006 これってファンタジー?
「誰か!助けて!」
助けを呼ぶ声が聞こえたので、森をかき分けて声がする方へ移動する。
アンドロイドの身体になった際に、世界の言語の知識はインプットされている。
助けを求める声は訛りがある英語だった。
英語はある程度話せていたので、インプットされた知識と合わせれば母国語の日本語の様に違和感なく聞き取れる。
その他の言語だったらもっと苦労していただろうな。
結構な速度で移動すると人工的な道がある場所にたどり着いた。
道と言っても舗装はされていない地面剥き出しの道だった。
おお! 道があるよ! 人がいるのか? 人類は全て削除とか言って気がするが?
声の主を探すと、六人の剣を持った黒い甲冑を着た男達が十歳ぐらいの豪華な服を着ている女の子を囲んでいて、それを守る様に一人の白い甲冑を着た長髪の女性が剣を構えていた。
周りには黒い甲冑が十人ほど白い甲冑が四人ほど倒れている。
既に息がなく死んでいるようだ。
「手こずらせやがって! 帝国に従っていれば死なずに済んだものを!」
「帝国に従うのであれば死んだほうがマシだ!」
黒い甲冑の兵士が帝国のようだ。
どちらが悪でどちらが正義かはわからないが、今の俺の身体であれば止めることが可能だと判断した。
接近して落ちている剣を拾って構えるとカッコよく決めてみた。
「暴力は良くない。どんな事情があるのかわからないが剣を収めないか?」
今まで俺の存在の気がついていなかった全員が、一斉に俺の方向を見た。
「何者だ!? なんだその服装は? 町民か? 笑わせてくれる」
「危ない! 彼らは危険だ! 早く逃げたまえ!」
黒い甲冑の兵士が馬鹿にするが、白い甲冑の女性は身を案じてくれる。
黒い甲冑の方が悪なんだろうな。
俺の服装は本当は裸なのだが体の表面の形を液化してナノマシーンで服に変形させている。元の世界のありふれたラフな服装だったので、町民に思われたようだ。
「ファイヤボール」
黒い甲冑の一人がそう叫ぶと、叫んだ兵士の右手から俺に火の玉が飛んできて直撃した。
服が燃えそうだが、液化金属をナノマシーンで変形させて服のように見せているだけなので燃えない。
多少あったかいと感じるが、火達磨になった俺は不思議な感覚を味わう。
魔法なのか?
異世界とかじゃなくて、これって未来だよな?
「なんだこいつは! 何故燃えていても平然としている!」
黒い甲冑の兵士が、驚いている。
「何をしている! 妨害する者は全て殺すんだ!」
「そ、そうだな!」
六人が剣を構えて襲いかかってきた。
身体の操作方法は分かっているので、高速演算を試して見る。
相手の動きが遅くなっていく。
俺の思考速度が上がっている為だ。
思考速度が上がっても、普通に動けるほど身体の性能が良いので余裕で避けて相手の剣に対して自分の剣を下から叩きつけて、六人の剣を吹き飛ばした。
「馬鹿な!」
「見えなかったぞ!」
「あり得ない!」
剣を失った六人が驚く。
「まだやるのか?」
「覚えていろ!」
黒い甲冑が、周囲にいた馬に向かって走り出した。
すぐに馬に乗ると道を駆け出し逃げていった。
振り返ると女の子と女騎士が、唖然としていた。
「黒騎士六人をたった一人で、撃退するだと! 名のある剣士様でしたか! 助かりました。出来るのであれば町まで護衛を依頼したい」
女騎士が驚きながらも依頼してきた。
町には行きたいので別に構わないと思った。
「構わない。田舎から出てきたばかりで世間に疎いのだが、お礼として情報を教えてもらえると助かる」
「そんなことで良いならなんでも聞いてくれ。こちらからも聞きたいことが沢山ある。私の名前はローズ・ベルだ。カッシ公国の第二王女の護衛をしている」
女騎士がローズと名乗ると、王女と思われる女の子が服についた埃を叩いて落としながら話し始めた。
「まずは、先程は助けてくださってありがとうございます。私はカッシ公国の第二王女のクシナ・カッシです。騎士様のお名前を伺ってもよろしいですか?」
先程の黒騎士撃退で名のある騎士と勘違いしているようだった。
後で訂正しておこう。
「俺の名前はタクマだ。流れ者で騎士ではないぞ? ある程度の剣術は出来るが基本だけだ」
体を機械化した際に剣術の知識も得たが、知っているとそれが実際に出来るかは別問題である。性能が高い体なので出来るといえば出来るのか?
