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19 巡り会う星 ユニコーンとオーガ

「えらく派手にやったもんだな。銀星」

 基地の中心。元々開けた場所に降り立ったハチドリは、その姿を最強の鎚へと変えていた。惨状を見渡しながら、恭介は目を細める。遠くで未だ吹き上がる火柱。基礎を残して吹き飛ばされた建造物。撒き散らされた何かの残骸。これで、死傷者がいないというのは奇跡としか思えない状況に、溜め息が漏れる。

『必要最小限だ。これで戦意を喪失してくれれば、人とは戦わなくて済む』

「喪失してくれたらな……」

『多くの者は失ってくれた様だが、やはり、同族に対しては効果が薄かったようだな』

 銀星が感じる同族の気配。遠ざかる事なく近づいてくる。間違いなく、敵となるだろう。だが、それにしてもおかしい。ここにはβ《ベータ》が隔離されているはずだ。だが、それに関する反応を何も感じない。情報が間違っていたという事なのだろうか。疑問が浮かぶ。しかし、暇を与えない同族の反応が銀星を貫く。

『また派手にやってくれたな』

 銀星を通じ、恭介にも流れ出す言葉。頭の中に反響する声は銀星より少し低かった。

「どうした? 銀星」

 戸惑う恭介に、銀星は言葉を紡ぐ。

『精神間通信。同族間だけにおける無線通信だ。これは元々、我々の技術ではない。君の母が発案した技術の一つ。相手は間違いなくW.STARの宿主だろう』

「敵か?」

『ああ、間違いない。敵意が混じっていた。方向は二時。そろそろ肉眼で確認できるはずだ』

 恭介が銀星の示す方向に目を凝らす。立ち上がる火の陽炎の向こうで、徐々に大きくなる人影が見えた。あれが、宿主。姫が囚われる魔王城の門番だ。その門番が、膝を屈め何かを拾う仕草が見て取れる。すると、拾った右手が膨張した。スラリと伸びた右腕のシルエット。それが、こちらに向けられたと思った瞬間、あの声が響く。

『さあて、まずは挨拶だ』

 同時、陽炎が破裂し、その中心から砲弾が襲いかかる。銀星が反応するより、恭介の動きが早い。右手で砲弾を掴み取ると、見せつけるように握りつぶす。粉々に砕け散った砲弾が元はコンクリート製だったと言い残し、上昇気流で舞い上がった。

「やってくれるじゃねぇか」

 そう独り言つ恭介の先には、一瞬だけ姿を見せた銀色の騎士が右腕を砲台とし狙撃した事が認められた。その事で銀星は相手の実力を知る。再び揺らぐ陽炎の向こう。そこには全身を防護した相手がいる。その事だけを見て取れば、この舞台を作り上げたのは不利だった。恭介には生身の部分が多すぎる。

『恭介、力を望め。全身に纏う強固な鎧を想像するんだ』

「あん? 何でだ? このままでも戦えるだろう」

『君は炎で身を焼かれたいのか』

 相手はγ《ガンマ》で身を包み、炎の中を更に歩み寄る。その姿を見据えた恭介は、銀星の思いに応えた。

「力をくれ銀星。俺が望む鎧を」

『任せておけ』

 言葉が流れ出す。最強の鎚が一回り小さくなった。代わりに左腕にも同じ鎚が、胸と背中を引き締まった筋肉様のディテールで包み、下半身を鋭角なうろこ状の脚絆きゃはんで覆う。そして、闘争心を表現した面兜が力強い二本角を突き出し、全てが銀星で包まれた。まるで、鬼人きじんを思わせる姿。これが、恭介の思い描いた鎧だ。

 確認するように、両拳を握り込む。違和感はない。銀星が顔面全てを覆っているというのに、視界も変わらない。ハチドリであったころから感じていた。いや、牡鹿との戦闘でも感じた事だ。自分は、銀星を通じて世界を見る事が出来る。それが、確信に変わっただけだった。

『油断するな。来るぞ!』

 銀星の警報が鳴る。それに素早く反応した恭介はその視線で、再び弾ける陽炎を見た。しかし、今回は砲弾ではない。一角を突き出し、迫りくる銀色の騎士がその間合いを人間離れしたスピードで詰める。その右拳が固く握られているのが見えた。

 それに合わせて恭介は必殺の右拳を装填する。小細工なし。拳と拳のぶつかり合いだ。

「銀星ぇ……」

「リジェクト……」

『逃げろ恭介!』

 騎士の声が聞こえた。その意味を理解した銀星が声を上げるが、瞬間。間合いが交錯し、互いの声が爆発した。

「スターライトォー!!」

「ナックルゥー!!」

 互いの拳が拳を捉える。押し出された風圧が周囲の炎を退かせた。互いの足が地面のアスファルトを踏み抜く。硬直する時間。一見互角に見えるそのやり取りは、数瞬の後、結果を見せた。恭介の腕が悲鳴を上げる。拳が砕ける音がした。そして、その残響を残し、陽炎の中へと弾き飛ばされる。

