幽霊の研究
「お化けなんかいないよ!」
そんなことは子どものころからによく聞き、説明された。だが、どうしても気になって仕方ないのだ。
人間は未解明なものを恐れるからだ。
就職活動が終わり、少しだけ時間が出来た。そこで私はある研究をすることにした。
「幽霊の研究」だ。
まず、私は幽霊とはどのようなものかと調べてみることにした。
どうやら、死んだ者が成仏できず姿を現したものことを言うらしい。
それを踏まえたうえで、実験を始めよう。
最初の実験体としてペットのジュンを選ぼう。
最近、引っ越してきた隣人からうるさいと苦情もきていたし、ちょうどいいだろう。
何も知らないジュンは私を見ると「ワンワン」とじゃれついてきた。
そこで私は机を離れて、ジュンと共に散歩に出ることにした。
外に出ると、ぶわっと熱気が私を包んだ。
部屋の中ではエアコンをつけているから涼しいのだがやはり外に出ると熱い。
今日のニュースで三年ぶりの熱さといっていた。外に出るだけで、汗がにじみ出ているのを感じる。
この時期だと、熱くなって来て、目的がないと外に出ることが少なくなってしまう。これはちょうどいい機会なのだ。
近くの公園を回り、人通りの少ない道路を選んで、森の中へ入った。
子供のころに見つけたいい避暑地があったのを思い出したからだ。
五分ほどすると目的の場所が見えた。あの頃と何も変わっていなかった。
平地林に出ると、おいしい空気が肺の中いっぱいに広がり、林たちが私たちを隠し、絶妙な清涼感を与えてくれた。今日は絶好の実験日和だと教えてくれているようだった。
そうだろうという答えを期待して、ジュンの方を見る。
どうやら見たこともない場所にきて警戒しているようだった。
犬は飼い主に似るというが、どうやら本当らしい。
そろそろ始めよう。
私がかがむとジュンはこっちにやって来た。
抱きしめると同時に持ってきたナイフで後ろ足を突き刺した。
逃げないようにするためだ。
すると何が起こったのかわからないというようにうるさく鳴き始めた。
生き物が死ぬ間際とはこんなにも往生際が悪いものなのか?
私は苛立ち、遠くへ放り投げた。
近づいて確認すると、固い岩にでもぶつかったのか、ピクリとも動かなくなっていた。
一応、確認のために死骸をそこら辺の棒でつついてみる。
反応はない。
二年くらい世話をしていたから、殺して何か感じるものがあるかと思ったが、なんてことはなかった。命の儚さを実感した。
フンの処理用にシャベルを持って来て良かった。
それで穴を掘り、死骸を埋めた。
私の手で殺せなかったのが心残りだがまあいいだろう。
私は達成感からかもう暑さを感じなかった。
家に帰ってくる頃にはもう夕方の六時を回っていた。
テレビを見たり、エアコンをつけたり、風呂などに入ってみるが何の変化もない。
フードストッカーやタンスを開けてみても何の変化もない。
ベッドに入ってみても何の変化もない。
ジュンは私がベッドに入るといつも傍に来たものだが...。
ということは、幽霊はいないという結論になる。
これで安心して熟睡できる。
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起きて考えた。
自分の手で殺したならばやはり、違う結果が得られるのではないかと。
そこでペットショップに行き。
ジュンと同じ日本スピッツを買ってきた。
同じと言ってもこちらの方が老犬だ。あと一年ほどすれば、処分されているような年だ。
ここで私は一つ考えた。
私は命の最も良い使い方しているのではないか?と
私は少なくとも犬を飼い殺したりして、命を弄ぶようなことはしていない。
つまり、そこら辺の飼い主よりは命を大事だと考えているのだ。
今度はなるべく虐待を中心にして飼育してみることにした。
恨みを持つほど、強くその念が現れると聞いたからだ。
水や餌をやらず、吸音材を敷き詰めた押し入れに押し込んだ。
すると弱ってきたのか、吠えることも少なくなった。
隣人からは「ところで最近静かになりましたねー。最近ね、息子が就職活動するようになって、母ちゃんに迷惑かけないようにするってようやく言ってくれるようになってくれたんですよー」
嬉しそうに言うが、私にとってはどうでも良いことだ。
そして実験体二号をカバンにいれ、ジュンを埋めたところに連れてきた。
埋めたところから骨が出ている。
恐らく、シャベルで十分に埋めきれていなかったので、野生動物が掘り起こしてしまったのだろう。
ファスナーを開け、ゆさゆさして中の物を地面に落とす。
「ドサ」という音が響いた。
四日ほど餌や水をやらず、押し入れに押し込めていたのだから弱っているのは当たり前のことだ。それにしてもこんなになっても生きているとは生命の神秘さを感じる。
十分に弱っていたが、痛めつけるように顔や体を殴る。
ところで、誤解してほしくないのだが、私はグロテスクなのものが好きだとかサディストだとか決してそういった人物ではない。ただ単純に疑惑を解消するために行動しているだけなのだ。そういう意味では、私は一介の研究者である。
世のため人のためにやっているのである。
「キューン...」
久しぶりに鳴き声を聞いた。その声と同時にこと切たようだ。
同じように埋めて、部屋に戻る。
やはり部屋の変化はない。
これで本当に熟睡できる。
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すると次は当然、人間で試したくなってくるだろう。
私は人間を殺すことが出来るのだろうか?
