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異世界で目覚めたら戦車に変身できた  作者: photon
異世界デビュー
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Ep02 幸運な危機

 雀は揺れていた。雀は忙しく翼を動かしていた。常に羽ばたいていないと体を打ち付けたり飛ばされたりしてしまう為だ。

 ここは戦車の天板の上。けっこう揺れる。鋪装された道路の上ならば良いが、不整地を走るとそこそこ揺れる。だが当然ながらこれは軽いマウンテンバイクにも重い戦車にも共通する。でもって風も雀を苦しめるには十分だった。

 え?主砲の発砲訓練はどうしたのかだって?書いたら数千字に成って序盤から物語が停滞したから全部カットされましたとさ。めでたしめでたし。

 そして今、戦車ゆいとは森を抜けるべく斜面を下っている。どうせ湖に居てもすることが無い為、まずはきっと近くに存在しているであろう人里を目指してとりあえず進んでいるのだ。

 そんな中雀はゆいとに語っていた。


「夜間行動においては遠赤外線域を除く受動的な光学機器による状況把握はその環境に極端に影響を受ける為、能力は相応に低下する。つまりサーマルカメラ以外は夜はライトや増幅器でも使わなきゃあまり使えない」


 雀の言葉はゆいとには依然難しく聞こえてくる。

 サーマルカメラは物体の放つ赤外線を見る為、物体そのものが光源である。故にライトや太陽の光等と言った照明は必要無い。

 勘違いする人が居るかもしれないのであえて書くが、熱そのものは見えやしない。


「だがお前にはその赤外線カメラが有る。常識的に考えれば夜間は相当光学的な索敵能力において優位に立っている事に成るだろう」

「だから大したライトが付いてないんですね」


 そう。戦車に大型の投光器は標準的には搭載されていない。


「まあそんなわけで隠密行動には夜間が適している訳だ。当然知ってるとは思うがいわゆる夜襲ってやつだって、動物の生活サイクルや索敵能力を利用して計画実行される訳だからな」


 この雀、前話で口数減るとか言ってたけど、まだまだ全然お喋りだ。しかしそれはゆいとにとっては良い事だった。こんな意味不明な雀だが、現状唯一会話のできる相手だ。ぼっちみたい……


「人間の活動の痕跡は物によっては遠距離からでも十分に観測できる。建物なんかその代表例だ。後は道。大型動物が頻繁に通行する箇所は土が踏み固められて周囲とは異なった環境に成っている場合が有る。階段なんて見つけたらもう文明の痕跡だ。他にも畑とか整地された地形なんかも文明の痕跡だろう」

「そんなもの見当たりませんけどね」


 そう、流石にそんなもの見つけられていれば苦労しない。この雀、当たり前の事をっぽく言っているに過ぎない。


「それと動物の生活には基本的に水源が必要だ。井戸を使用している場合も有るが、川の周囲で人間達は繁殖しやすい傾向にある。水道でも引かれてなければな。だがさっきみたいな小さな川じゃ大きな期待はできないな」

「繁殖って……けどSCSさんは人じゃないんですもんね」

「さあな。雀に変身した人間の可能性を戦車と言う非生物に変身したお前は否定できないはずだ」

「ロマンチック」


 小鳥と喋れるなんて、なんてゆいとは考えた。しかし今までゆいとが喋ってきたのも雀なのだが……


「お前、動物達と仲良く暮らしていけたらとか考えたんだろうが、逆に言えば小動物にさえ欺かれ騙され殺される可能性すら存在すると言う事だ。秘密の会話はネズミ1匹居ない場所でしろ」


 虫やミジンコ、もしかしたらバイオエアロゾルや細菌、あまつさえウィルス、終いにはガスさえ危険かもしれない。


「うわ、そう考えると確かに怖いですね……けど、このテレパシーって誰にでも聞こえてるんですか?」

「お前のテレパシーはまるで声の様に距離の2乗におおよそ比例して減衰するが、耳を手で塞いでも嫌でも聞こえる。何も対策のされていないただの物質は遮蔽物としてあまり機能しない。ラジオ放送みたいだな。私のテレパシーはお前にだけ聞こえるように発してはいるが、理論上盗聴は可能だ」