「騎士でもないのにあの強さですか! 私の騎士としての自信を失いますね。 町まで後少しなのですが護衛をお願いできないだろうか?」
ローズが俺が騎士ではないと分かると、テンションが下がったようだ。
町には行こうと思っているから渡に船である。
「構いませんが、このままこの場所を放置しても良いのでしょうか?」
普段見ない死体が道に倒れている。このままにして良いのか?
「町に戻ったら冒険者ギルドの頼んで回収してもらいますから大丈夫です。乗って来た馬車や馬は使えないので半日ほど歩きますがよろしくお願いします」
周囲を見ると襲撃で乗っていた馬車は破壊されて、馬は逃げ出していた。
冒険者ギルド!?
冒険者なんて職業があるのか!?
未来のはずだが、どうなっているのかさっぱりわからない。
とりあえず一緒に町へ移動する。
移動する間は、特になにかに襲われる事はなかった。
数人の徒歩で活動していると思われる大きな荷物を背負った商人らしき人とすれ違う。
遥か未来のはずだが、時代が自分が元いた世界の中世程の雰囲気がある。
歩きながらローズが話かけてくるのだが全く理解できない事ばかりだった。
「タクマ殿は、何を目的として出てこられたのだ?」
「叔母にあたる人物を探す為ですかね?」
とっさに本当の事を言ってしまう。
「叔母? 失礼だがお名前を伺ってもよろしいか?」
「スズかな?」
「スズ? 世界を創ったと言われる創造主スズと同じ名前ですか?」
創造主? やな予感がする。
「一般的な名前ではないのですか?」
「名前には力があると信じられているので神々や英雄と同じ名前にする事はあまり推奨されていませんので、珍しい名前になるかと思います」
「その創造主様のフルネームはなんと言うんですか?」
「スズ・スドウ・ワールドですね」
確実に叔母だな……
「田舎から出てきた為に、俺は一般常識が足りない様なので創造主様に関して教えてもらえないでしょうか?」
「それは珍しいですね。良いですよ……」
ローズから世界の成り立ちを教えてもらった。
遠い過去に創造主スズが、多くの種族を創られた。
各種族を管理する神々も生まれてこの世界が広がっていった。
ドワーフやエルフ、魔物に魔族と叔母の家に回収にいったゲームソフトの設定みたいな世界になっていた。
これって完全に夏休みにやり込もうと思っていたゲームのパクリで創った世界じゃないか?
「魔法があるようですが、知ってる魔法の名前を教えてもらえますか?」
「魔法? 私は騎士なので身体強化の《パワー》と《アクセル》しか覚えていないがそれでよいか?」
確定のパクリだな。叔母に持っていかれた為に実際にゲームをプレイ出来なかったが、やり込む前に事前に調べていた攻略サイトで記憶がある魔法の名前が出てきた。偶然なんかありえないだろう……
だが、ここは地球だから魔法が使えるっておかしいだろう。何か超技術的な存在があるはずだ。
「実際に使ってもらえます?」
「構わない」
ローズが目を閉じてキーワードを発した。
「我に力を《パワー》!」
ローズの全身が薄く赤く光ったがすぐに消えた。
剣を抜いて地面を剣で叩いた。
ドッコン!
剣が当たった地面に小さなクレーターが出来ていた。
「こんな感じだな。連続で使用はできないが少し経てば、また使用できる」
全く原理がわからない! 体が光ったから空気中に何かあるのか?
とにかく落ち着くまでは、心は人間だが身体がロボットいやアンドロイドなのは、他の人には隠した方がよさそうだな。
ローズから情報を聞いている間に町へたどり着いた。




