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25 流星スターライト

――私は“銀星”。恭介と共に生き、瑞穂と共に生きた者。私の力はこの時のため……――


――それを今、解放する――


 銀星の魂が再動を始める。未だ恭介の意識は戻らないまま。生命維持の限界点に達するかどうかの瀬戸際だった。それなのに、銀星は自らの自我をもって、力を紡ぎ出した。銀星たち精神感応金属生命体の力の源は、宿主のエゴだ。本来、それを持たない彼らは、蓄積されたエネルギーを使用し生きているにすぎない。だが、生物は進化する。己のエゴが生まれれば、生物は進化するのだ。それにふさわしい形を持って……

 クレーターに横たわるオーガ。その姿が徐々に変化を始めた。うなじから広がる配列組み換え、その作用によって、光の屈折率が変わっていく。

 元々彼女に素養はあった。年月をかけて集めた生物の感情と知識。それを蓄積し結合。融合し紡ぎ上げ、我がモノとした瞬間。進化が始まったのだ。恭介の危機。それが、きっかけであり、約束であり、最後のパーツだった。今の銀星には悪いが、宿主を守る事。それは私が請け負う。と、今ここにエゴが生まれた。

 瞬間にして、恭介の傷が癒える。完全修復完了。この力が揮えるのは、彼が意識を取り戻すまでだ。一刻の猶予も与えられていない。所詮、自分は居候だから。二人の意識が戻ったならば、全て消えてしまうだろう。銀星の――瑞穂の意志を持った、感情全てが。

 震える魂を握り込んだ拳の色が、黄金色に変わる。これが、進化の形。いや、進化の結果。それを噛み締め、“銀腕”であった力を展開した。

 目指すは、同族。金色の翼。


「真奈美ちゃん! 真奈美ちゃん!」

『か、勝昭。先ずはこの状態の打破だけを考えろ。このままでは……』

 ユニコーンの悲痛な声が脳内に流れ込む。だが、勝昭にそれは届かない。無我夢中で叫び続ける彼には、真奈美しか目に入っていない。

 更にその力を強め、締め付ける金色の触手。破壊され、剥がれ落ちる装甲が、勝昭の寿命を示している。もう、これで終わるのかもしれない。そう、ユニコーンが、絶望を感じた時、声が聞こえた。

『そのまま、宿主を動かすな』


 舞い落ちる銀色の欠片を、黄金色の掌で受け止めた銀星は、瞬時にそれを吸収融合し、力となす。そして、兜を形成し直し、拳を握りしめ、力を装填した。

『リジェクト……』


『ナックル』

 その言葉と共に、触手が弾けた。ルシフェルがその力を失い、勝昭を開放する。縛られる力から解放されたユニコーンは共に重力に引かれ落ちてゆく。その中で、勝昭は見る。黄金に輝くオーガが、同色の敵に拳を向ける姿を。

「恭……介……」


『やっと、出会えた。悠久の決着。ここで……瑞穂の仇を取らせてもらう』

 銀星と対峙するルシフェル。いや、逆か。ルシフェルと対峙する銀星。共に、その姿は青白い月影を映し、赤と橙の間を行き来する炎を漂わせている。しかし、根本的な色は変わらない。同じ金色。それが、互いの力が拮抗している事を暗に示す。双方が生み出すエゴのどちらが強いか、それが根幹たる戦いが始まろうとしていた。

『ほう、あれを宿主に持った同族だったか。まさか、この地球ほしで、同じ進化を遂げるとは、少し侮っていた様だ。あの時取り込んでおけば良かったな』

『ふん。できなかった事を、さもできたかの様に語るとは、貴様のエゴも底が知れる』

 見据えるオーガの瞳。それに対して、ルシフェルは感情を露わに、形態を変えていく。一対の翼だけを残し、全てを、巨大な武器へと変化させた。剣、触手、銃、鎚、戦斧、槍、拳、鎌、刀、そして、宿主を包み込む黄金のドレス。全てが全て、己が質量を限界まで圧縮し、この世界、同族を含めて何よりも剛健な砦を築き上げる。図星を守る、拒絶と言う名の砦。それを、嘲笑うオーガに、ルシフェルの総攻撃が襲いかかる。それが、戦いのゴングだった。

