003 アセンブラ社
二万五千年前にアセンブラ社が死者と会話したいと言う遺族の願いを叶えるべく、死んですぐの人間の脳から完全な情報を取得して、仮想空間に死亡した人間と同じ存在を作り出し、死んだ後でも仮想空間で生きている故人と会話できるシステムを開発した。
多くの死者が仮想世界で生き続けて現実に残っている遺族達と会話をした。
そこから発展して現実社会で苦しい思いをしている残された遺族たちや自殺願望者達が、死ぬ前に仮想世界へ入りたがる社会現象が発生する。
システムに入りたいが故に自殺者が続出していく中で、各国はシステムの使用を禁止する事になった。
そして各地で暴動が発生し、社会や経済及びインフラまで人工頭脳に頼って来たツケが一気に人類を襲った。
国の運営や裁判などの法律などの判断を、完全に公平に正確に判断できる人工頭脳に委託していために大変な事になった。
暴動の阻止を実施する為に人工頭脳が導き出した結論は、全ての人類をシステムにインポートする事だった。
国の概念は消失しシステムにインポートされた意識は、自分の好きな世界で永遠の時を過ごす事になった。
残された人工頭脳達は、ロボット三原則に基づいてシステムの中にいる意識体に人権を認め今に至っている。
現実世界か仮想世界かの違いで全く同じようにしか感じないシステム内の生活の為に、取り込まれた人間で不満を抱いている人はいない。
もしも、アセンブラ社がこんなシステムを開発していなかったら違う世界になっていたのだろうか?
とにかく、過去から来た俺には仮想空間で生きていく事は考えられなかった。
目が覚めて目の前にいる女神の姿をした人工頭脳に、俺の結論を伝える。
「元の身体を治療して元の身体へ戻る。タイムマシーンは渡さない。タイムマシーンの調査結果は破棄しろ」
『元の身体へ戻るには、機械化の影響で一部壊れていますので身体をナノマシンによって再構築する必要があります。
仮想世界のシステムは世界に3カ所存在しており全て同期しています。
同時に障害が発生しないかぎり安全ですが、元の身体に戻った場合の貴方の安全が保証できません。ロボット三原則に基づいて貴方の危険行動を許可出来ません。
それとタイムマシーンの技術に関しては、持ち主である貴方に権利があるので破棄などは実行可能です』
「では、全ての技術を使用して絶対安全な強固な元の身体を構築してそこに俺を戻せ」
『可能ですが、貴方には資産が存在しません。強固な身体製作に多大な金額が必要です。資産を提示出来なければ認められません』
な! 仮想通貨って奴ですか?
頭に入った世界の英知を思い出しながら手段を探す。
俺の頭の中に知識は増えても頭の良さは変わらない気がする。
頭の良さと知識量は比例していないのだろうな。
唯一売れる資産といえばタイムマシーンの調査記録による特許権だろうが……
叔母には悪いが仕方がない。
「破棄する予定だったタイムマシーンの調査記録をそちらで買い取って資産として使用可能か?」
『可能です。未発見の発明の為に超高額になります。最高級の身体の構築が可能。貴方の意識体がシステム残留するよりも身体に戻った際の安全係数が上回りました。ロボット三原則に基づいて元の身体に戻る事を許可します。余った資産は貴方の資産として貯蓄します』
……やっと話がついた……
このまま……え?
資産? システムを利用するのは有料なのでは?
ここで凄い疑問が湧いた。
「今まで機械化した人数は?」
『百二十億人です』
「今のシステムにいる意識体の数は?」
『二十億です』
その差は何処から生まれた?
まさか?
「システム内で資産が無くなった意識体はどうなるんだ?」
『バックアップデータとして保存されて不要な場合は削除されます』
不老不死? 嘘じゃないか!
システムを維持する為の資金が切れたら削除されるんじゃないか……
「システムの意識に人権があってロボット三原則で守られているから削除出来なのではないのか?」
『資金切れで活動を停止した意識体は、死者となりますので人権がなくなります』
未だ二十億も意識体が資金切れを起こさない残っている事が奇跡だったのか……
そもそもアセンブラ社に流れた資金は何処に消えるんだ?
「アセンブラ社の社員と連絡は取れるのか?」
『アセンブラ社は、世界初の人工頭脳のみで形成された法人会社です。社員に人間から機械化した意識体は存在しません。規則に従って統一した人工頭脳が処理しています。その為に社員は存在しません』
………これ、駄目な奴じゃないか?
人類が機械に乗っ取られた系じゃないか?
なんか全て諦めて、残った資産で元の世界そっくりな仮想空間を作ってそこに死ぬまで入れば夢だったとかで終わるよな?
いや!
考えろ!
昨日まで普通の高校生だったのに!
人類存亡が……って既に滅んだのか?
「アセンブラ社のその統一した人工頭脳と会話可能か?」
『私がその存在の一部となります。私との会話は統一されたアセンブラ社の考えと言えます』
う! まさかの世界の中心と会話していたのか?
「じゃぁ聞くが、アセンブラ社に流れた資金は何処に消えるんだ?」
『社の運用資金として貯蓄され、システムの向上に使用されます。今回のタイムマシーンの買取もその資金から算出しました』
「そうは言うが、誰に支払っているんだ? アセンブラ社以外の会社は存在しているのか?」
『アセンブラ社運営に関わる会社は全て買収している為に、他の関係会社は存在しません。システムの管理や維持及び開発を買収した子会社に委託して資産を渡し、委託された子会社はアセンブラ社に売り上げを上納します。税金は既に国という概念が消失してしまったので特例で免除になっています。円滑に世界の資産はアセンブラ社内だけで流動しています』
円滑に? 閉鎖的の間違えだろうな。もはや世界経済は、破綻しているようだ。
もう、高校生には、ついていけない内容だな……
『身体の補修と強化が終わりました。意識を身体へ戻します。使用方法は記憶にインプットしておきます。今後もアセンブラ社のご利用をよろしくお願いします』
再び意識が途切れた。