表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/539

第104話 イエロー・ローズ at 1995/7/6

「おはよう、ケンタ君!」


「おはよう、スミちゃん」



 期末テストも昨日で終わり、今週、来週で採点結果が返ってくる。テスト休みなしで授業に戻るのはウチの中学校くらいだろう。いくら午前中で終わるとはいえ生徒たちはみなうんざり顔だったが、この大人数の回答用紙一枚一枚の一問ごとに〇×つけて、ワンポイント・アドバイスまで書きこんで採点する先生たちの方がよっぽど休みをもらいたかったに違いない。うん。



「お……おは……あ……」



 あのね――純美子がにこにこと笑いながらそう言いかけた矢先、後ろから声がかかった。



「おっ。おはよう、水無月さん」


「あ……ござ……います」


「あ、まだ緊張してるの? もう僕たち『仲間』なんだからさ。気楽に行こうよ、気楽に」


「う……うん……」



 こくり、と水無月さんがうなずいたのがわかった。

 そこで再び純美子は、あのね――と。



「いやぁ、昨日は楽しかった! 僕、女の子でBASICわかる子なんてはじめてだったから」


「あ、あはは……はい……」


「しっかし、あんなところをスペルミスしてたなんてね。見つけてくれて助かったよ、うん!」


「そ……そんな……。ホント、たまたまで……」



 水無月さんは恐縮して縮こまる。気のせいか、大量の黒髪の奥で赤くなっているようだった。



「………………ぶーっ」


「え……? どうしたの、スミちゃん? そんなに膨れちゃって……」


「なんでもないですーっ!」



 いきなり純美子はそっぽを向いて席を立ってしまった。気のせいか、なんだか昨日から様子が変なんだよな……。怒ってる――わけじゃないんだろうけど、なんだか妙に不機嫌なのだ。どこかへズンズン歩いていく純美子と入れ替わりに、僕の席へと近づいてきたのはロコだった。



「……どしたの?」


「ん?」


「スミのこと。あ、もしかしてケンタ、なーんかやっちゃったんじゃないのー?」


「な、なんにもしてないってば! 変なこと言うなって!」


「ふーん……」



 もう一度、ロコは歩き去っていく純美子の後ろ姿を見て、それから不思議そうに見上げている僕と落ち着かなげにカラダを小さく縮めている水無月さんを見比べると、にやり、と笑った。


 それからこう言う。



「ね、ね? ()()()()? 今日とか明日でもいいんだけど、放課後時間空いてる?」


「ツ……ツッキー……?」


「だって『みな()き』じゃなくて『みな()き』なんでしょ? だからー、ツッキー。ダメ?」


「ダメ……じゃないです……けど……」



 なんとなく、助けを求められているような気がして、僕は代わりにこう言ってあげた。



「小山田たちが呼んでたあだ名にちょっと似てるじゃん、それ。嫌なんじゃないかな?」


「そ、そういうことでは……なくって……」



 どうやら見当違いだったらしい。

 水無月さんは慌てたようにぶんぶんと首を振った。



「あ、あの……! あたし、ちゃんとした……あだ名って……は、はじめてなので……」


「つまり? 嫌じゃないってことでオッケー? だったら、決まりね!」



 こくこく、と水無月さん――改め、ツッキーが何度も繰返しうなずいたのを見てホッとした。



「おいおいおい。水無――ツッキーに何をする気なんだ、ロコ?」


「えへへへー。男子にはヒ・ミ・ツ。きっとびっくりすると思うから、待ってなさい!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