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異世界で目覚めたら戦車に変身できた  作者: photon
異世界デビュー
3/137

Ep03 デレるゅ

 時は少し戻り、ボルゲーノが暗黒で空間を侵食した時にまで遡る。


「あの、SCSさん。サーマルカメラがどんどん真っ暗に」


 危機感を感じたゆいと減速して前進速度を緩める。


「ああ、だろうな。さしずめ暗黒竜とか言った辺りだろう。だから遠赤外線域を含め電磁波が消滅してるんだな。無い光はカメラに映らない」

「ヤバくないですか?それ」

「まあヤバいだろうな。レーダーすら機能するか怪しいだろう。そしてあの闇の中では恐らくあのドラゴン、不定形だ。任意に自身の形を瞬時に変化させられるだろう」

「って、それじゃああの闇全体がドラゴンその物なんですか?」

「そうなるな」

「それじゃあ倒しようが無いじゃないですか」

「ふむ、なら例えばだが、やつはあの力、つい最近力に入れたと思うか?」

「え?」

「圧倒的に強いあのドラゴンを前に、抵抗してた連中見えただろ。もしあのドラゴンが昔からあの力を有していたのなら、何故まだ抵抗しようとする人間が存在するのか、って話だ」


 この雀の視力は40くらいかな?


「弱点が有るんですかね?」

「ありゃ空間制圧魔法だ。いわゆる結界ってやつの一種だな。空間制圧魔法は、まあ、維持が難しい。基本的にはな」

「じゃあ、絶対負けないけどすごく疲れる切り札って感じですかね?」

「その可能性も有ったかもしれないな。だがやつの場合そこまででもない。あれの場合は夜だと簡単だが、太陽光の下では相当しんどい。つまりどれだけの量の電磁波を消滅させているかによって変わってくる訳だ」

「じゃあ夜は無敵ですね」

「なら夜の時点で逃げ隠れに徹するべきで、殺すなら昼間を狙うべきだろう」

「確かに」


 何故彼らが圧倒的力を前に抵抗したか。それにはまだ彼らがただ敵を知らなかった、或いは馬鹿だったからという可能性も。


「今回は特別サービスだ。やつの弱点を教えてやろう。あいつは不定形だが、元の形は変化させられない」

「は?」

「いくらでも増やせるが、元々の体を消す事はできない」

「あっ、なるほど!けどどうやって攻撃すれば良いんですか?」

「空間魔力の濃度分布で丸わかりだな。だが今のお前に魔力を感知しろなんて言うのは酷な話だ。ところで、もし私がやつならば、影響領域外からの狙撃に備えて、まずなるべく結界を球状に形成する事は避けるし、球状の重心に本体を置く事も避ける。だがやつはどうだ?結界を形成して一度結界は直前のやつの対地高度分影響領域が地面に接近した。これはやつが着地した事によって影響領域がその分移動したと考えることができる。つまりだ、やつはあの球のど真ん中に居る可能性が高い」

「なるほど……」


 球の半径は約150[m]。ど真ん中に照準する事は簡単ではない。しかも正確に対象との距離を測定してくれるレーザーレンジファインダーも機能しない。厳しいが射撃管制装置は宛にならない。

