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007 貧乏

 町の入り口にいた守衛が数人駆け寄って来た。


「ローズ近衛隊長殿ではないか! そこにいらっしゃるのはクシナ王女ですか?」


 守衛が頭を下げる。


「いかにもその通りだ。この道を行ったところで帝国の兵士に襲われた。町に常駐する騎士団へ連絡を取ってくれ。ここにいるタクマは命の恩人だ。身分は私が保証するので町へ入れてやってくれ」


「わかりました」


 すんなり町へ入る事ができた。


「タクマには悪いが、今のカッシ公国は帝国と戦争中だ。急いで領主の元へ移動せねばならない。お礼はしたいので落ち着いたら領主のベルモント公爵の館を訪ねてくれ」


「必ず来てくださいね」


 あまり喋らなかったクシナ王女が、ローズの後にそう告げると守衛から呼び出された騎士団と共に移動していった。


 町に入れたのだが、身分を証明する物もないしどうするかな?

 食事もいらない身体なのであまり心配はしていないが、叔母が見つかるまでの拠点は欲しいところだな。

 ゲームのパクリであれば、冒険者ギルドで冒険者になれば身分は手に入るし収入も可能だろう。


 まずは冒険者ギルドへ移動した。


 町を行き交う人に聞けばすぐに場所がわかった。

 ゲームの設定は中世ヨーロッパだったが、まさにそん感じの大きな建物だった。

 中に入ると酒場のような感じであったが、奥に受付らしき場所があり大きな掲示板が存在していて冒険者への依頼だと思われる依頼書が大量に張り出されていた。


 特に受付が混んでいる事もなく、受付にいる女性に話しかけてみる。


「冒険者登録したいのだが?」


「冒険者登録ですか? この書類に必要な事を書いてください」


 書類を見ると読めない文字だった。


「読み書きできないのですが代筆お願いできませか?」


「構いませんよ。ではお名前から出身を教えてください」


「名前はタクマだ。出身は日本だ」


「日本? 知らない国ですね。大陸外からの人なのですか?」


 やはり、正直過ぎると無理があったかな? 誤魔化す必要があるのか?


「正確には良くわかっていない。家族だけで田舎でずっと自給自足の生活をしていたので、何処の国に所属していたかわからない。ただ両親が死んだので田舎から出てきた感じだ」


「感じからして逃げてきた奴隷でもないようですね。この水晶に手をかざしてください」


 奴隷っているのか!?

 軽いカルチャーショックを受けている間に、受付のお姉さんがカウンターの下から水晶を取り出して目の前に置いた。

 水晶!? まさかゲームみたいにステータスとか見れたりするのか!?

 あまりに非現実的だが、未来だしなんでもありか?

 自分のアンドロイド的な身体の事を棚に上げて理不尽な疑問を想像しながら水晶に手をかざした。


 水晶が光ると読めない言葉で何かしら表示された。


「あら!本当に出身地が日本になってるわね。嘘ではなかったようね」


「水晶を初めてみるし表示が読めないのですが何が表示されるんですか?」


「古代遺跡から発掘された水晶で、今も数多く発掘されているのでさほど高価ではない魔道具ですが、手をかざした人の名前と種族と出身や経歴が表示されるのよ。犯罪履歴もないようですし冒険者として登録しますね。初期登録は無料ですが、カードの再発行は銀貨一枚かかりますので盗難と紛失には気をつけてください」


 経歴が気になるが、読めないので何が表示されているかわからない。文字を覚える必要性を感じた。


「はい。これが冒険者カードよ。タクマ・カジ? 自由民の様ですが名前からして何処かの貴族だったの?」


 もらったカードは銅のカードで名前のみが書かれているようだが文字が読めない。


「いえ。貴族ではないですよ。今日はもう休みたいので比較的安い宿泊できる場所など教えて欲しいのだが?」


「ここを出た正面が宿屋ですよ」


 振り向いて建物の外を見ると宿屋らしい建物が見えた。


「ありがとう」


 お礼を言って一旦冒険者ギルドを出た。


 さてこれからどうするかだな。


 ロボットの身体なので食欲と睡眠および性欲などは疑似的に発生するが、発生させようと思わなければ発生しない身体である。その為に取得した荷物を置くような拠点以外に特に何もいらない気がする。


 教えてもらった宿屋の料金を確認すると素泊まりで銅貨30枚だった。


 銅貨100枚で銀貨。

 銀貨10枚で金貨という貨幣価値で、食欲がないので何も買わなかったが露店の怪しい肉串の値段が銅貨2枚や3枚だったので銅貨一枚が日本円で100円ぐらいで、銀貨が1万。金貨が10万の感覚のようだ。


 少し町をうろついて再び冒険者ギルドに入って、依頼の出ている掲示板見る。


 ゲームの様な依頼が数多く張り出されているようだが字が読めない。


 不味いな。

 無一文で依頼を受けないと収入がないのだが、字が読めない………


 再び受付に行って先程の対応した受付嬢に話しかける。


「依頼を受けたいのだが字が読めない。何が俺でも出来そうな依頼を見繕ってくれないか?」


「確かタクマさんでしたね。町の東にある森の中に薬草があるので採取する依頼なんてどうですか?」


「それで良いので薬草の特徴など教えてください」


 薬草の絵が書かれた木版画を渡されて、初めての依頼は薬草採取になった。

 羊皮紙などではなく和紙っぽい紙に、薬草の絵が木を削ってハンコ状したものをインクで濡らして紙に押し付けて沢山作っているようだ。

 藁半紙に近い気がする。


 水晶や冒険者カードの製造法などを考えると、技術にムラがある気がするな。中世ヨーロッパに近い科学技術であれば有り得ない物の気がする。

 そもそも水晶が俺の個人情報を表示する事が色んな意味でありえない。

 叔母を探しながらゆっくり考えて行くしかないかな。


 町の外に出て東に歩いて行くと森があった。

 既に夕日が赤く眩しい。

 明日にしようかと思ったが宿代もない上に、寝なくても問題がない身体なのでこのまま依頼をこなしても問題はないかな。


 しばらく森を歩いて彷徨っていると、ツノがある兎の様な動物や肢が六本の馬のような動物を見かけた。


 未来だよな?

 異世界じゃないんだよな?

 段々自信がなくなってきたぞ。


 森を彷徨うが渡された紙に描かれた薬草が見つからない。

 簡単に見つかるもんじゃないのか!?


 すっかり夜中になってしまったが暗視機能がある為に、昼間のように明るく見える。


 ワオオーーン!


 何かが吠えたので振り向くと、いつのまにか周囲を狼の様な獣に囲まれていた。


 昔の俺ならドキドキしただろうが、今の身体の機能を考えると不安に全く感じない。

 感情の起伏も無くなってしまったのだろうか?


 無視して薬草を探すと背後から狼が脚に喰いついた。


 痛い!

 マジか!


 でも、甘噛みされた感じだな。


 よくみると服の部分で牙が止まっていて、狼も困惑している。

 脚を強く動かすと、狼が吹き飛ばされて逃げていった。


 リーダーだったのか、他の狼達も一斉に逃げていった。

 何もしていないんだが!?


 人間辞めてから怖いとか思わなくなってしまった。

 例えるなら完全武装のパワードスーツを着込んでる感じだからな。

 いや、例えではなく実際にそうなのか?


 結局、朝まで探して二本見つけられただけだった。

 これで買取価格が低かったら大変だな。


 そして冒険者ギルドで納品すると一本で銅貨50枚で二本で銀貨一枚。


 一晩頑張って全財産が一万円になりました。

 貧乏だな。



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