 因みに電波はコンクリートや鉄板で遮れる。ラジオ位になれば水でもそこそこ減衰する。


「えーと……その、俺の声って、テレパシーってどのくらいまで届くんですか?」

「出力によるだろう。それにテレパシーを受信する側の能力にもまた依存する。だが普通に声だってどこまで聞こえてるかなんざわからんだろう。経験則的にこの程度の騒音の中でこの程度の距離ならこの位声出しときゃ聞き直されないって無意識に学んでるだけだ。つまり結局は自分で勝手に決めつけてるわけだ。誰だってそうだろ?」

「た、たしかに……あっ!」


 ゆいとはあるものを見つけて驚いた。可視光カメラでズームしてみると、何かが燃えているように見える。


「遠くに熱源が」

「ああ、ありゃ何か燃えてるな。レーザーレンジファインダー」

「距離を測れって事ですね?えっと、5キロ位先です。どうしましょう?」

「自分で決めろ。私はお前の親でも上司でも何でもない。とりあえず近付くしかないだろうな。それとも無視するか?」

「いや、そんな事は……」

「だろうな。時速40[km/h]で直進すれば1000[m]地点まで約360秒」

「このまま前進します」





 その頃前方では、村が燃えていた。あちこちでまだ原型を保った家屋が燃えているのは、焼き討ちを受け人為的に同時に放火されたからだ。

 村民達が悲鳴をあげて逃げ惑うのも当然だ。自分の家が燃えているのは致命的な問題だが、そもそも火を点けた襲撃者が居る。命を狙われている、かもしれない。

 しかし村民達は絶望していたわけではなかった。家燃えてるけど。村民達には希望が有った。なんと村の宿屋には強い戦闘員がたまたま宿泊していたのだ。その方々こそ


「Aランクの冒険者様!」


 ある村民はそう叫んだ……

 あえて説明するが、AはアルファベットのA。冒険者って事は……どんな仕事してるんだろう?ポ○モンマスターを目指して世界中を歩き回っている連中並みに謎が深い。

 が、何はともあれ良かった。Aランクの冒険者達がゴブリン達をやっつけてくれている。オリンピックで金メダルを沢山取れそうな動きで素早く剣を振るう4人組にゴブリン達は一方的に……殺されている。まあこれなら安心だ、戦車の出番は無いだろう。

 ゴブリン達はAランクの冒険者達に傷1つ付けられなかった。振り下ろした石の斧は容易くかわされ、構えた木の盾はAランク勇者の放った矢を防ぐ事ができない。

 しかし村民達がAランクの冒険者達の活躍を見て安心していた時、空に絶望が飛んでいた事に気付いた。


「ドラゴンだ!!」

「何でこんなところに!?」


 空に羽ばたく巨大なドラゴンを見た村民達はあっという間に再びパニックに陥った。凄い怯えっぷりだ。前に見た事とかあるのかな?それとも単純に大きいからだろうか?

 しかしAランクの冒険者達はドラゴンを見て緊張はしていたが、驚いてはいなかった。


「お前が親玉だったのか!暗黒竜ボルゲーノ!」


 なんかダサい。ボルケーノではないらしい。

 ボルゲーノもまた雀や戦車の様に、テレパシーで喋ることができた。


「貴様ら。よくも我がしもべ達を殺めてくれたな」

「先に殺してきたのはお前達の方だろう!」

「だが、良い。代わりに貴様らがあらたなる我がしもべと成れ」

「フッざけんな!こんなに酷い事をされて誰がお前なんかのしもべなんかに成るか!」


 と、Aランクの冒険者の1人が空を飛ぶボルゲーノに剣を構え叫んだ。けどその剣投げないと絶対届かないよね?

