価値観
交代を慈悲なく断られたため仕方なく革袋を持ちながら揉めている彼等の方を覗き見る。……見覚えのある怒鳴っている奴は俺の肩を掴んだ男だろう。この半日が思っていたよりも濃すぎた為あまり覚えていないのだが、あんな感じの雰囲気をしていたのは覚えている。たまたま目があった魔術師らしき少女に会釈してから見続けるが……盗賊、剣士、剣士、魔術師、魔術師とバランスの取れたパーティの様に見えた。
分配が少なかったのか怒鳴っている魔術師らしき少年に、パーティリーダーなのかずっと中心で騒いでいる剣士の少年。盗賊の少女、剣士の少女は興味がないのか二人で話していた。会釈をしてしまったからか困惑している魔術師の少女から強い目線を感じるが、気の所為だろう。
「どうしたの?」
「いや、見てて面白……は流石に言い過ぎか?」
「……良いんじゃない?面白いのは間違いないし」
周囲を見渡してみても、あの光景が酒の肴にでもなるのか面白そうに眺めている集団が数多く存在した。流石に職員の人達はそこまで見ていなかったが、それでもこの建物にいるほぼ全員の視線を集めているのは間違いないだろう。限界まで詰められた革袋が少し視線を集めただけで終わったのは助かったが……、
「ああはなりたくないな」
「そうね」
「次の方どうぞ」
促されるがままに金属で出来た籠に全ての魔石を移動していく。ただ革袋をひっくり返しただけだが、ゴロゴロと流れていく魔石は見ていて少し気持ち良い物があった。
「G等級魔石が12個、F等級魔石が48個ですので5400dとなります」
そう言って渡された5枚の半銀貨と4枚の銅貨。半分に分けられないのは辛いものが有るが、両替をわざわざ求める訳にはいかずにそのまま受け取って建物を後にする。まだ揉めていた彼等が少し気になるのだが、わざわざ厄介事に近づく理由はないだろう。
「半分にすると1日分の宿にもならないわね」
「……そうか?」
「そうでしょ?」
俺の心の底からの疑問の声は、クミアの心の底からの疑問の声で覆い隠される。2700dもあれば少し良い所で雑魚寝をするか一番安い宿で部屋を取る事が出来る筈なので……クミアの認識は間違っているはずだ。
「私は昨日の夕暮れに来たのだけど……今泊まってる場所は1泊5000dよ」
「……へ、へぇー」
「何?」
今日の様に最高効率でゴブリンを倒し続けても足りない金額に声が強張るのを自覚しながら、2700dで泊まれる宿がないか周囲を探していく。宿らしい看板は遠くの方に数か所見つける事が出来たのだが、金額が分からない。受け取れる金額を2400dとして考えるべきなのだろうが……。
「何を探してるのよ」
「宿」
「宿?なんで?」
「いや、流石に野宿は……」
「私の泊まってる宿で良いんじゃないの?」
「金」
「金?……今日の分で足りてるじゃない」
……。確かに、クミアの分も含めれば足りるだろう。が、借りないで済むのならば借りないに越した事は無いのは間違いない。ただ、クミアにそういった意図が伝わらなかったのか再び俺を急かしながら歩き始めた。足取りからして明確な目的地、この場合は宿に向かっているのだろうが……、
「お、おい?俺は自分で宿を」
「わざわざ別の所に泊まるなんて面倒じゃない」
「……確かに、だけど金」
「借りるんじゃないの?宝箱から出たポーションとか全部私が持ってるんだし、そのぐらいのちょっとした金額なら上げてもいいわよ?」
2700dをちょっとした金と言われ、少し価値観の違いにクラっと来たが確かにクミアの言っている事も事実であり、何も言い返せなくなってしまった。宝箱から出たアイテムは確かにクミアのマジックポーチに入れてもらっている為、その分のお金という意味でも貰ってしまって何も問題ないだろう。まあ、その場合はポーションなどはクミアの所有物という事になるので俺が使った場合はその分の金額を払わなきゃいけなくなるだろうが。
「固定パーティならそんな細かい所は気にしなくて良いんじゃないの?」
「いや駄目だろ」
「……そう?」
俺の即答に対してクミアが驚きの声を上げていたが、この意見は変えられない。たとえ親しい中であっても金が原因で破局する事だってあるのだ。まだ信頼関係も浅く腕輪というマジックアイテムでしか繋がりの無い二人がそこら辺を頓着してしまったら、目も当てられない未来に成りかねない。
「ああ。とりあえず今日は2700d、俺がクミアから借りる。それで良いな?」
「良いけど……このままだと増える一方よ?」
「うっ……」
「明日は二層ね」
「……ああ」
楽しそうな声で、本当に楽しそうな声で二層へと行く事を告げるクミア。戦闘系スキルを一つも持っていない俺が最優先でレベルを上げるべきスキルは……やっぱり《自動地図化》だろうな。