隠し部屋
どうしたの?と問いかけてくるクミアに少し待ってもらい、改めて自分の位階を確認する。
……何があった?何をしたら位階が10にも上がる?
5年かけて8しか上がらなかった位階が、この数十分で2も上がっていた。特に変な事はしていない。魔物だってスライム一体しか倒していないし、迷宮を歩くぐらいの事しかしていなかった。
「……迷宮?」
研究員の誰かが立てていた仮説で、迷宮に関わる何かがあった筈だ。
思い出せ……なんだったか……確か、魂の行き場に関する仮説だったか?
倒された生き物は周囲に魂を撒き散らし、一部を討伐者に吸収されて死亡する。そんな仮説だった。その仮説に伴う実験が俺を使って行われ、部分的に成功したのは今も覚えている。研究結果は、確かに周囲に魂を撒き散らしていたという物。
魔物を倒さなくても日常生活だけで位階が上がる事の原因が、より確実なものになった瞬間だった筈だ。
俺の【歩行者】というスキルツリーは魔物から吸収できる魂が減る代わりに、日常生活における撒き散らされた魂の吸収量を増加させる物だというのが最終的な結論とされた。
ただ……前例もなかったので仮説で終わり、普通より劣っていると判断されたわけだが。
「そういや、まだ足りないって言ってた人いたな……」
「え?」
「いや、何でも無い。行くぞ」
研究期間が短すぎると上に直訴した人がいたらしいが、まあもう関係ない話だ。気が向いたら仮説は正しかったですよ、と伝えに行くのは良いかもしれないがそれまで生き残れるかは……怪しいな。
納得のいかなそうな顔をしているクミアを意図的に無視して進んでいくこと数分。
「ここだ。罠のスイッチが今俺がいる足元一歩先にあって、穴が開く場所は此処を中心とした半径1m」
「踏んでいいわよ、こっちは準備できてるから」
俺はまだ心の準備が出来ていないのだが、目を獰猛に輝かせているクミアを前に後ずさり……踏んでしまう。
「ぅおっ!?」
「きゃっ!?」
落下した時間は1秒にも満たないが、それでも突如感じた浮遊感は覚悟を決めていなかった俺だけでなく、準備が出来ているといったクミアにも驚きの声を上げさせた。
「……そんな押し方をするとは思わなかったわ」
「……俺も思わなかった」
「で、この後どうするの?」
「ちょっと待て」
隠し部屋がある方の壁を手探りで触っていき、登る為に有りますと自己主張する窪み何箇所かを確かめると……。
「これとこれ、あとそれとこれだな。同時に手を引っかければ開くぞ」
「じゃあ、そっちお願い」
「ああ」
言われるがままに目の前にあった窪み2つに手をかける。クミアも俺が言った場所を確かにかける事が出来たようで……ゴゴゴゴといった様な音を発しながら窪みが無かった部分の壁が開き始めた。
「へぇ……ルイス、罠は?」
「この部屋にも宝箱にも無い」
「良いわね」
道中で俺が場所を示したにも関わらず罠を踏みかけたクミアにしてみれば本当に嬉しい事だったのだろう。満面の笑みを浮かべながら宝箱へと近づいていった。中身の分け前は……やっぱり売れた代金の半分が妥当なのだろう。魔石数個はこの際別に良いので、半分の金が貰えれば十分だ。地図化を使ってここへと向かってきている同業者がいない事を確認してからクミアに続いて宝箱へと近づいていく。
「ねぇ、開けていい?」
「良いぞ」
「ありがと……あら、腕輪?2つ有るし1個もらうわ……これ、ルイスのよ」
「ああ、ありが……」
宝箱の中から出てきた2つの腕輪。全く同じ装飾、全く同じ紫色の魔石が埋め込まれた腕輪の片方を受け取り……
「待てっ!?」
「な、なに?」
「……遅かった」
クミアを止めるも、試しに付けてみようとでも考えたのか既に腕輪を装着していた。宝箱から全く同じ装飾の腕輪が出てくるなんて、対の何かとしか考えられなかった。マジックアイテムの中には装着すると外せなくなる類の物が沢山有るため……俺が危惧した事が事実だと、俺の腕輪は何の価値も産まない物となってしまった可能性も有るのだ。
「何か異変は!?外せないとか体調がおかしいとか!」
「……、外せないわね」
「はぁぁぁあぁぁぁ……ツリーに異変は?」
「……【念話10】が追加されてるわ。ただ、制限付きらしいけど」
「これ、か」
やはり、俺の手元に有る腕輪が対の存在となっているのだろう。……クミアの自業自得とはいえ、これで気軽に売れる物では無くなった。変な趣味の人間などには高額で売れそうだが……俺の良心が痛むので出来る気がしなかった。
「……あ、そういうことね。……ならルイス、固定パーティを組まない?」
「は?」