Ep08 生意気冒険者デビュー
「ああ?お前馬鹿なんじゃねーの?」
ボルゲーノはまた受付にデカい態度をとっていた。迷惑な客だ。
「ボルさん……焦る必要は無いよ。時間の問題だよ」
「主……」
まあ余裕で冒険者に成れたゆいととボルゲーノなのだが、最初は最下位のGランクから始まるらしい。それに不満を持ったボルゲーノだったが、ゆいとの言葉の意図を察した為黙った。
ボルゲーノは人の姿ではどうかわからないが、本来のドラゴンの姿であれば既に複数のAランク相手に圧勝した実績を持つ。戦闘能力だけで見ればAランクスタートでも問題無いと考えるのは不思議では無い。
しかし、私はAランクの冒険者をボコボコにしましたと言うのも問題だ。更に自分は人殺しの暗黒竜ですなんて言うと大問題になるだろう。故にゆいとは止めた。
迷惑な客だが、受付嬢は仕事を進める。
「そちらの冒険者ギルドカードの再発行には多額の手数料に加え、今回受けてもらった検査とは別に、ランクに応じた再検査を受けてもらう必要が有ります。大切に保管してくださいね」
渡されたギルドカードはなんと顔写真付き。裏には冒険者ギルドのルールが書かれている。
「って事は、昇格試験とか有るんですか?」
「有るには有るのですが、基本的には熟した依頼の難易度によって評価されます」
「なるほど、つまり自分のランクよりも高ランクの依頼を完了すれば昇格できるんですね?」
「基本的にはそうなりますね。それと、多くの冒険者の方々は、パーティーを組んで活動されます。エイブラムスさんとボルさんも、是非お仲間を探してみてください」
「なる程、わかりました」
しかしゆいとは思った。きっとボルゲーノとウーナと3人でパーティーを組むことになるのだろうな、と。2人を野放しにすると何が起こるかわからないから不安だし、無闇に新しい人を入れて秘密を知られたらその時また面倒だ。しかしいつまでボルゲーノの正体は隠していられるのだろうか……ゆいとは不安だった。
「じゃあボルさん。とりあえず、依頼見てみようか」
「わかりました主!私主にならどこまでも付いていきます!」
受付嬢は苦笑いだった。ヤベーやつだよこいつら。
しかし受付嬢はまた目撃してしまう。
「エイブラムスー!」
カウンターを離れたゆいとの元にウーナが走って来た。そしてゆいとに跳んで抱き付き、顔を舐める。
「ちょっ、やめろって」
ゆいとがウーナを引き剥がそうとした時、既にウーナの体は離れていた。
「おいクソ犬、主が嫌がってるだろーが」
ボルゲーノが首根っこを掴み上げていた。闇の魔法は使わずにちゃんと手で掴んでいる。
「ご、ごめんなのだ。う、ぶたないでほしいのだ」
投げ捨てられたウーナは大きな音を出してテーブルに打ち付けられた。先程の適性検査の様子を見ていて2人を勧誘しようと考えていた周囲の人々も、流石の問題行動に驚かざるを得ない。ゆいとも焦っていた。
「ちょっ!チョッ!ちょい待てやオイ!」
ゆいとは若干キレ気味に言う。
「おいボル、問題は起こすなって言っておきながら何だこのザマは」
「あ……主」
「それにいきなり投げ飛ばすとか流石にヤバいだろ。お前また体に大穴開けられたいか?」
「あぁ、あ、主……それは……」
倒れたウーナの元に雀が飛んでいった。するとウーナは雀の体を両手で掴んで泣き出した。
「エスシーエスー!うわーん!エスシーエスー!ウーナ悲しいよー!」
まあ泣き喚いてて悲しくない人なんて居ないと思うけどね。
「おいゆいと、好感度アップイベントだぞ」
やはりこの雀ヤバイ。
しかしゆいとはウーナの好感度を上げていいものなのか少々悩んだ。けどどうせこの先も一緒にいるなら上げておいた方が良いと思った。