私は軍手をつけて、ゴミ拾いをしている人の格好をする。
ゴミ袋を持ち、トングなどの道具をバケツに入れ、帽子をかぶり、ジャージを着ている。
いかにも社会貢献をしているお人好しの格好だ。
しばらく町をゴミ拾いして歩いているとボケーとした老人がいた。
「荷物をお持ちしますよ」
「どうもありがとう」
左手にゴミ袋、右手に老人の荷物とバケツ、そしてこの暑さ、楽ではないが目的を成し遂げるためには必要なことだと自分に言い聞かせた。
適当な雑談をしながら、下に川が流れる橋に来た。
町を出て、寂しいところにある車がギリギリ通れるくらいの一本橋だ。今時珍しく橋に手すりがないため、危ない橋だ。
川から流れる涼しい風が私の頭を冷静にさせる。
老人はここから先のところで農家を営んでおり、この老人の家があるらしい。
どうやら町には奥さんの喜寿のお祝いを買いに行って、驚かせるために車に乗って行かなかったようだ。
「ここからは一人で大丈夫、どうもありがとう」
私はあることに気づいた。
今、ここら辺にはカメラもなく、人通りもない。
そして人を落とすにはちょうどいい橋がある。
正直に言って、私は人をどうやって殺すかを考えていなかった。
ひょっとすると、人を殺す勇気はなかったのかもしれない。
しかし、これではまるで、神が私の実験を観察していて、その結果を見たいとわざわざ実験体と舞台を用意してくれるようだった。
ああ、もはやこれは私一人のための実験ではない、人類全体に役立つことをしているという確信があった。
人殺しなど恐れるに足りない。
「ええと..大丈夫ですか?」恐る恐る老人が私の目をのぞき込む
荷物を置くと、実験体三号の手を掴んだ。老人はいきなり掴まれて混乱しているようだ。
「ちょっと、どうしたんですか?」
応える必要はない。橋の中央まで行き、頭から落ちるように橋から落とした。
人が落ちる時とは意外と静かなものだ。何かを言う余裕がないのかもしれない。
いきなり「パーン」と、石と石がぶつかり砕けたような音が辺りに響いた。
下を見てみると頭が割れ、内容物が出ており、澄んだ川を汚していた。
その光景をスマホで撮った。
もしかしたら心霊写真になるかもしれない。
長居する気もないのでこいつの荷物だけ下に落として帰ることにした。
家でその写真を印刷して、額縁に入れ、テーブルに飾ることにした。
神がくださった生贄であると同時に、変化があれば、すぐにわかるようにしたいと考えたからだ。
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相変わらず、部屋には何も変化がない。
写真にも変化はない。
しかしよく撮れている。この写真から死臭が臭ってくるようだ。
脳みそが飛び出た頭の目がぎろりと私を見たような気がした。
ところで実験体第三号のついてことは事件性はなく、事故ということになっているようだ。あんな橋であるから当たり前だと思う。
もう何回か、人で実験をしてみよう。
一回だけではちゃんとした実験になっていない。例外となっている可能性があるからだ。
そこで思い出したのが隣の息子のことだ。
ある時から、家に引きこもるようになってきてしまい、今では親のすねかじりになっているという話だ。
クズが人類の役に立つ時が来たのだ。喜んで役に立ってくれるだろう。
夕方ごろに隣に行き、チャイムを鳴らす。
出てくるとそこにはスーツを着た好青年がいた。
ああそういえば、こいつは働くつもりがあったことを思い出した。
まあいいか。
「こんにちは 最近、勉強を頑張っていると聞いているよ。そこで面接の心得とか教えてあげようと思うのだけれど、時間は大丈夫かな?」
「ええ大丈夫です、ぜひとも教えてください!」
「それじゃ、近くの喫茶店でご馳走してあげよう」
ちょろい奴だ、もう少し警戒したらどうなのだ。
家から出ると、ケーキがうまいことでよく知られている近くの喫茶店に行くために信号を待つ。
よし、ここだな。
「社会復帰を試みたが、様々な重圧に耐えきれずに自殺した」こんなところでいいだろう。
トラックが近づいてくるのを見ながら実験体四号を突き飛ばそうとした。
その時だった。
「!?」
私の方が突き飛ばされていたのだ。
尻餅をつき、歩道の方を見るとそこには鬼のような形相をした老人と二匹の犬がいた。それはよく見れば昨日の実験体三号であり、二匹はこれまで殺したやつだった。
こうしてはいられない。スマホをポケットから出し、すぐさま奴らの写真を撮る。
迫ってくるトラックを横目で見ながら、私は満たされていた。
これで幽霊が存在するか自ら死んで確認することが出来る。
この死は必ず役に立つ時が来るのだ。
あの息子は採用されたようだった。
ご覧頂きありがとうございました。
この作品は私が初めて書いたものであるので、誤字脱字、表現間違いなどがあるかもしれません。
もしよろしければ、ご意見よろしくお願いします。