 だが、そんな物無くても問題ない。


「レティクルの左右の線で対称に球体を捉えろ。そして砲弾の落下を考慮してある程度砲を上に上げろ」


 レティクルとは、狙いを定める為の線である。


「うわ、自信無いです」

「なら今すぐにでも転身して戦闘地域を離脱するべきだ。ぶっちゃけお前が今からやろうとしている事は殺しだ。当然敵の反撃には殺意が発生する。殺されたくないなら逃げろ」

「けど、このままじゃ……」

「私が思うにやつに対するお前の勝ち目は狙撃以外存在しないぞ。今は好機だ。攻撃するのか、逃げるのか、速く決めろ。時間の経過は状況の悪化を招くだろう」

「撃ちます!」


 急かされたゆいとは覚悟を決めた。ゆいとは理解した。この武力、使わなければこの世界ではまともに生きていけないのだと。では前に進むしかない。

 雀がゆいとに指示を出す。


「弾種切り替え、 APFSDS装填」

「わ、わかりました!両用HEAT弾排出、APFSDS弾装填!」

「この距離であの的の大きさだ。撃てば当たる」

「装填完了しました。撃ちます!」


 一瞬の炎を背に、劣化ウランの矢が飛んだ。カバーが剥がれ、直径僅か26[mm]の矢が音速の4.5倍で空を飛んだ。命中までは1秒もかからない。

 発砲の直後、砲弾が到達したと思われる時点から周囲の暗黒は消えてゆき、ゆいとのサーマルカメラにボルゲーノの姿がハッキリと映し出される。


「何やってんだ、次弾装填」

「あっはい!次弾装填します!排莢!」


 M829の薬莢は燃えるから排莢は不要?そんなバカな。


「装填しました!」

「決断しろ。撃つか撃たないか。殺すか殺さないか決断しろ」

「えっ!?それは……」

「決断するんだ。前進か、停止か、後退か。何れにせよ今が好機だ」


 と、グズグズやっている内にボルゲーノは大きく羽ばたいて空に飛び上がった。


「あぁ、胸筋が生きてるのか。撃ち落とすのか?逃がすのか?」

「えっ?いや逃しません!」

「あれじゃロックオンしても厳しいか?いや行ける。弾種切り替え、M1147多目的榴弾。ロックオンして自動照準。友軍への被害は覚悟しろ」

「えっ!?」


 ゆいとは以前にも雀から、戦車は強力故に扱いづらいと聞いていた。主砲は例えその弾種が何であれ友軍に対し被害を与えかねないと聞いていた。しかし聞いていただけで、理解は不十分だった。


「あの装甲目標に被害を与える目的の爆発物だぞ。生身の人間には尚更だ」


 雀は思った。ゆいともっと早く決断していればまだAPFSDSで安全に攻撃できた。ゆいとにもっと射撃スキルが有れば空を飛んでいる目標にもAPFSDSを当てられたかもしれない。しかし、雀はそうは言わなかった。


「砲弾、切り替え終わりました」


 ゆいとの声には先程と比べてやや元気がない。人に危害を与える事が怖いのだ。

 ボルゲーノは自分がどこから攻撃されたのか理解できていない様子で、焦った様子で周囲を見回しているが、こちらとは目が合わない。


「確かにやつが高度を取ってからの方が周囲への被害は抑えられるかもしれない。だがやつに時間を与えると何が起こるかわからんぞ?」

「う、撃ちます!」


 ボルゲーノは一瞬左側が明るくなったのを見た。しかし背中で何かが爆発し、翼が穴だらけになってしまい、墜落する。


「有効打だったな」

「……」


 ゆいとは嬉しくなかった。いろいろ心配なのだ。


「お前、今落ち込んでるだろ?だがな、生かす為に殺す。日常的な光景だ。忘れるな、動物は他の生物を殺さなくちゃ生きていけないんだ。家畜にだって感情は有るし、植物だって生きて子孫を残そうとしている」


 と言うよりかは、子孫を残せた生物だけが今に生き残っている。


「物は言いようだが、お前は誰かを救う為の努力を行い、結果を残した。私は良いと思うぞ。それと、自分の行動に自信を持てとは言わないが、自信の持てる行動以外は避けるべきだ。するべきじゃない。結果に対し自分を合わせようとすれば、それは自分に嘘をついて自分自身を騙す事に繋がる。だがな、求める結果を予め明確にしておけば、それが目印になるってもんだ。大きな目的を見失うな。自分をハッキリさせておけ」

「……はい」

「お前は何の為にその暴力を振るう?」



 その頃燃える村では、負傷したボルゲーノが地面に落ちいた。ボルゲーノは自分が何故落とされたのか理解できていなかった。

 まず、何者の攻撃だったのだろうか?何故完全な闇の中で一方的に自分を見つけ出して攻撃できたのだろうか?

 次に、何故自分の翼はこうもボロボロに成ってしまったののだろうか?ただ爆発が起きただけでは竜の頑丈な飛膜は穴だらけには成らない。どこかが大きく裂けたならまだ理解できるとして、これはいったい……

 爆発の魔法と異なり爆弾は破片を飛び散らせる。そして今回の場合その破片は超音速でボルゲーノの背中じゅうに飛び散った。結果、翼の飛膜は無数の破片で穴だらけになって破けてしまったのだ。

 落ちたボルゲーノを見たAランクの冒険者達も当然何が起きたのかよくわからなかったが、とりあえず今がチャンスだと思った。

 しかし、Aランクの冒険者達は動きたくても動けなかった。肋骨は内側から貫かれ、肺には大きな穴が空いている。戦える状況じゃない。

 だが問題無い。Aランクの冒険者達は回復のポーションをどっかから取り出して一気に飲んだ。すると傷口は数秒間薄緑色の光に覆われ、キレイサッパリ元通り。スゴイ!

