002 船内
白い船の中に連れてこられたようだ。
真っ白い広い部屋の中に一人で床に座り込んでいた。
照明がないのに非常に明るく、壁自体が光っているように感じる。
「すみません。どなたか話が通じる人はいませんか?」
暫く待ったが、何も変化がない。
これって、未来人とかじゃなくて宇宙人の宇宙船なんじゃないか?
とか思い始めた時に声をかけられた。
『旧言語の日本語ですか?』
「おお! やっと話ができる。そうです日本語です! 日本人です! なんかトラブルでここに来ました。助けてください!」
『私はアセンブラ社所属の管理番号23761の第十七世代型の人工頭脳です。有機生命体の人間に会うのは87,608,203時間振りです。どのような助けが必要ですか?』
待って? 何その時間!?
「時間だとわからないです! おおよそ何年振りなんですか?」
『おおよそ一万年振りぐらいです』
「一万年!? ほ、ほかの人達は?」
『それは、肉体を持った人類の事を言っているのでしょうか? もしそうならば全ていなくなりました。貴方が肉体を持った人類と言われる存在の最後の一人だと考えられます』
「え………? なんで!?」
『科学の進化と共に少子化が継続していき、人口が激減しました。地球を取り巻く環境も悪くなっていました。最終的に減少した人類は機械化を受け入れて肉体を持った人類は消えました』
「機械化とは何ですか?」
『個人を形成している記憶と知識。そして自我などを読み取って肉体を捨ててメンテナンス可能な仮想空間があるデータベースへ移動する事です』
映画で見たような事が本当になってしまったのか?
ギュルル。
朝から何も食べていないのでお腹が鳴った。
「とりあえず食べ物とかありませんか?」
『すみません。過去の資料にあるような食料を生産する施設は船内には存在しません。貴方からデータを吸い出す為の分析用の機材は多く存在しますので機械化による肉体からの脱却をお勧めします』
それって、死ねって事じゃないのか?
今現状の情報や知識がなくて恐ろしくて素直に従えない。
「いや。それやだから! そもそもこの船はなんなんですか?」
『環境調査用の検査船です。現在は機械化した人々が暮らしている施設が世界に3カ所存在します。地殻変動や突発的な現象でその施設が壊れない様に周囲を調査するのが主な仕事です。機械化を避けて多少の生存している人類がいましたので世界各地で救助活動もしておりました。最後の一人を保護してから一万年ほど経過して貴方が現れました。今までどの様に生きていたのか調査の観点から貴方の脳をスキャニングさせて頂きたい』
「スキャニングって?」
『脳の情報をデータとして読み取る事です』
それってさっき言った機械化そのものでは?
「とにかく、その機械化って奴はやりたくないです。自分でどうにかするので船から俺を降ろして、生活出来るような道具を貸していただけませんか?」
『………規約違反。こちらの提案を拒否。保護対象から施設に対する危険度が高い人物と判断して解析後に処分』
「ちょっと待って! 嘘です嘘です! スキャンして良いです」
『過去の事例を参照。冗談と言う場を和ませる嘘と断定。保護対象へ変更……わかりました。脳をスキャンさせていただきます』
なんか危なかった。いまこの存在に敵対されたら生き残れる気がしない。
俺の真下の床から突然椅子が出てきて、椅子に座らせられた。
天井からヘッドギアの様な物が出てきて頭に装着された。
どんな仕組みだ? まるで床や天井が液体の様に変化した。
頭に装着した装置から高周波が聞こえると、頭に殴られたような激しい衝撃が襲って意識を失った。
ーーーーー
目が覚めると真っ白い世界で椅子に座っていて、目の前にオフィース用の机と椅子が一組存在した。
目の前の椅子に何もない所から0と1の塊が現れて、女神のような女性の姿になった。
『ここが機械化後の仮想世界です。貴方の肉体はまだ存在しますが肉体に存在するデータを全てサーチして、仮想空間で再構築しています。病気も怪我もない世界で、不老不死で永久に人生を好きなように楽しめる世界です。あとは肉体を処分するだけですが何か不満でもありますか?』
突然現れた女神の様な女性が先程会話していた人工頭脳のようだ。
不満も何も、ここって仮想世界だろ?
自分を見て手足をを動かしてみる。
本当に仮想空間なのか? わからないほど現実に感じる。
「いや、死にたくないし仮想世界で生きていきたくないんですが? そもそも元の生活に戻りたいんだけど?」
『元の生活? 貴方の記憶データを分析したところタイムマシーンにより未来に来たと言う事であっていますか?』
「状況からしてそうなります。 これってなにかのドッキリとか夢とかじゃないですよね?」
『今、貴方が装備していた時計型のタイムマシーンを分析していますが夢ではなく現実です。結論から教えますが元の生活に戻る事は既に不可能です。脳から調査機器で強引にデータを引き出す際に、元の肉体は耐えきれずに脳死してしまいました』
「え? じゃあもう俺は死んだって事?」
『死んではいません。実際に今現在私と話していますし2万年前に脳の情報をデータとして仮想空間に構築した人は、人権を所得している法律が制定されましたので、ここにいる貴方が本人です』
まさか機械化が普通のことであって身体は服レベルの価値観になっていて、既に人間はみんな機械化するのが当たり前の時代だったのか?
認識が甘かった……
「元の身体に戻る事は本当に不可能なのか?」
『脳が一部焼き切れているので、元の身体をナノマシンで修復した後であれば可能ですが戻る必要はないはずですが? 何が不満なんでしょうか?』
不満しかないんだが? 突然未来に飛ばされて強引に機械化させられて一生仮想空間で生きるなんて納得出来ない!
そもそもどうしてこんな事になっているだ?
「俺が元いた世界から遥か未来だと思うのだが、これまでの歴史を教える事ができるか?」
『機械化した人間には、学習など一瞬です。では貴方の意識体に情報をインポートします。歴史ですね?』
この状況から抜け出す方法も模索したい。どうせなら貪欲に要求した。
「歴史以外にもらえる知識があれば全て欲しい」
『了解しました。付与可能な常識的な知識も加算します』
目の前に今までの人間の歴史と英知が流れてくる。
あまりの情報量に、再び気を失った気がする。
目が覚めると全ての事を理解したが納得出来なかった。
本当に3万年後の世界だった。
まずはタイムマシーンだが、今現在でも実用化されていない。
今回の事で時計型タイムマシーンの持ち主である俺に特許権が発生している。その情報は、俺の許可がないと公開不能になっている。
叔母が何処に消えたかわからないが、未来に飛ぶ前に見た不自然な円形の穴が開いた床があった事から、叔母も未来に飛んだと考えられる。
タイムマシーンの機能だが、簡単に言えば時間は不変ではなく移動速度によって変化する事を応用して未来に移動出来るシステムだった。
だが解析された時計型タイムマシーンの機能は未来に行くだけだった。
再度利用しても過去には戻れない。
この天才的な開発を実現した叔母が見つかれば、新しい発明があって過去に戻る手段が手に入るかもしれないが、世界中の公開されていない情報と隠蔽された情報以外を抜かして、世界の情報を手に入れたのだが叔母の情報はなかった。
元の時代に戻るには未来に飛んだと思われる叔母を探す必要がある。
そして現在の地球だが、世界の3カ所に存在する施設で二十億の肉体がない人間の意識が仮想空間で生活している。
好きな設定で好きなように仮想空間で全く現実と区別がつかない仮想の身体で活動している。
これって生きてると言えるのだろうか?
人間がここまで歪んだ進化をしたのは、二万五千年前にアセンブラ社が開発した装置によって引き起こされた事件が発端だった。