Ep06 協同組合
さて、突然だが今まで冒険者なる存在が登場していた。だが冒険者とは何だろうか?やっぱり特に深い目的も無く世界中をほっつき歩いている便利屋か何かだろうか?それともトレジャーハンターか何かだろうか?
しかし仕事というものは需要が無ければ成立しない。客を抱え込まず各地を転々として経営が安定するはずがない。相当皆さんお困りでその処理を冒険者に頼むしかないのか、或いは仕事の無い冒険者は略奪で生計を立てていたりするのだろうか?
もしかして、冒険者に略奪されるのが嫌で皆彼らに無理して仕事を与えているのだろうか?なんてね。
しかしそんな疑問はまもなく解消されるかもしれない。何故ならば、元の姿に戻ったゆいとは今、ウーナと人間に化けているボルゲーノの共に冒険者ギルドなる組織の拠点を目指して歩いている。服は売ってたので買った。多少のお金なら暗黒竜の牙の破片でも渡しとけば何とかなる。
そんなゆいとの斜め掛けバックの中には雀がいた。そしてゆいとにだけ聞こえるよう、テレパシー使い、ゆいとだけ理解できるよう、日本語で何か言っていた。
「冒険者ギルドか。一般的になろうとかだと傭兵だか殺し屋だか便利屋だかわからんフリーランスの戦闘員達を抱え込み、仕事を仲介、斡旋する組織。しかしその実態が深く解説される事は少なく、主に財源や秩序が維持され権力の影響を受けない理由は不明であることが多い。実態は傭兵達の協同組合かも知れないし、もしかしたら公益財団法人的な組織である可能性も有る。とにかく謎に包まれた存在だ」
と、言われてもゆいとは雀にだけ聞こえるように返事をする事はできない。つまり黙って聞いているしかない。何かあったらバックに手を突っ込んで握り潰せばいいだろう。
「ボルさんは今まで冒険者に成った事無いの?」
「そんな、何でそんなしょうもない真似するんですか」
ボルゲーノは冒険者デビューに乗り気ではなかった。確かに冒険者って職業のどこに憧れを抱けば良いのだろうか?安心して暮らせる家を持つことはできるのだろうか?
え?ウーナに聞いてみろって?もはやゆいとも雀にもボルゲーノにも、ウーナは期待されていなかった。
ゆいとは言う。
「面白そうじゃん。どんな仕事が有るのか、どんな人達が冒険者って言う職業を生業にしているのか知りたいんだ」
この好奇心、もしかしたら雀の好奇心そのものなのかもしれない。ゆいとを唆して自分の思い通りに操っているのかもしれない。
「それに、俺達なら楽して儲けられるかも知れないよ?」
「流石主、金を集めて世界を手中に収めるつもりですね?」
「ボルさんそれはさすがに無理でしょう。そもそもそんな大金かけた仕事とか、国1つ滅ぼす規模に成っちゃうと思うよ?」
「流石主!主は頭が良いですな!」
「えぇ……」
ゆいとには自身の成績が良かった認識は無い。この反応からも、ボルゲーノは実はバカだった説が浮上してきた。
因みにボルゲーノ、御年60歳らしい。これでもまだ暗黒竜のとしてはまだまだ若い方らしい。
「けどボルさん、いくら強いからって片っ端から敵作ってくのやめてよね?いつ暗殺されるかわからないんだから」
「むむ、確かに寝ている時だけは隙を突つかれかねないですね」
「いや、毒殺とかもあるかも知れないよ?」
「流石主、私が認めた自慢の主ですー」
ゆいとよりも頭1つ以上身長の高いボルゲーノは背後からゆいとを抱き、頬をゆいとの頭に擦り付ける。
「のだっ!?」
まさかこんな事になろうとは、ウーナもそして雀でさえ驚きを隠せない。こいつ何なんだ?
「ボルさん、昨日じゃ考えられない態度の変わりっぷりですね。普段からこうだったんですか?」
と聞かれたら、答えてあげるが世の情け。
「私、降伏して服従しろって言われた事無くて、お強い主にそう言われた時はもう胸撃たれちゃって」
確かにAPFSDS弾で撃ち抜かれているが、あれはキューピットの矢ではない。当然ながら、魅了や洗脳、ミーム汚染や認識災害を引き起こすといった効果は存在しない。
「もし主がメスだったら、番に成りたかった位ですよー!」
ボルゲーノは自分の頭をゆいとの頭の上に乗せ、幸せそうな顔をする。これでも発情していないのは幸いなのだろうか?
