槍か丸太か
「あ、あのー……」
「どうしたの?」
「なにか?」
翌日、一人増えたことなど様々な要因──と言っても金が一番の理由なのだが──によって2層で問題なくいけるのならば3層に行くという取り決めで3層へと来ていた。
「いや、速すぎませんか!?」
「……まあ、そうね」
「そうか?」
1層の4倍程度の広さを誇る2層だったが、ある程度の地図を埋めた段階で3層への転移魔法陣を見つける事が出来ていたから3層へと移動していた。確かに、2層での戦闘は数度しかこなせていないので3層へと移動するのは早かったかもしれない。
「次、前方ゴブ2、アーチャー1、ウルフ2」
「分かったわ」
「え、あ《ハイエンハンス》」
ミル曰くハイエンハンスは全ての身体能力を倍率で上げてくれるものらしいので、俺は早く動けるなぁ程度にしか感じないのだが……クミアは、
「……まだ足りないわね」
「いや、おかしい」
圧倒的速度で後ろにいたアーチャーを蹴散らし、その後にウルフ、ゴブリンを共に一撃で沈めていく。クミアの持っている武器が短剣なので、何処からそんな攻撃力が出てくるのか一切理解できなかった。
自動地図化の範囲内に表示される圧倒的な数の魔物達の中から、再び此方へと向かってくる集団を見つける。
「また来た。ウルフ6」
「も、戻りませんか!?」
「まだまだ行けるわよ」
「え、でも、その……」
「倒せばその分だけご飯食べれるわよ」
「頑張ります!!!」
「……」
帰りたいという同じ意見だったミルもあっさりとクミアの言葉に惑わされてハイエンハンスを連発していく。やることがほぼ無い俺は魔石の回収以外する事が無く、魔石を取り出した後の死体を迷宮に吸収されるまで邪魔なので通路の端へと寄せて退路を確保していく。見渡す限りにある死体の数、匂いに少し顔を顰めながらもそろそろ戻りたいとクミアに遠回しに進言する。
「クミア!もう死体で道埋まるんだけど!?」
「なら前に進むわよ!」
「いや、だからそっちモンスターハウス!?」
いくら深層へ行けば行くほど魔物が増えるとはいえこんなに連続して出てくるのは流石におかしく、原因であるモンスターハウスを見つける事も出来ていたのだが……それを言った時のクミアの返答は頭がおかしかった。『そっちにお宝が有るのね』……と。意味がわからない。
「モンスターが沢山いるって事はお宝が有るって事でしょ!」
「いや、その理論はおかしい」
確かに、俺の脳内地図にはモンスターの群れの中心部にお宝が表示されている。が、今まで感じた中で一番大きな空間内に有るので、いくらクミアとはいえ俺とミルを守りながら戦えるとは思えなかった。
「ミル、ご飯沢山食べたいわよね?」
「はい!頑張ります!!」
「ちょ、おい!?」
アドバイス通りにスキルツリーを変化させ、身体能力の底上げには成功していたが未だパーティ内で一番弱い俺の意見を気にする事無くどんどんと前へと進んでいくクミアとミル。一応魔石の回収は手伝ってくれているし、マジックポーチも渡されているので俺の仕事量はそこまで多くないのは間違いない。だけど……
「次!なんかでかいウルフ5!」
「多分ウィンドウルフの群れね。……行けると思うわ」
「あ、あのー……魔法使いましょうか?」
ウィンドウルフの群れと判断して少し思案したクミアに不安を覚えたのか、魔法を使う事を提案したミル。俺の脳内地図で見れる魔力量などではまだ余裕が有るので問題無さそうだが……。
「ルイス」
「良いと思う」
「じゃ、お願い」
「分かりました!……ホーリランス!!」
「「えっ」」
ホーリーランス。色々とツッコミどころが多いのだが、青い光を発しながらその丸太?は一直線で進んでいき……全てのウルフを粉砕した。
「ホーリー?」
「ランス?」
「……ホーリーって聖属性よね?なんで使えるの?」
「ランス……?丸太じゃなくて?」