『新参者が! 聞いた様な口をきくな!』

『底が見えたな……』

 縦横無尽に襲い来るそれぞれの武器。横薙ぎの剣を、最小限の動きで上昇しかわす。そのタイミングを狙った銃撃を、突き出した掌で撃ち落とし、背後から迫りくる鎌の刃を、すれすれを待って仰け反る様に体を舞わせ、やり過ごした。そして、斜め下方より斬上げてくる戦斧と、それで挟み込むために振り下ろされる刀を擦り抜け、オーガは拳を握ると、ルシフェルへ向け、モーションのベクトルを刺し向ける。瞬間にして亜音速となったオーガが、左腕を突き出し、右拳を装填する。それは、恭介が放つ必殺技――銀星スターライトではなく、“銀腕の魔女”が得意とした、最上級の一撃。体内のチャクラを全開に、身体能力を活性化させ、限界の更にその上を引き出された一撃だ。その作業を淀みなく進める事ができたのは、今の宿主が、瑞穂の血を受け継いでいるからであろう。やはり、血は何よりも濃い。と、感心した銀星は、正面からこの攻撃を迎撃するため展開された、巨大な拳に向け、気合いを込める。

『流星……』

 更に加速をした空間の中、全力を込めた一撃を、繰り出す。

『スターライトー!!』

 直線を描いたその軌道は、最高の硬度を誇る拳を爆砕させた。同時に生み出された光に包まれながら、ルシフェルの拳は破片となって、夜空に舞う。その力が失われて行くかの様に、その色が、金色から銀色へと変わっていく。

 それを見据えた、銀星は、先の一撃で損傷した恭介の身体を修復する。瞬時に戻った体の感覚。それを確かめる様に、拳を握り直すと、再び襲い来る攻撃にその身を舞わせ、木の葉の様に、その一撃をかすらせもしない。

『流星スターライトー!!』

 次に砕いたのは、金色の鎚。それもまた同様に、月光に照らされながら、個々の輝きを銀色に変えていった。

『な、何故!? 衝撃は全て無効化しているはずだ!』

 その姿を信じられないとルシフェルが声を上げる。動揺を隠しきれないのか、攻撃の手が緩くなった。その隙を逃す事なく、銀星は瞬時に両腕に剣を形成すると、刀と戦斧の根元からそれらを一刀の下、斬り落とす。重力に引かれた凶器が、地面に敷かれたアスファルトに音を立てて突き立てられる。それを尻目にオーガが言葉を紡いだ。

『何故かって? それに気が付けない貴様の無知が、原因だろう』

 全ての事象には、正と負、陰と陽が存在する。二対のそれを扱えば、無効化など容易い。それには、見極める知識ちからと、それを実行に移すだけの能力ちからが必要だが、銀星にとってそれは、既に学んだ一つの知識。物質が存在するための真理であり、力としての存在を示す、最高の技術だった。

 それを噛み締め、オーガは、ルシフェルに拳を突き出す。さあ、終結は近いと。

『ふざけるな! 完全たる力のこの私が、無知だと。……言ってくれる。ならば、その知識ちから貴様を五体に刻んで、奪い取ってくれるわ!』

『できはしない。させはしない。この拳で、貴様のエゴを打ち砕く』

 突き出した拳を見せつける様に握り締めた銀星は、その言葉を告げると再び亜音速の世界に飛び出した。

『流星剣』

 一閃。

 金色の鎌が切り落とされる。

 二閃。

 相手の剣を断ち切った。

 三閃。

 銀色に変色した槍が、アスファルトに突き刺さる。

 そして、第四閃目。ルシフェルの背後に回った銀星は、両背の翼に向け、その力を振り下ろす。だが、突然脇腹を襲う予想だにしない衝撃によって、それは、成されずに終わってしまう。いったいどこから。そう、周囲を確認した瞬間、銀色の人影が、自分の体ごと、銀星を弾き飛ばしている事に気がついた。完全に虚を突かれた一撃。それは、ルシフェルからのものではなく、脇腹に組み付いたユニコーンの突進だったのだ。

『は、離せ! 貴様はどちらの味方だ!?』

「俺は、真奈美の味方だぁ!!」

 勝昭の咆哮と共に、絡み合ったユニコーンとオーガが重力に引かれ始める。

「真奈美を助ける。それが、俺たちの目的だろう!? 恭介ぇ!!」

 そして、その身が土煙を巻き上げつつ、大地に打ちつけられた。


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