Ep07 謎の武器
新人の後輩は可愛いもので、先輩風に吹かれる者は少なくない。初心者狩りは楽しいもので、初心者よりは強い自分を強いと錯覚する者も少なくはない。自分が見たアニメやドラマを他人が見ていると純粋な視聴を妨害してくる面倒な奴もそこそこ有名なものだ。ここ、重要ね。よく覚えといてね。
そんな感じに、冒険者達はゆいととボルゲーノを面白そうに見つめていた。ウーナもこれに混じって期待の眼差しを向ける。
外に出された2人の前には木製の上半身だけのマネキンが2体地面に刺されている。そしてそれを囲うように野次馬たちが集まる。正直ボルゲーノは気分が良かった。
「冒険者適性検査官のテキシテルだ」
「エイブラムスです。彼はボルです」
「ではさっそく腕試しにあの人形に攻撃してもらうが、武器は要らないのか?」
「あっ出します」
ゆいとはM16A4アサルトライフルを瞬間的に召喚した。
「なる程、武器を召喚できるのか」
検査官は表情を変えなかったが、野次馬達は驚いていた。
「しかし、変な武器だな」
M16A4アサルトライフルのカスタムモデル。光る照準器にライト、レーザーポインターにM26ショットガン。そしてOKC-3S銃剣が装着されている。レーザーやライトの電源はオフにされている。結構重たそう。
つまり、ボディーごと改造されたカスタムライフルなのだ。
「先端にナイフを取り付けた、槍か?こんなもので大丈夫か?」
「たぶん」
野次馬達は小さな声で会話する。
「あの人形、ああ見えて魔法で強化してあるから、そう簡単にゃ壊せねーんだよな」
「けどあいつだって、刃はショボそうだが、見た目に反して強いのがもしれないぞ?」
勿論、刃はオマケだ。
尚召喚時にカスタム内容は変更できる為、例えばナイフを陸軍仕様のステンレス性多目的ナイフ、M9バヨネットにする事もできるし、アンダーバレルにグリップやM320低速グレネードランチャーを装備する事もできる。
今召喚したカスタムは召喚方法を雀に教わった時に近接戦闘用としてお勧めされた内容だ。
「では、方法は問わない。好きにあの人形を攻撃し、破壊してくれ」
「はい」
ゆいとはライフルのセレクターを"BURST"に合わせ、コッキングレバーを引く。ボルゲーノもゆいとがこの武器を使うのは初めて見る。
膝を曲げて姿勢を落とし、前傾姿勢で反動に備える。ゆいとはライフルを構える。ストックの上の部分を肩にしっかり当てて、両目を開いたままホロサイトを覗き込んだ。照準をマネキンに合わせ、引き金に指を置く。
「攻撃します」
"トトトン!"
大きな音と共にマネキンは胸が削り取られた。さすがの突然の大きな音に検査官もボルゲーノも驚いてしまう。ウーナや野次馬達は更に驚いていた。
"トトトン!トトトン!トトトン!"
マネキンはそこそこ破壊されているが、意外に耐える。
M16A4に使われる弾薬はぶっちゃけ小さく、人間を殺す力は十分でも、物を破壊する能力は高くはない。
ゆいとはM26アンダーバレルショットガンのコッキングレバーを引き、こちらの引き金に指を置く。マネキンの後ろには誰もいない。
"ドバーン!"
爆音と共にマネキンは吹っ飛んだ。ボルゲーノはとても嬉しそうだった。
意外にも思えるが、ゆいとは銃の反動に平気そうに耐えていた。これにも戦車の力が関係している。
「テキシテル検査官。人形を破壊しました」
「みたいだな……合格だな」
ゆいとはマネキンに近付く事無く触れずにこれを破壊した。野次馬達は何が起きたのかよく理解できていなかった。
しかしゆいとは不安だった。ボルゲーノがあんなマネキン壊せないはずはない。しかしその手段が問題なのだ。近頃近くで色々やってた暗黒竜がここに居ると知れたら大問題だ。もしかしたら討伐の依頼とかもここに掲示されているかもしれない。一応その闇の魔法とか使わないでとは言ってあるが……心配だ。
「では次、ボル、お前の力を見せてくれ」
とは言ってみたが、テキシテルはもう試さなくても良いような感じがした。
「ボルさん、あの、わかってるよね?」
「大丈夫ですよ主、軽くぶっ飛ばすだけですよ」
「威力の問題じゃなくてさ、方法の問題だよ?」
「大丈夫大丈夫」
大丈夫を連呼されると逆に不安になる。これだいじょばないパターンでは?
