにやってんの、二人して。あんたら、付き合いたての恋人か」


「ち、違うよ、サトチン!? こ、これは浮気じゃないんだよ!?」


「お、おぃい!? その言い方だと余計誤解されるだろうがぁ!!」



 馬鹿二人は、馬鹿丸出しの意味不明な言い訳を立て続けに口にする。それがますます面白かったらしく、咲都子はけたけたと爆笑しはじめた。あまりの笑いっぷりに思わず顔を見合わせる僕ら。やがて、どちらともなくいつもどおりの自然な笑顔を取り戻していた。



「おい、シブチン。この前は()()()()()()()()()()()()()()? とりあえず……サンキューな」


「べっつにー? なーんかカッコつけたがってる奴がいたから、はっきり言ってやろうと、ね」


「おっ、こいつ!」


「はいはい。カッコいいカッコ……いだだだだだ!」



 まだ抜け抜けと言い放つ渋田に仕返ししようと、奴の頭を小脇に抱えたヘッドロックの態勢でなんとなしに、ちらり、と視線を向けると、教室に入ってきたばかりのロコと目が合った。


 ――よかったじゃん、馬・鹿・弟・子。


 そこには言葉なんてなかったけれど、確かにそう言っているように僕には思えたのだった。






 そして日は登り、やがて傾き、LHRが終わる頃――。



『……ね? ね? ケンタ君、これ――』


『う、うん。……了解。一〇時集合だね』



 僕は純美子から渡された小さく折り畳まれてミニチュアサイズの手紙のようになったメモを誰もいない窓の方へ傾けて素早く広げると、中に書かれた内容を読み取って手短に囁き返した。



「じ、じゃあ、今日はテニス部の練習に出るから」


「う、うん。じゃあ、また来週だね、スミちゃん」



 ぱたたた……、とカバンを抱えて駆けていく純美子の後ろ姿の、耳元が赤く染まっている。それを一目見ただけで、たちまち僕の心臓まで早鐘を打ちはじめた。ウブな中学生かよ!


 結局、今日一日かけて純美子とメモのやりとりを繰り返し、ようやっと行く場所が決まったのだ。



(ま、まあ、僕の勘違いだってわかったから助かった……けど)



 メモのやりとりの二、三度目で『あ、これ、フツーに「出かける」って意味だな』と、苦笑まじりに気づくことができたのは収穫だった。いや、大収穫だった、と言ってもいいだろう。あのまますっかり勘違いした状態で話を進めていたらと思うと、ぞっとする。



(この前、佐倉君の練習を見に行ったのだって、考えてみたらただの『お出かけ』だしなぁ)



 よくよく考えれば自分だって同じような言葉で誘っているのだから、怒るわけにもいかない。



(……ん? いや、待てよ……?)



 そこで、はた、と気づく。






 あの時、純美子はどう感じたのだろうか、と。

 あの時、純美子は何かが起こることを期待したのだろうか、と。






(もしも僕と同じだったら……? 違ったらもう誘わないよな、フツーは。だとしたら――!)




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