「がぁあああ!」

 重力に引かれながらもほぼ水平に回転しながら飛ぶ恭介。地面に触れた瞬間、糸の切れた人形の様に跳ね、地面を転がる。激痛が走った。右腕が、全身が熱い。仰向けに見上げた夜空が、遠く見えた。

『恭介。すぐに治してやる』

 銀星の言葉が遠くで聞こえる。その瞬間、右腕の痛みが遠のいた。銀星にはある力も備わっていた。それは、宿主の傷を癒す能力だ。自己再生といった自然治癒力を高めたモノでもあるが、それだけでは説明できない治療も可能としている。以前一色に貫かれた腕もこの能力によって治療、完治していたのだ。

「何でだ銀星。何で、俺の拳が通用しない?」

 零れ出た恭介の疑問。弱々しい言葉に銀星は無言で治療を続ける。銀星の取ってその答えは簡単すぎた。技術の違いだ。もし、先代の記憶を受け継いでいなかったら、簡単にこの答えは返す事ができなかっただろう。

 宿主同士の戦いを想定した技術。それが使用されたのだ。全てにおいて彼女は用意周到だった。最強のほこであり最強の盾である力を持った宿主同士の戦いとは、即ち盾の削り合いにある。全身を盾で覆った相手をいくら攻撃したところで、それは無効なのだ。ならば、盾を排斥リジェクトし生身の部分へ衝撃を与えなければならない。それを可能にする能力。それは、強制分離と呼ばれる技術だ。恭介は一度、一色相手にそれを成しているが、攻撃と合わせて強制分離など、宿主の技術が違う。圧倒的に恭介には経験が足りなかった。焦りが生んだ結果。後悔しても、しきれない。

 そこで、治療が完了する。粉砕された骨を、破断した筋肉を、弾けた血管を全て繋いだ。神経も問題ない。これで動けるはずだ。

『恭介。動けるか?』

「動ける。痛みもねぇ。だけど銀星。あいつに勝つにはどうすれば良いんだ」

 その言葉が恭介の口をついた時、返答の様に聞こえてきた騎士の声。

『まだこれからだぜ、眠るにはさ……』

 恭介の背筋に悪寒が走る。目の前の陽炎からあの騎士が拳を振り上げ、姿を見せた。

「早い!」

 肉声と共に振り下ろされる騎士の拳。言葉には出していないが、間違いなく“リジェクトナックル”。考えたところで、防ぐ術などありはしなかった。

 咄嗟に構えた恭介だったが、顔面を防ぐためにクロスさせた両腕を避け、その拳が腹部へ突き刺さると、背にしていたアスファルトが同心円に陥没する。

 内臓が弾けた。肝臓が、腸がおびただしい血液を体内で放出した。激痛と共に逆流する血液、声にならない空気が押し出され、赤い声が噴き出す。

 にもかかわらず、恭介は右拳を握り締めた。繰り出す拳は、弱々しい。全身をγ《ガンマ》で纏う者ならば、よけるに値しない攻撃だ。だが、騎士は飛び去るように距離を取ると、声を送る。

『なかなかタフじゃねぇか。さすが、その二本角は伊達じゃねぇな。ユニコーンの宿敵、オーガ。だが、物語じゃ、お前は俺に殺されるんだ。裏切り者オーガ!』

 騎士の声が頭の中で響く。その中銀星は治療にあたっていた。もうすぐ完治する。だが、恭介は言葉の意味を噛み締める。聞き覚えのある名前だ。記憶を遡ればそれは深いところで見つかった。同年代ならば皆知っている特撮ヒーローの名前。幼稚園の頃、日本で最高の人気を誇った。正義の戦士ユニコーンとオーガ。その二人が悪の秘密結社メフィスタンを壊滅に導く話だ。番組開始当初、ヒーローの人気は二分される。白夜騎士ユニコーンか、紅蓮闘士オーガか。しかし、途中ヒロインがメフィスタンの人質となり、オーガは彼女を守るため、ユニコーンと戦い、その命を落とす。幼い子には残酷で、斬新なストーリーだった。勧善懲悪ではなく、心を描かれたストーリー。その後、周囲でオーガは敵役だったと言われるようになった。

 もちろんその人気に、恭介含む幼馴染三人は“ゴッコ”と名をつけ、それぞれを演じ遊んだのだ。恭介は、オーガ派だった。勝昭はユニコーン派。真奈美は何も言わずヒロイン役を選んでいた。

 それを思い出し、まさかという思いが、恭介の脳裏に過る。


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