ボルゲーノは歩いてまだ攻撃されていない方のマネキンに近付くと手を上げ、大声で言ってしまった。
「ドラゴンクロー!」
ボルゲーノの手が振り下ろされる事によって出現した4本の黒い軌跡の様な物は、マネキンを見るも無残に破壊してしまった……
野次馬達は恐怖した。
「えっ?ドラゴンクロー?」
「一撃で?……」
「武器使ってないだろ」
「あれ絶対やばいって。あいつら絶対ヤバイって」
周囲の反応を見てゆいとは不安だった。
「どうです主?問題無いでしょう?」
「お前後で説教な」
「えっ???」
もうボルさんとも呼ばなくなってしまった。
「ボル、お前も合格だな」
検査官はため息を付いた。
感動したウーナが拍手をすると、周囲もそれにつられて拍手は広がった。ボルゲーノは素直に良い気になっていたが、ゆいとはそうでもなさそうだった。この先が心配だからだ。
そして雀は言う。
「草」
その後の魔力測定なる物は施設の奥の方で行われ、謎の水晶玉を使うみたいだ。野次馬は入れない。ここでも雀が語りだす。
「水晶は二酸化ケイ素、つまり石英の結晶体だ。一般的なガラスよりもやや高い屈折率故に装飾品として用いられたり、その安定した電気的特性故に圧電素子や電気時計の部品として使われている。そして魔法においてはある種のデバイスや触媒として使用される。主に計器や千里眼、幻想投影だな」
「……」
「これの場合は計器だな。動作原理なんてものは無い」
「…………」
ちょっと何言ってるかわからないですねぇ。
わかりやすい説明はテキシテルから行われる。
「この水晶は魔力流量計と言い、生物の体を巡っている魔力に反応して光を放つ」
「草、フォトカプラかな」
またしても雀のよくわからない発言でゆいとは頭の中がモヤモヤしてしまった。
しかしテキシテルははそんなこと知るよしもなく説明を続ける。
「つまり、これに触れればどれくらいの魔力を使えるのかがわかるということだ。ではエイブラムス、早速触れてみてくれ」
「はい」
ゆいとは雀の言葉を思い出す。なんか手に流れてるっぽいイメージを抱くだけで行けると雀は言っていた。ゆいとは雀を信じている。
ゆいとが水晶玉に触れた瞬間、水晶玉は白く光り出した。雀が助言する。
「まあお前ならまだ光らせられるだろうが、力を見せるか隠すかはお前次第だな。ボルゲーノに見せるか見せないかだな」
ゆいとは考えた。そして聞いてみることにした。
「テキシテル検査官。これ合格ですか?」
「ああ、合格だな」
「はい」
ゆいとは結局やめる事にした。
「ではボル、まあ合格だろうがな」
「当然よ」
聞く前から自信に満ち溢れているボルゲーノを見て検査官のやる気は失せていた。
案の定水晶玉は強い光を放ち、部屋が熱い程に照らされる。
「暗黒竜って何だろうな?」
「……」
珍しくゆいとは雀と同じ事を考えていた。
銃剣とショットガンの競合?
さあ……
え?M16とM4はコッキングレバーじゃなくてチャージングハンドル?この小説詳しい人向けじゃないからあんまりややこしい用語を連発させたくないんです。そしてコッキングレバーは間違いではないです。
てか筆者自身詳しくないからやめてください。
何?光る照準器が何か?ホロサイトです。
ライトじゃなくフラッシュライト?レーザーポインターじゃ会議してるみたいだからレーザーサイトと呼べ?うるさい。
アンダーバレルショットガン?サイドレールにも付けられるので静まりなさい。
静まるのだ。静まりたまえ。
災害時の "おはし" を思い出しなさい。お静かに、話さない、喋らない、だったでしょう?
何? "おはし" ではなく "おかし" だった?それは、お静かに、寡黙に、喋らない。
だあっ!