 そして剣を構えたAランクの冒険者は地面に横たわるボルゲーノに(きっさき)を向け、叫ぶ。


「暗黒竜ボルゲーノ!覚悟しろ!」


 覚悟しろと言われてもそうできるものなのだろうか?少なくとも今のボルゲーノにはできなかった。


「人間如きが図に乗るな!」


 ボルゲーノは剣を構え走り出したAランクの冒険者の全身を小さめな暗黒の球体に閉じ込めたが、炎を纏い振り下ろされた剣によって球体は切り裂かれる。それならと火災によって多数発生している影を操り、Aランクの冒険者本人の影を槍へと実体化させ、足元から体を貫く。体は無事に貫かれ、Aランクの冒険者は猛烈に血を流しながらその場に倒れる。


「ケンティス!!」


 倒れた仲間を見て魔女は叫んだ。

 次の瞬間ボルゲーノの胴体が燃えた。脇腹から僅かながら炎が出ている。


「グアアアアア!!アアアアアア!」


 ボルゲーノも激痛で悲痛な叫び声を上げながら苦しそうに体を激しく動かす。

 またもAPFSDS弾が撃ち込まれた。傷口から僅かに光が見える。

 ここらでAランクの冒険者達は理解した。自分達ではボルゲーノに勝てないと。負傷しているボルゲーノにすら接近する事さえできずやられた仲間を見てしまったし、弓や魔法の遠距離攻撃も効かない事はハッキリしている。

 まあ、傷口をえぐる位ならできるかもしれないが、そんな事する必要も有るまい。自分達は正直ボルゲーノに対しては何もできていないが、何か知らない別のヤバい存在が攻撃している。自分達は場違いなのだとAランクの冒険者達は思った。皮肉にも実際には囮としてとても活躍している。


 戦意を喪失したAランク冒険者達は右手に何か光る物を発見した。その後ろには僅かに何か見える。何か、巨大な箱のような、何とも形容し難い何かが。

 実際戦車の専門家でも戦車に興味の欠片も無い人にでも、戦車の写真を見せてこの形を形容してくださいと頼んでも、大半は戦車以外の納得の行く言葉は思い付かないだろう。

 ボルゲーノは地面に顎を付けた頭を動かす事ももうしんどかった為、目だけを動かして同じく近付いてくる光を見る。そして察する。こいつが自分をここまで追い詰めた謎の存在。自分の体に比べれば小さめだが、人間に比べればかなり大きいと感じた。

 ボルゲーノの胴体は横から見た時M1戦車の倍くらい大きい。

 死を悟ったボルゲーノは最後の悪足掻きと思って反撃してみる。先程と同じく影を使ってみようとしたが、火災現場から遠い為ほぼ月明かりの影くらいしか無く、その薄い影の攻撃では何の変化も観測できなかった。全く効いていない。闇の球体に閉じ込めてみたが、当然の様に走り続け突破される。足止めにもなっていない。

 ボルゲーノは理解した。あれは圧倒的な力。見えない場所からこちらを見つけ出し、一方的にこちらをねじ伏せる抗いようの無い力。だがあれは一体何なのだろうか……?

 しかしもう、暗黒竜のプライドもどうでもよく思えてしまった。力有る者に弱者が敗れる。ボルゲーノは今まで己が周囲に押し付け続けてきた理念故に、力への敗北を認めた。自分ではいくらなんでも大きな準備動作も何も無くここまでの破壊力を有する攻撃を、しかも連発はできない。

 ボルゲーノは認めた。あれは自分より強いと。あれになら殺されてもよいと。

 さっきも"弱き者が強気者の命に従うのは当然の事だろう?"と言っていた。ダブルスタンダードではない点、真っ直ぐなやつなのかもしれない。


 そして戦車は動かずにこちらを見つめているAランクの冒険者たちとボルゲーノの間に停止して、砲口をボルゲーノの頭に向けテレパシーで言った。


「降伏しろ」


 その声は元のゆいとの声よりも少し低かった。テレパシーとて出せる声には制限が有る。

 ガスタービンの高くも重たい音は、当然今まで誰も聞いたことのない音だった。


「選べ竜よ、降伏し服従するか、私と戦うか。戦うのであれば私は一切の容赦無くお前を討ち滅ぼす。降伏し服従するのであれば、命は助けてやろう」


 先程までのゆいとからは想像もつかない台詞だった。ここまで来る間にあの雀に色々言われたのだろう。芝居を打ってみろ、強気に出てハッタリをかましてみろ、と。でなければ先程まで怯えていたゆいとがわざわざ姿を顕にして敵の反撃の危険に晒されるとは考えにくい。