「ちょ、歩きにくい」
ゆいとは昨日の今日で恐ろしくベタベタしてくるボルゲーノを引き剥がす。
雀は軽くゆいとに警告する。
「おい、こいつヤンデレになってお前に近付くやつ家族以外排除し始めるかも知れないぞ?そうなる前にしっかり躾けとけ」
ゆいとは実家に帰りたくなって来た。ん?実家?それは……存在するのか?
「ここが冒険者ギルド……」
冒険者ギルドの施設内は、よく見る酒場併設型だった。中に入ると灰色の雀が頭だけバッグから出して喋りだす。
「依頼掲示板。紙が量産されていて、識字率が高く無ければ成り立たなそうなシステムだな」
「けど、どうやったら冒険者に成れるんだろう?」
ゆいとは何気なく呟いただけだったが、ボルゲーノは動く。
「主、私に任せてください」
「えっ?」
嫌な予感がした。ここばかりはウーナに任せたほうが良かったのかもしれない。
ボルゲーノはゆいとの手を掴み、受付まで連れてゆく。そしてカウンターの女性に単刀直入に伝える。
「おい小娘、俺達が冒険者に成ってやる、手続きを進めろ」
「ちょっ!ボルさんボルさんまずいって、何でそんなに上から目線で行くの!?敵は作るなって言ったでしょー!」
「申し訳無いです」
ボルゲーノの問題行動は周囲からの注目を集めてしまった。しかしカウンターの女性の方はゆいとの方が常識的だった為苦笑いで済ませてくれた。
「そ、それでは、適性検査の準備を行わせて頂きますね?」
事前知識無しで来た為、そんな検査知らない。
「適性検査って、何をするんですか?」
「はい、適性検査は冒険者として依頼をこなせるかどうか、その能力を確かめるんです」
「なる程……何をするんですか?」
「例えば、体内の魔力の量を測ったり、木の人形を破壊したり、後は字が読めるかです」
「なっ、なる程……」
日本語でない言語で何故か会話が成立している。それは魔法だと雀は言っていた。読み書きも同様問題無いと言われているが、ゆいとには不安であった。それに、
「ボルさん文字読める?」
「勿論ですよ主」
ゆいとは安心した。
雀いわく、こういう異世界じゃ言語は片手で数えられる程度しか無く、世界共通語1つで行けるらしい。1度誰かに世界征服でもされたなかな?
「それでは準備致しますので、ここで少々お待ちください」
受付嬢はまーた面倒なやつが来たよ、と言った苦笑いのまま、奥へ消えてしまった。
雀がまた喋りだす。
「流石に水晶に手をかざせばカタログスペックが数値化される、なんて事はなかったみたいだな。魔力の事だがまあ心配しなくて良い。魔力なんてもんは実在しないものと考えろ」
「!?」
「正確には存在するが、魔力は独特な考え方が必要だ。ガスや電波は計算できるからまだ良いが、魔力は時にガスの様に、時に電波の様に、時に中性子線の様に、そして時これらともまた異なる振る舞いをする。極論を言ってしまえば、魔力なんか無くても魔法は無尽蔵に使えるし、魔法が等式を成立させる事は珍しいから、単位空間あたりのエネルギーを0にも無限にもさせる事ができる。意味不明だろ?これでもまあ、ある程度の規則性は有る。がそんなもん覚えようとするな。だから感覚的に扱え。ただ殆どの場合において体内の魔力は魂から供給、制御される。でもって基本的に魂は胸の辺りに有る。だから手に魔力を集める必要が有る時は、胸から何かエネルギー的な物を手に集めるようにイメージして、それをしたつもりになればいい。きっと上手く行くさ。また詳しい話は私の気が向いた時にな。心配するな。魔法なんてざまあみろだ」
お喋りな雀だが、ゆいとにとっては心強い先生だった。
こんな説明でいいんかい。と思うのは普通だろう。しかし実績がゆいとの信頼を勝ち取ってしまった。
戦車に変身する方法、テレパシーの使い方、砲弾を装填する方法、射撃管制装置の使い方、人間に戻る方法、そしてM16A4アサルトライフルを出現させる方法をゆいとは雀に教えてもらい、実践して成功してきている。なので今回もこの雀の言う事はあっているのだろうとゆいとは思うのであった。
しかし最後の一言はいったい何だったのだろうか……