 弓はどうだろうか?別のAランク冒険者が引いた矢は炎の様な赤い光を纏い、放たれた矢はその軌道に光の線を残してボルゲーノに向かって飛んでいった。が、残念ながらその矢はボルゲーノの胸を覆っていた大きな鎧の様な鱗に弾かれた。


「クソッ」

「愚かな。雑多なるそこらの竜になら効いたやも知れぬが、我は暗黒竜であるぞ、その様なただの矢が刺さる訳があるまい」


 そんな弓を射ったAランク冒険者の背後で、大きな杖を持った別の女性のAランク冒険者が何やらひどい独り言を喋り始める。


「天に登る緋色の揺らめきは我らに天を示す道標。天よ、闇を照らす熱きその力を今、敵を討ち滅ぼさんが為我に力を貸し与え給え!フレイムスピアー!」


 ……

 Aランク冒険者の構えた杖の先端にはどこからともなく多数の炎の帯が集まり、回転しながらその規模を増してゆく。最終的に長さ2[m]を越した火柱は、杖が前に突き出されると空を飛んでいるボルゲーノのに向かって飛んで行った。

 しかし残念ながらその炎はボルゲーノの胸を覆っていた大きな鎧の様な鱗に当たるなり飛び散って消えた。効果無しだ。確かに多少派手では有るが、さっきの矢より弱そうに見えるのだけれども、なぜ効くと思っていたのだろうか?


「うそ……」


 炎を飛ばしたAランク冒険者は自分の攻撃が全く効かなかった事に驚き酷く動揺していた。


「だって、闇のドラゴンには、炎の魔法が効くんじゃ……」

「フハハハ!実に愚かなニンゲンよ!我にその程度の炎が通用するわけあるまい!だがニンゲンにしては良い力だ、褒めてやろう。褒美に貴様らには我が糧と成る事を認めよう。光栄に思うが良い!」


 近くで火災が起きていて、巨大なトカゲが巨大な翼で羽ばたいていて、誰かの大声も聞こえてくる。騒音は凄いはずだ。なのによく数十メートルも離れていて会話が成立するものだ。


「そんな!あんたの糧になんて成るわけないじゃないの!ばっかじゃないの!」

「知能が足りぬは貴様らの方よ。そもそもニンゲン如きが暗黒竜に叶うと考える事自体が全く持って馬鹿らしい事であろう。本来貴様らニンゲンには我の言葉に背く権利など存在しないのだ、何故ならば貴様らの力は我らの足元にも及ばぬ程矮小。弱き者が強気者の命に従うのは当然の事だろう?ほれ、我が力の前に為す術無く泣き喚くが良い」


 そう言うと、ボルゲーノは大きく咆哮した。それと同時にボルゲーノは真っ黒に成って見えなくなり、闇は急速に星空をも侵食する。空間自体の光が消えているのだ。


「な!何だこれは!?」


 4人居るAランク冒険者の全員が、暗黒竜の力を目の当たりにして何の抵抗もしなかった。何が起こっているの理解しきれていないのだ。

 そうこう慌てているうちに辺りは完全に闇に包まれ、もはや自分の体さえも視認不能に成っていた。そしてまたボルゲーノの声がテレパシーで聞こえてくる。


「我は闇。つまり闇の中に居る貴様らは最早我の中に居るも同然。正に袋の中のネズミよ、フハハハハハハハ!絶望せよ!」


Aランク冒険者達は異変に気付く。


「な!体が動かない!」


 口動いてるけどね。


「言ったであろう、我は闇。即ち闇は我。貴様らを抑えつける等呼吸をするも同然。ほれ、そのか細き腕を潰してしまう事もまた容易き事」


 バキャッ!というひどい音と共に弓のAランク冒険者は両腕に激痛を感じた。


「うわああああああ!!腕が!クソッ!俺の腕が!!ッッッゥ!!」

「ハッハッハ、実に愉快なものよのう。ほれもっと泣き叫べ、そして我に楯突いた事を後悔し我の中で絶望せよ。ほう、そう言えば貴様らの腹の中にも光は無かったのう。であれば貴様らの体内にも我は存在しているという事」


 Aランク冒険者達は全員吐血した。そして抗えない絶対的な理不尽の前に絶望するしか無かった。最早最初からゴブリンなんて使わせるまでもなかったのではないかと思うぐらいに圧倒的だ。

 しかし次の瞬間爆音と共に夜空が戻り、拘束は解かれた。

A ランクの冒険者達の前に居たボルゲーノは背中から大量の血を流していた。


「グオオオオオオオオ!!何だ!?一体何が!?体が!燃えているのか!?」

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