Ep21 キッズは煽れ
ヒョウカはオソウ一味の馬を殲滅したが、Aランクの冒険者達の足を止めるには不十分だった。人間離れした速さで走る一行をどうにかして足止めしたいヒョウカだったが、これを行う為には再び自らの身を危険に晒さなければならない。
ヒューガ3人組が殺されてしまっても今までの苦労がパーに成る。かと言って自分が死んでしまったら元も子も無い。ヒョウカは再び悩んでいた。
「フロストバイトを使っても、9人を相手に正面から対峙したら長く持たないわ。それにあたし自身もそうだけど、あの3人にまで被害が及ぶのは許容できないわね」
かと言って小細工では全員の足止め等できない。積んだ。
「悔しいけれど、もうこれ以上は助けられないわね」
冷たい口調でそう呟いたヒョウカは遂に、ヒューガ3人組を見捨てた。しかし評価員とは本来こんなものだ。仲間を見殺しにしてでも生きて情報を持ち帰る事を優先する。まるでどこぞやのブーメランの戦隊の様に冷酷だ。前話でヒョウカ自身が言っていたように、危険を犯してまで自分以外の誰かの為に戦うなど、らしくないのだ。
確かに、死んだら終わり。無茶して散るなら生きて戦い続ける方が恐らく合理的だろう。時に腰抜けの方が有能だ。
ちょうどヒューガ3人組も体力が切れてきて、ヒサは立ち止まって地面に吐いてしまった。もう動けそうにない。ツラーもヒューガももう息が上がって走れない。
ヒューガはもうダメだと思った。実際もうダメだろう。既にこちらを補足して走って来るオソウ一味が見える。もう間も無く追い付かれてしまう。さっき時間を稼いでくれた評価員のハーピィももう今はどこにいるのやら。やられてしまったのだろうか?
息を乱しながら、ヒューガは切な願いを呟いた。
「嫌だ……死にたくない……何で、こんな目に…………助けて……!」
そんな声は動けない仲間の耳にしか届かなかった。とは言えもう周りには敵しかいない。どんなに大きく叫んでも助けなど来ないだろう。
ヒューガは悔しくて涙を流した。
"ドパドーン!"
謎の破裂音に3人は肩を竦める。
"ドーン!"
更にまた別の似たような音。3人組はもうついにダメだと思った。しかし自分達は無傷だった。何事かと思いオソウ一味の方向を向く。数が減っていた。
既に呼ばれていた戦車はアクセル全開だった。全力でも60[km/h]しか出せないのは何とも微妙だが、決して遅くはない。
砲塔後部バスケットの中のウーナの頭の上、雀はテレパシーでゆいとに話しかける。
「初弾命中。距離、3500。M1147 AMP効果有り。9名中4名中沈黙。友軍被害確認されず」
ほんとこの雀の目はどうなってるんだろうね?
ゆいとは無言で次弾の装填を終える。
"ドバーン!!!"