「服従か……私を服従させて何をさせる?」

「私にはお前に無い力が有る。だがお前にも私には無い力が有る。部下に成れ」


 先程までのゆいとならボルゲーノの問に短時間でこんな返事、返さないだろう。そもそも部下に成れとか言おうとも思わないだろう。これ絶対雀に(そそのか)されてるって。

 このボルゲーノを取り入れようとする言動にAランクの冒険者達は焦った。これはもしや味方ではなく敵対する第3勢力かもしれない。

 無事仲間にポーションを飲ませてもらった剣のAランク冒険者ケンティスはゆいとに問う。


「待ってくれ!あんたはいったい何者なんだ!?」


 ゆいとは砲口をケンティスに向け答える。


「わからない。昨日以前の記憶がない。私がどこの何者で、どこから来てどこへ向かうのか、まだ決めていない」

「な……それじゃあ、あんたは人間と竜、どっちの味方なんだ?」

「少なくとも今は、人間の味方なのだろう。だが当然あらゆる人間の味方と言う訳ではない。人間同士だって、対立するだろう?違うか?」


 ケンティスは違うとハッキリ否定できなかった事が少し悔しく思えた。

 しかしゆいとの台詞、さっきの今で、やはり雀だ。もしかしたらこの声すら雀のものなのかもしれない。

 ゆいとは砲口を再びボルゲーノに向け、冷たい声で答えを急かす。


「で、竜。どうするんだ?長くは待たない。答えろ。私の言う事を何でも聞くのか、このまま死ぬのか。どっちなんだ?」


 先程よりも選択肢が極端化している。この台詞の変化がゆいとの意志でないのだとすると、あの雀、やり手だ。最初から強気だ。

 そしてゆいとは更に砲口を上に向け、発砲した。爆炎と共に放たれた胸を打つような衝撃に周囲の誰もが驚いた。遠くでこちらを見ていた村民達は、ゴブリン達を難無く駆逐したAランクの冒険者達をねじ伏せた暗黒竜ボルゲーノをボコボコにした謎の存在にひどく怯えていた。家はもうありません。家はまだ燃えています。


「よかろう……力有る者よ。名は何と言う?」

「エイブラムス」


 偽名も用意されていた。というかこの名前、あながち嘘でもない。戦車そのものの愛称なのでエイブラムスでも間違いではないわけだ。


「そうか、エイブラムスよ……だが残念だったな。私はもう長くはない」


 ゆいとは無言で砲口をケンティスに向ける。


「回復のポーション」


 ゆいとの言葉の意図を察したケンティスはゆいとを睨んだ。村をこんなにしたやつの命を救えというのだ。ケンティスにはできなかった。

 しかし弓のAランクの冒険者が前へ出る。


「ケンティス、良いじゃないか。エイブラムスは俺達の命を救った。それに、抗った所で勝てる相手でもないんじゃないか?もし弱点が有ったとして、俺達は今それを知らない」

「だが、もしコイツがボルゲーノと手を組んで、また人間達を襲ったら」

「もうどうしようもないだろうな。だが俺だってエイブラムスが敵なら死ぬまで抗ったかも知れない。けど、敵かどうかはまだわからないだろう?それにもし敵なら今俺達を生かしておく理由もよくわからない」

「自分じゃポーションが持てないからなんじゃないか?」

「かもしれないな。だが私は掛けるぞ。嫌なら止めてみろ」

「ユーミリス!」


 ケンティスは悲しそうな顔でユーミリスの名を口にしたが、ユーミリスはケンティスと目を合わせると頷き、そしてポーション片手にボルゲーノの元へ歩いていった。

 一応心配だったゆいとはボルゲーノに飲めと命令しようかと思ったが、やっぱり黙って見ている事にした。

 ユーミリスがボルゲーノの前で立ち止まると、ボルゲーノは口を開ける。そしてユーミリスの影を伸ばして彼の体を拘束し持ち上げる。重機関銃が影を切断し、ユーミリスは腰から地面に落っこちた。

 ゆいとは何食おうとしてるんだと言おうかと思ったが、やっぱり黙って見ている事にした。


「たっくコイツ……」


 ユーミリスは重機関銃の発砲音に肩をすくめて驚いたが、ボルゲーノの行動自体は想定内と言った感じで小声で文句を言いながら立ち上がり、ポーションの瓶の栓を抜く。

 そしてボルゲーノの口の中に手を入れ、ひっくり返す。空に成ったらもう1本。せっかくなのでもう1本。仕方がないのでもう1本サービス。

 計4本のポーションを飲んだボルゲーノの傷はある程度塞がっていた。ボルゲーノは試しに羽ばたいて、空を飛んでみる。まだ塞がっていない傷口がとても痛むが、動けない事はない。

 え?体内に残された侵食体?気にしてはいけない。いいね?

