跳ねるか跳ねないか。乗るか乗らないか
「丸太じゃないですよ!!」
「……いや、でもランスじゃないわよね?」
「ランスです!かあさまが言ってました!光線のような太いレーザーこそがランスだって!」
「それだとレーザーじゃない」
「……あっ……でも、その」
「いや、もう良いから。次来るぞ」
クミアのツッコミに全面的に同意したくはあるものの、次の魔物を感知してしまったので話を切り上げさせる。感知した魔物がゴブリンな為、先程程警戒する必要は無いとはいえアーチャーがいる。警戒を怠っていたら万が一がありえてしまうだろう。
「それにしても、きりがないわね」
「そりゃ、モンスターハウスに向かってるんだし当たり前だろ。帰るか?」
「嫌よ」
「……ミルは?」
「沢山倒して沢山食べるんです!」
「……はぁ」
何故そんなに食欲が有るのか疑問に思いながらも、この様子なら本当に行かないと止まらないという事を察してしまったので地図に細心の注意を払いながら進んでいく。
「……あとちょっとでモンスターハウスだが」
「やっぱ見え無いわね」
「そりゃ、隠し扉で閉まってるからな」
内側にしかスイッチが無く、それでいて扉が閉まっている間は密閉空間になる場所だからこそ、大量の魔物が溜まってしまったのだろう。だからといってそこに宝箱がある理由にはならないのだが……。
「……どうやって行くのよ」
「向こうが開けてくれるまで待つ。多分1分もせずに開くぞ……帰らないか?」
「何を今更。ここまで来たんだから行くに決まってるでしょ」
「……はぁ。なら、初手の方法ぐらいは俺が決めさせてくれ」
「良いわよ?」
「じゃあ……出来る限りの全力魔法で範囲攻撃してくれ。方向はどこでも良い」
「分かったわ」
「分かりました!」
地図に表示されている魔物の数は100を超えている。先程のミルの魔法を使えば一掃出来る様な気もするが、それは一列に並んでいた場合だけ。今回のように大きな空間に自由に散らばられては一掃する事は難しいだろう……と思っていたのだが。
「何よ、簡単じゃない」
「簡単ですね!!」
「いや待てそれはおかしいだろ」
ミルの聖魔法とクミアの闇魔法が共鳴のような現象を引き起こして大爆発を発生させた。その規模は少し離れていた場所にいた俺達ですら耳がおかしくなり、揺れでたっているのが辛くなる様な大きさ。そんな大魔法を簡単に撃てる訳がなかった。
「……なんで?」
「ほら、倒せたんだから別に良いじゃない……って宝箱!?ルイス」
「あ、いや……その、な?」
「宝箱があったなら言いなさいよ」
「わぁー宝箱なんて初めて見ました!開けていいですか?」
「……良いわよ」
元々中身を知っている俺としてはそんなに興味が湧く様な物でもなく、クミアにしてみても今まで何度も宝箱を開けている訳だから……という事だろうが、ミルが宝箱を開けるのを許容していた。
宝箱の中身は《空間庫》のスキルが付与される腕輪。他にも多少のポーションや短剣などが入っているが、一番価値が有るものといえばそれになるだろう。あとは鍵がかかって開けられない箱も中に入っているのだが、それの中身は大量の指輪だった。
今まで見た宝箱の中で一番大量に物が入っているのは間違いなく、売れば途方もないお金になるのも間違いない。
「……売るか?」
「何を?」
ネックレスを掲げて『はわわわ……』とか言っているミルを尻目に、爆散している魔物達から魔石を回収している時に呟いた声はクミアにも聞こえていたようで、問返されてしまった。
「マジックアイテム」
「……あー、お金の事は気にしないで良いのよ?」
「それも有るけど、装備を整えたい」
「……」
装備を整えたいというのは間違いなく俺の本心だ。今の俺の装備は迷宮都市に来た時と変わらず、普段着に胸当て、ローブ程度しか装備できていなかった。クミアも俺を眺めた後何度か頷いていたので理解してもらえたのだろう。
「そうね、じゃあ私が買ってあげ──」
「クミアさんルイスさん!!これ、貰っていいですか!!」
「……ッチ」
「……良いと思うぞ」
無邪気にはしゃぎながら、首から下げて胸元に乗っているネックレスを示すミル。一目見て舌打ちしたクミアと見比べないように気をつけながら……、
「お、俺はこれを貰っていいか!?」
「腕輪、ですか?でもルイスさん両手に腕輪をつけるんですか?」
「いや、売る」
「それは私が貰うわ」
「えっ……」
「良いわよね?」
「あ、はい」
満面の笑みを浮かべて俺が欲した腕輪を受け取ったクミアに恐怖を覚えながら、無邪気にはしゃいでいるミルに全力で意思を送り続ける。
跳ねるなよッ、頼むから跳ねるなッ!