容赦無くゆいとは次弾を発砲した。何が凶悪って、立入禁止範囲内に友軍が、しかもケモミミが居るにも関わらずお構い無しに発砲している事だ。普通なら耳が死ぬ。ウーナもボルゲーノも共に手で耳を抑えていたが、不十分だ。耳鳴りがする。
「次弾命中。残敵1、敵部隊の全滅を確認。だがポーションの驚異的な回復力を考えれば死体の原型は残すべきではないだろうな」
ゆいとは次弾を装填した。
オソウ一味はあっという間に壊滅した。リーダーたるオソウは既に息絶え、腰巾着が仲間の死体を見て愕然としている。なんとか生きている連中ももう立てない。
「何だ、一体何が起こったんだ!?」
最後の1人も死んだふりなのか迫る死への恐怖なのか、両手で頭を抑えて地面に伏してしまった。
ゆいとのサーマルイメージに、ヒョウカの姿が映る。伏せた生き残りの元に降り立ち、背中と頭を掴み、頭を取った……
「えっ?……」
頭を掴んでいたはずの足が丸まって、液体が垂れている様に見える……
「あ……」
降伏した様に見える敵に刺された無慈悲なトドメ。ゆいともゆいとで殺しているが、キツイものを見てしまった。サーマルで良かった。
えっ?あ、と謎の声を出すゆいとをボルゲーノは心配した。
「主、どうされたのですか?」
「いや、別に……ただ、ちょっと予想外な事が起きたなって……ボルさん見えてる?ヒョウカの姿」
「はい」
ゆいとは驚いた。雀も雀だが、こいつら視力ヤバすぎだろ。と。
「ほぼ点で何してるかまではよくわかりませんが。ヒョウカが何かやらかしたんですか?」
ゆいとは安心した。流石に光学10倍ズームの自分の目は周りより優れているらしい。ズームしてようやく平均値は悲しくなるだろう。
ゆいとはボルゲーノに何が起きたかを説明する。
「降伏した敵を殺してたんだ。そこまでする必要あったのかなって思って」
ゆいとは内心動揺していたが、ボルゲーノの手前余裕を見せなければならないと強がった。
「なるほど、すんなり殺すと勿体ないですものね」
ゆいとは察した。多分ボルゲーノと自分とでは考えている事が違うと。
ヒューガ3人組はあの仮にもAランクのパーティーであるオソウ一味が瞬殺された事を知ると、安心感と共にまた別の恐怖を感じた。
頭蓋骨を握り潰したヒョウカはその場を飛び立ち、ゆいと達の元へ向かう。ヒューガはもしかして自分達もあの爆発の魔法で殺されてしまうのかもしれないと思い、肩をすくめた。しかし成す術が無い。そもそもどこの誰の攻撃なのかヒューガ達はまだ認識していない。
迫り来るヒョウカを見てゆいとは減速し、停車した。やっぱりその足には血が付いている。
ヒョウカはゆいとの上に勢いよく降り立ち、ウーナに言う。
「ウーナ、ポーションを持って私の背中に乗って」
「ふぇっ!?空を飛ぶのだ?」
ウーナは恐れていた。忘れもしないさっきの恐怖。もう空なんか飛びたくないと思っていた。しかし急かされる。
「早くしなさい」
「うぅ……」
困るウーナを見てボルゲーノは愉快だった。なぜウーナがヒョウカの背中に乗りたくないのかは知らない。しかしなんか面白そうだ。
「おらさっさとしろよ、クソ犬」
「のだっ!ウーナはクソ犬なんかじゃないのだ!ウーナは誇り高き人狼なのだ!」
「じゃあ怖気づいてないでさっさと行けよ」
「ううっ!ウーナは強い子のだ!」
強い子ウーナは背中を見せたヒョウカの背中に飛びついた。しかしヒョウカは飛ぶ前に確認する。
「回復のポーションは?」
「ふぁっ!」
強い子ウーナはおっちょこちょいだった。やっぱりおこちゃまだね。
行ってしまった2人を眺めながら、ゆいとは前進を再開した。ちゃんと帰ってくるよね?あれ?取り残されたのってなんちゃってGランク冒険者の2人……もしかして売り飛ばされた!?
ゆいとはとてもとても不安だった。しかし雀にはそんな考えお見通しだった。
「ゆいと、お前今もしかして俺達狙われてる?みたいに思ってるんじゃねーか?確かに暗殺するなら誰にも見られていない場所が適してるよな。けどまあそりゃ考え過ぎだろう。戦車の機動力と索敵能力を信じろ。例えば冒険者ギルドがお前を処分するつもりでもろくな準備はできやしねーよ。ま精々少数精鋭だな。だとすると隔離するよりは引き止めて毒もってとかの方が合理的だよな。ま、どの道手遅れだ。気にするな」
「……」
ゆいとは思った。SCSは何でもお見通しだな、と。ゆいとにとって雀は常に心強い助言者だ。
まあ確かに周囲の思惑がどうであれもうどうしょもないのでゆいとは当初の目的である3人組の回収を行う事にした。
2021/03/11
細かい点を修整。
2021/05/20
細かい点を修正。