 この時ゆいとの砲口はボルゲーノを追いかけなかった。追いかけられなかったのだ。上の重機関銃は60°まで上を向くが、主砲は20°が限界なのだ。変に上に上げて限界を知られるとマズイ。弱みを握られる。それにはまだ早い。これも雀の入れ知恵だろう。

 幸い体の痛むボルゲーノは直ぐに着陸したのでバレそうになかった。


「認めよう、エイブラムス。お前には力が有る。我が鱗を容易く貫き、またたく間に我に致命傷を負わせる力が有る。そしてその力を持ってして弱者を統べる力が有る。力有る者こそ、我が主人に相応しい。(あるじ)よ、この暗黒竜ボルゲーノ、ここに忠誠を誓おう」


 ボルゲーノさん。なんかデレてない?ゆいとの力に惚れてデレてない?もしその場凌ぎの演技でなければこれはさすがに……


「そうか、暗黒竜ボルゲーノ。じゃあ人間の姿になって」


 ちょっとゆいとの喋り方が元に戻ってしまった。


「矮小な人間の姿に成る等、容易き事」


 容易いんかい。

 そう言うなりボルゲーノは体を一瞬で人間の男の姿に変えてしまった。褐色白髪?そうではない。黒髪黒眼、白目の肌に黒のコートを着ている。魔法って便利。


「竜の力の前に人間はあまりに弱くての、我も時にはこうして人間の姿に扮して人間に合わせて遊んでいるものよ」

「じゃあその喋り方も普通の人間に合わせられないかな?」

「勿論です主。簡単な事です」


 ゆいとはもっとボルゲーノは苦労するかと思っていたが、当然の様に命令を熟している事に驚いていた。しかし戦車に表情など存在しない為、バレないのだ。


「よし、じゃあ逃げよう」

「主?」

「上、乗って」

「主?」


 ボルゲーノにはゆいとの意図が理解できなかった。何故どこに逃げるのだと言うのだろうか?そして主の上に乗っていいものなのだろうか?ボルゲーノにはわからなかった。

 しかしAランクの冒険者達はゆいとの意図を薄々理解していた様子だった。


「乗れ」

「わ、わかりました」


 ボルゲーノは戸惑いながらも正面からひと蹴りでゆいとの天板の上に乗る。よく見るとなんか雀がいた。


「あの、主。小鳥が居ますよ?」


 ゆいとにはわからなかった。この雀、どう説明すればいいのだろうか?友達?上司?先輩?協力者?何だろう……というかこの雀が喋れる事自体教えてしまっても良いのだろうか?

 ゆいとにはよくわからなかったので、ゆいとは無言でその場を去る事にした。1度バックで来た道を戻り、ある程度行ったら曲がって、そのままとりあえずどこかへ向かって前進。現場を離脱した……


「主!すごい揺れますね!」


 もうボルゲーノ、原形が無くなってる様にさえ思える驚異的な変貌を遂げてしまった。前回出てきて今回でこれ、もう、何だろうね。


「主、どこへ向かうのですか?」

「実は何も考えてない」

「主?」

「いやだって、ボルゲーノあの村燃やしちゃったじゃん。死人も出たじゃん。あの村じゃゆっくりできないよ」

「確かにそうですけど……」

「じゃあボルゲーノはどこへ行きたい?どこならゆっくりできそう?俺本当に記憶無いから全然わかんないんだよね」


 まあ確かに、この世界に関する記憶は無いので、今の言葉が必ずしも嘘とは限らない。


「では主、私が元の姿に戻れば誰も近付きはしませんよ」

「なる程。でもあの村が見えなくなるくらいには離れないとね」

「しかし主、あの冒険者達も私達の力は既に身に染みて理解しています。手出しはされませんよ」

「良いんだよ、そんなに時間かからないし」

「なる程、主の足は速いですからね」


 ゆいとは思った。何で主になっちゃったんだろう?と……何でだろうね?不思議だね。

 けどたぶんきっと、雀のせい。裏で糸を引いているのは、こいつなのだろう。お前が黒幕か!!!

深い事は気にしちゃダメ。

だいたいだよ、だいたい。

わかる?

だいたいだよ!だいたい。




2021/02/03

細かい所を修正しました。

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