ゆいとはウーナの側でしゃがみ、頭を撫でる。にしても獣人の耳は大きいなとゆいとな感じた。
「おいウーナ、しっかりしろ。お前は誇り高き人狼なんだろう?」
「そうなのだー!ウーナは強い子なのだー!おおおおーん!」
ウーナはゆいとの胸に抱きついて顔を鎮める。ゆいとは半分呆れながらウーナの頭を撫でる。こいつチョロい。しかし雀は言う。
「こいつ、私を握りつぶす気か……」
「!」
ゆいとは驚いた。それはマズイ。
「ウーナ。エスシーエスの事離してあげて。苦しそうだよ」
「ご、ごめんなのだ」
「ぶたないぶたない大丈夫だって」
「エイブラムスー!」
ウーナはゆいとの優しさに感動していた。そしてもう1人、ボルゲーノもまた同じく感動していた。
「あ、主……何という器の広さ……」
たぶんお前の基準が小さいんだと思う。ところでボルゲーノは1人と数えていいのだろうか?まあいいや。
ゆいとは泣き止んだウーナと共に掲示板を見ていた。さすがに周りの連中もゆいとに話しかけられないでいた。あのボルってやつがめんどくさそうな上強そうだからだ。
「巨大モンスター、デカギュー討伐かー……」
ぶっちゃけあんな依頼こんな依頼、ゆいとには全然わからなかった。初心者は右も左もわからない。
「依頼主、ボクジョー村村長。近頃夜な夜な村の牧場が巨大生物のデカギューに襲われています。このモンスター達を討伐してください。推奨ランクB。完了条件、現地にて説明。報酬、2,000,000カネー」
「草。これギルドは調査員とか送ってるのか?だとしたら評価だけして放置だな、強制力が無いのが冒険者カッコわらと傭兵の違いなのかもな」
「……」
まだギルドの正体はよくわからないが……雀の言葉を聞いたゆいとは少し悲しくなってしまった。
「ボルさん、このデカギューって強いの?」
「ただの御馳走ですよ」
「じゃあこれにしようか」
「はいっ!」
依頼書を剥がすゆいとの姿を見てボルゲーノは上機嫌だった。ご馳走にありつける。
しかし周囲の認識は違った。Gランクの成りたて冒険者がいきなりBランクの依頼。満ち溢れる自信、尋常ではない。
2人を心配するの気持ちはウーナもまた同じだった。
「エイブラムス、大丈夫なのか?ウーナ心配なのだ。デカギューは美味しいけど強いのだ。群れで行動するから大変なのだ」
だがボルゲーノが想像以上のバカであるか、或いはゆいとを陥れる気でなければまず問題無いだろう。戦闘能力だけで見れば。
「まあ、ダメそうだったら逃げ帰ってくれば何とかなるよ。何せGランクなんだから」
ゆいとにも意外とゲスい一面があったようだ。
依頼は依頼書を受付に持っていく事で契約が行われる。こうする事で手柄の横取りを防ぐのだ。報酬は契約者にしか支払われない。ゆいとは手にした依頼書を先程の受付嬢に提出する。
「この依頼受けます。参加者は私とボルとウーナの3人です」
ゆいとに依頼書を渡された受付嬢の笑顔は若干引きつっていた。
「あの、流石に身の程は弁えた方が宜しいかと」
「けど他に引き受けてくれる人が居なかったからあそこに依頼書が残ってたんですよね?」
「……あの」
「村の人達は生き残ってるんですよね?」
確かに依頼を受ける前から依頼主が死んでいたら、文字通り話に成らない。加えて襲われている人が居るのであれば早く助けなければ。
ゆいとの目は受付嬢のものよりも冷たく感じる。単に調子に乗ってノリだけでバカな事をしている様には見えない。実際はわからないが。
「……わかりました。それではギルドカードをご提示下さい」
こうしてゆいとは冒険者デビューを果たしたのだった……