第105話 『電算論理研究部』正式スタート!(1) at 1995/7/7
「――いえ、本当にありがとうございました。では、失礼しました! ……ふぅ」
今日正式に、『電算論理研究部』を正式な部として承認してもらうために必要だった部員数が確保できたことを荻島センセイ、そして校長センセイに報告した。二人とも、自分のことのように喜んでくれて、なんだかこそばゆい気持ちがした僕である。少し緊張しすぎたらしく、ドアを後ろ手に閉め、そのまま寄りかかるようにして安堵の息を長々と吐いた。
(ツッキーの件、やっぱり知ってたんだな……でも、ウチの部に入って安心したみたいだ)
僕は苦笑いに似た形に口元を歪めると、やれやれと首を振る。なんだか荻島センセイの思惑どおりに操られてしまっているようでちょっぴり癪だったけれど、その分、ずいぶん信頼されているようで嬉しかったのだ。
(ま、いいか……。よーしっ! 早速部室に戻って、みんなにも報告しておかないとな!)
僕の足取りは自然と軽くなった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ガチャッ。
「みんな、遅くなってごめ………………んんっ!?」
元・教師用当直室だった部屋のドアノブを回して引き開けると、七対の目が一斉に僕を見た。
え……?
多くなってない?
「おっ! お邪魔……してます……」
「はろー、モリケン」
「もう……なんであたしまで……ブツブツ……」
順に、純美子、咲都子、そしてロコだ。おかしいな? 今日は期末テストの返却はなかったはずなのに。だから今日は、フルメンバーでの正式な活動ができる、って思ってたんだけど。
「これ、どういうことなんだ、シブチン?」
「ちょ――僕に聞かないでよ!」
「いやいやいや。少なくとも、あの中の一名に関しては、お前が把握してるはずだろって」
「そ、それがさ――」
矢面に立たされた渋田は、背後からの視線を気にしつつも僕に何かを伝えようした矢先、あっさりと咲都子に割り込まれてしまう。
「――無駄よ。言ってないもの。どうせ止めようとするし、事が面倒になるのは嫌だから」
さばさばとした口調で言ってのけた咲都子は、そのまま僕と渋田を交互に睨みつけて続けた。
「なんで言わないのよ? なんで頼まなかったのよ? 部員が足りないんだって。入れって!」
「れ、冷静になろうよ、サトチン? そ、それは……えっと……」
「僕が、駄目だと言ったからだ」
しどろもどろな言い訳をしようと額に汗を浮かべる渋田を鋭く制して、僕は言葉を繋いだ。
「むしろシブチンは、頼んでみよう、と言ってくれた。けど、僕が許さなかった。それだけだ」
「……へぇ」
高身長女子である咲都子は、挑発するかのように僕に詰め寄るとドスの効いた声で低い声で呟いて睨みつける。割と背の高い部類に入る僕と大差ない位置にある瞳が細くすぼめられた。
「ねぇ? あんたになんの権利があんの? 許す、許さないって、あんたが決めることなの?」
「権利は――ないさ」
「じゃあ、なんで――!!」
さすがは未来の、フォロワー数五万人を誇る人気男装レイヤー様だ。凄味と気迫がまるで違う。しかし、僕も負けるわけにはいかない。ここで引いたら男がすたる。きっぱりとこう告げた。
「僕が欲しいのは仲間だ、同士だ。お情けや同情なんかじゃない。人数合わせの誰かじゃない」